魔法使いアルル

かのん

文字の大きさ
上 下
50 / 76

第二百十八話

しおりを挟む
 
 必要なのは発想の転換。

 魔法陣を発動させないようにするのではなく、ここで発動させなければいいのだ。

 五人は背中合わせに魔法、そして魔術の力を発動させていくと、力を込めていく。

 この国全土を覆うほどの巨大な魔法陣である。

 大きければ大きいほどに魔力を必要とするのは当たり前であり、五人の力はごっそりと一気に持って行かれる。

 キースは耐えながらも片膝をついたが、アルルとレオが片手をキースの背へと当て、魔力を分けていく。

「アルル!レオ!」

 二人から流れてくる大量の魔力にキースは目を丸くした。

 二人は杖を振るいながらも笑みを浮かべて言った。

「私とレオの魔力は多いから。」

「キース、踏ん張れよ。」

 二人に励まされ、キースはもう一度立ち上がると力を込める。

 悪魔ゼロに命じられた他の悪魔達は、自分の付く人間達の周りに結界を張り、こちらの力の干渉から逃れられるようにしてもらう。

 万が一にでもこちらの魔力を邪魔されたり、流れを変えられてしまえば上手くはいかないだろう。

 そうならないためには、悪魔全員の協力が必要だった。

「悪魔達は上手くいっているようじゃの。」

 アロンはそう呟くと、こちらの力に呼応し始めた魔法陣を見た。

「よし、力が満ちたな!ころあいじゃ、さぁぁぁ、ひと踏ん張りじゃぞぉおぉ!」

 バチバチと魔力の火花が散り、五人の周りに線香花火のような光が舞う。

 次の瞬間、その線香花火の光が地面に描かれていた魔法陣へと引火するようにして広がり、魔法陣は色を変えると地面からはがれ始めた。

「さぁぁぁぁっ!持ち上げるぞぉぉぉぉ!」

 アロンの言葉に息を合わせ、魔法陣を上空へと持ち上げるためにさらに魔力を込めていく。

 魔法陣はゆっくりと持ち上がり始め、そして魔術の国の上空へと浮かび上がったのであった。

「アルル!レオ!まだ魔力は残っているかの!?」

「もちろん!」

「大丈夫!」

 ヴィンセントとキースは顔を青ざめさせてその場にへたり込んでいる。

 あれほどの巨大な魔法陣を空へと地上からはがして持ち上げたのだから仕方のない事だろう。

 おかしいのは、アルルとレオとアロンの魔力の量の方だ。

 三人は杖を合わせると、魔法陣に向かって魔法を放つ。

 次の瞬間、巨大な魔法陣の周りに結界が張られ、そしてその瞬間に上空の魔法陣が発動し青い光を放った。

 皆がそれに眩しげに目を背ける中、アルル、レオ、アロンの三人はその魔法陣を真っ直ぐに見つめたまま、結界に魔力を注いで維持させた。

 ゆっくりと、役目を果たした魔法陣は空気に溶けるかのように消えていった。

 アルルとレオは大きく息を吐くとその場にへたり込んで笑った。

「ふふふ!上手くいった!」

「やったね!」

 キースはふらつきながらも二人に抱き着くと、瞳いっぱいに涙をためて言った。

「ありがとう!ありがとう!」

 アルルもレオも、嬉しそうに言った。

「グリコに勝ってキース良かったね!」

「そうじゃなかったら、一大事だったね。」

 二人のその言いように、キースは一瞬きょとんとした後に、大爆笑したのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

処理中です...