魔法使いアルル

かのん

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第二百二十六話

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 バシバシとロッテンベイマーを机をたたき、声を荒げた。

「生徒は教師のいう事を聞いていればいいのです!学校とは、そういう場でしょう!」

「そう。ですが、学校とは勉学だけが全てではありません。学校とは、人と人の関わりを学ぶ場でもあるのです。それが分からないロッテンベイマー先生ではないでしょう。」

「ふん!確かに学校にいる人たちは人的環境として大いに生徒達に影響をもたらすでしょう!だからこそ、厳しく生徒に接しなければなりません。」

「はぁ。ロッテンベイマー先生。貴方には今ここで話をしても難しいようだ。学園長がお呼びです。学園長室へと行ってください。」

「学園長が?」

 学園長の名前が出た途端、ロッテンベイマーは少し焦った様子で頷くと、きっと生徒らを睨みつけてからバタバタと部屋を出て行ってしまった。

 ニーンは大きくため息をつくと、魔法を使って床に散らばった鏡を片付け、部屋を元通りに戻すと、生徒らに席に着くように言った。

 ニーンが返ってきたことで皆笑顔が戻り、席に戻ると安堵の表情を浮かべている。

 ミーガンも笑顔でニーンを見ており、アルルもほっと胸をなでおろした。

「皆には、僕が居ない間に苦労をかけたみたいだね。」

 ニーンがそう言うと、生徒達は一斉にしゃべり始めた。

「本当だよ!」

「ロッテンベイマー先生はとっても怖かった!」

「あんなに話を聞かない人は初めてだよ!」

「ニーン先生が返ってきて良かった。」

 さまざまな声が飛び交い、それらはニーンが杖で文字を広い、黒板に描かれていく。

 それをまじまじと見ながら、ニーンは真剣な表情で言った。

「それで、キミたちはロッテンベイマー先生に勝負を挑んだということかい?」

「そう。皆で作戦を考えたんです。」

 自身をもって生徒らはそう答えたのだが、ニーンの言葉は予想外のものであった。

「まずは、勇気を出して行動を起こしたこと、それは、僕は素晴らしい事だと思う。けれどね、方法はどうだっただろうか。考えてみて。」

 ニーンが返ってきた言葉にお祭りムードだった教室が、一瞬にしてシンと静まり返る。

 一人一人が、ニーンの言葉に頭の中で思案する。

 そして、ミーガンが最初に手を上げて言った。

「作戦は・・・少し軽率だったかもしれません。」

 その言葉に、実のところほとんどの者が同意していた。

 ニーンが来てくれたから良かったものの、もしロッテンベイマーが本気で魔法を使って自分達を傷つけようとした場合、自分達がどうなったかは分からない。

 ニーンはミーガンの言葉に満足そうにうなずくと言った。

「その通りだ。格上の魔法使いを相手にする場合、真正面から行動するのは馬鹿のすることだ。」

 はっきりとそう言ったニーンは言葉を続けた。

「何故、他の先生を頼らなかったんだい?」

「え・・・だって。」

 皆が口をつぐんだのを見て、ニーンは言った。

「いいかい。キミ達はまだ子どもだ。だから、いくらでも大人を頼ってもいいんだ。」

 その言葉に、皆が息を飲んだ。

 何となくだが、他の先生には頼ってはいけない気がしたのだ。

 けれど、それをニーンは違うと言う。

「いいかい。教師という存在は、キミ達子どもから見てみれば、絶対正義のように感じるかもしれない。だけどね、違うんだよ。先生達だって皆のお手本であろうとはするけれど、失敗もする。同じ人だからね。」

 そう言うと、ニーンは黒板の文字を消して映像を映し出し始めた。

 そこには、少しでも子ども達が理解できるようにと教材を作ったり、模擬授業を誰もいない部屋で行うロッテンベイマーの姿が映っていた。窓の外は真っ暗なのに、仕事をする姿に、子ども達は驚いた。

「教師という仕事は、時間がいくらあっても足りない。君達にどうやったら分かりやすく伝わるか、教師自身も悩み、思案し、試しながら授業を行うんだ。まぁ、行事の仕事や保護者への案内とか、その他の方も大変なんだけどね。」

 ニーンは笑みを浮かべると言った。

「先程のはロッテンベイマー先生の魔法について気づいた事がある人はいる?」

 その言葉にアルルは手をあげて答えた。

「魔法を調整して、私達が怪我をしないようにしているように思ったよ。」

 その言葉に生徒らは驚いているようだった。

 ニーンはうなずいた。

「その通り。我々教師は、魔法の未熟な君達を教えるという立場から、様々な制約はあるけれど、傷つけなければ魔法は使用許可が出ている。ロッテンベイマー先生は確かにくせのある先生だ。けれどね、良いところもある。」

 その言葉に嘘だと言わんばかりの表情を生徒らは浮かべる。

「けれど、今回は君達には辛い思いをさせた責任はとってもらう。威圧的な態度や、暴言は見逃せないからね。けれど、出来れば今後の為に、ロッテンベイマー先生の良いところも見つけてごらん。」

「僕達、ロッテンベイマー先生は嫌いだよ。」

「ははっ!はっきり言うね。嫌いなら嫌いでいいんだ。けれど、嫌いだと思う人と君達はこれからもたくさん出会うかもしれない。その度にその人を排除していくのかい?」

 その言葉に、クラスはシンとなった。

 ニーンは言った。

「たくさん考えてごらん。それじゃあ、授業を始めるよ?」

「えっ!授業するの?!」

「当たり前だろう。さぁさぁ、教科書を出して!」

 悶々とした心のまま、皆は机から教科書を取り出した。


 

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