魔法使いアルル

かのん

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第二百八話

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 手が震え、顔からどんどんと血の気が引いていくのが分かった。

 母が亡くなった日の事は自分なりに受け止めて、前を見ようと極めたのに。

 あの日の父の目が甦る。

 自分を拒絶する目がちらつく。

 あんな風にはなりたくないと思った。

 強くあらねばならないとも思った。

 その時、固く握りしめた手を温かなものが包み込んだ。

「大丈夫?」

 アルルはキースの前にいつの間にかいて、キースの顔を覗き込みながら、自分の手で固く握りしめていた両手を包み込んでいた。

「手、冷たい。大丈夫?キース?」

 思わず、その温かさに涙がでそうになって歯を食いしばって堪えると笑みを浮かべようとした。

 笑えと自分に命じた。

「ははっ。大丈夫って何が?」

「キース。」

 アルルの瞳が真っ直ぐに自分を写しているのが分かった。

 何故かそれがひどく心を揺さぶる。

 何故?

「大丈夫だって。」

「、、、そっか。分かった。」

 アルルはふわりと微笑むと、キースの手を離した。

 手から温もりが離れてしまう。

 思わずパッとキースはアルルの手をつかんだ。

 それにアルルは苦笑を浮かべた。

「椅子持ってくるから、待って。」

「え?」

 アルルは椅子をキースのすぐ近くの横に移動させるとキースの手をぎゅっと握った。

 レオもキースに椅子を近づけて反対側に座った。

 二人に挟まれたキースは、その温かな距離に目頭が熱くなった。

「僕達がついているからさ。」

「一緒にキースのお父さんと話をしに行こう?」

 うつむき、キースはコクりとうなずいた。

 ゼロはそれを見ながら微笑むと言った。

「キースは良き友を得たな。」

「友?」

「あぁ。」

 父のようになるのは嫌だと思った。

 だから、唯一の人なんて作らないと決めた。

 けれど、決めてからこんなにも心がほっとすることはあったか?

 不安を誰かが受け止めてくれたか?

 女の子と遊んでもどこか心は冷めていた。

 キースはアルルとレオを見つめた。

 二人はにこりと笑うと、キースの頭を撫でた。

 アルルはいつもアロンが自分にしてくれるように優しく撫でた。

 あぁ。

 他の人を寄せ付けなくなっていたのは父だけではなかったのだ。

 自分もまた、同じように他の人を拒否していたのだ。

 二人の手のひらから伝わってくる温かさにキースは堪えきれずに涙を流した。

 母を失ってから初めて涙を流した。

「ありがとう、、、二人とも。」

 自然とこぼれたその言葉にアルルもレオもただただ苦笑を浮かべて、頭を撫でてくれた。




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