魔法使いアルル

かのん

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第二百五話

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「魔術の国の成り立ちは知っているか?」

 悪魔ゼロは尻尾をパタパタと揺らすと楽しげな様子でそう言った。

 それに三人はうなずいた。

「では、成り立ちの続きからだな。」

 ゼロは、少し考えたのちに三人に話を始める。


 そもそも悪魔と契約できる者は限られているらしく、魔術の国の範囲にいる人々は悪魔と契約できる体質なのだという。

 そうした体質の者が強く願った時、悪魔は姿を現し、古より願いを叶える代わりに対価を受け取っていたという。

 悪魔とはそもそも実態はあるようで無く、生きているとも死んでいるともいえるような存在だという。

 そんな悪魔達は永遠ともいえる時間の中で暮らしていた。

 そして、そんな中で悪魔にもある願いが生まれた。

 人間と言う生き物にしてみれば、なんだそれはと思うかもしれない。

 だがしかし、悪魔にとっては憧れ、恋い焦がれるほどの願いだった。


 それは、願いを叶えてきた人と共に、過ごしてみたいと言うもの。


 だが、それは実際には叶えられるはずもなかった。

 何故ならば、悪魔自身には、その願いを叶えるすべがないからだ。

 しかし、それが、始まりの魔術師との間の契約で果たせることになった。

 死体となっても、その人はその人である。

 しかも対価として受け取ることが出来るのであれば、自分が納得するまで一緒にいることが出来るのである。

 それは悪魔にとっては、最高の褒美であった。

 だからこそ、悪魔は対価に死体を願ったのだ。



 そこまで話を聞いたアルルは目を瞬かせると口を開いた。

「ということは、さっき外でお茶を飲んでいたのは。」

「願いを叶え終えた悪魔達だ。死んでしまってはいるが、主である人との時間を楽しんでいる。」

「生きている間に、話せばいいのに。」

 思わずアルルがそう言うと、ゼロは噴き出すように笑い声をあげた。

「はは!人が悪魔と一緒に話をしたいわけがないだろう?」

 その言葉にアルルは首を傾げた。

「そうかな?そんなことないと思うけど。キースはどう思う?」

 問われたキースは、ゼロから聞いた真実にしばらくの間呆然としていたのだが、アルルの言葉にはっと意識を戻すと、言った。

「俺は、自分と一緒にいる悪魔となら、別に話をしたって、お茶をしたって、いいけど。」

 その言葉にゼロが目を丸くした。

「いやいやいや。そんなわけはない。それにな、俺達悪魔は願い事を叶えるすべなんてない。」

 レオはその言葉にキースに尋ねた。

「キースはどう思う?ゼロは悪魔としてこれまでずっと生きてきてるから、そう思い込んでいるんじゃないかな?」

 キースはゼロを見ると、うなずいた。

「うん。その、別に願い事ってしなくても、話をしようって言われたらするし、お茶を飲もうって言われたら、いいよって答えるけど、、、。」

 ゼロはその言葉に眉間にしわを寄せると首を傾げた。

「本当にか?いや、だが、俺達悪魔は永遠に存在するからな、、、。」

「もしかして、死体とずっと一緒に話をしているの?」

 思わずぞっとした表情でアルルがそう言うと、ゼロは首を横に振った。

「いや、悪魔が納得をして故人を見送るまでだ。長くても十年くらい、、だな。故人を見送ったらまた違う人と契約をするものもいるし、もう契約をせずにいるものもいる。」

「え?契約してもしなくても悪魔はいいの?」

「うーん。なんと説明したらいいのか、契約をすることで姿を悪魔は保つことが出来る。契約をしなくなっても見えなくなるだけだな。」

 その言葉に三人は思わず顔を歪ませた。

 悪魔という摩訶不思議な存在の感情は分からないが、それはそれで辛いような気がした。

 

 





 
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