魔法使いアルル

かのん

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第百九十一話

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 アルルは部屋でゆっくりと休むようにと案内されると、ベッドに座り、大きく息を吐いた。

 これまでの事がウソのように、アロンもいるしレオもいる。その事がアルルにはとても、とても嬉しい事であった。

 部屋がノックされたかと思うと、レオが顔をのぞかせた。

「アルル?大丈夫?」

 心配して見に来てくれたのだろう。

 アルルはうなずくと、ベッドをぽんぽんと叩いた。

「こっちにおいでよ。」

「うん。」

 空は暗くなり、フクロウの鳴く声が聞こえた。

 アルルの横にレオは座ると、しばらくの間何も言わずに足をぶらぶらとさせていた。

「アルル。」

「なぁに?」

「おかえり。」

 その言葉に、アルルは顔を上げるとレオに視線を向けた。

 レオは、自分の足を見ながら息を吐くと、自分の手で目元をぬぐった。

「迎えに来るの遅くなってごめん。」

 その様子にアルルはあわてると、レオの手を取り首を横に振った。

「大丈夫だよ?だって、絶対にお父さんもレオも来てくれるって信じてたもん。」

 レオは顔を上げると、涙のたまっている瞳でじっとアルルを見つめて言った。

「魔術は、かなり強力なもので、、、僕とアロン先生以外の記憶は変えられていたんだ。多分、僕とアロン先生は魔術の国が関わってくるという事で事前に守護魔法と防御魔法を掛けていたから大丈夫だったんだと思う。けどね、僕、、、アルルに謝らないといけない。」

「なぁに?」

「ここに来るまでの間、何度もアルルの事を知らないふりをしなきゃいけなかった。」

「え?」

「皆がアルルの事を忘れていて、僕は覚えているのに、、、それに同意するみたいに会話をした。僕は、アルルが辛い目にあっている時に、アルルの事を覚えていないふりをしたんだ。」

 レオの瞳から涙があふれて、レオは嗚咽を漏らしながら泣き声を上げた。

「ごめん。、、、アルルが怖い思いをしていたのに、、、本当にごめん。」

 レオは優しいなと、アルルは思った。

 アルルだって馬鹿じゃないからレオがそうしなければならなかった理由だって分かる。それに、皆が自分の事を忘れているのだってシュリレの魔術のせいだと分かっている。

 それでも二人が覚えていてくれたことが嬉しいし、皆が忘れてしまっていたことは仕方ないと分かっている。

 レオが謝る必要はないのに、泣きながら謝ってくれるレオにアルルは苦笑を浮かべた。

「レオ?大丈夫だよ。レオは悪くないし、皆だって悪くない。」

 本来ならば誰も覚えていなくてもしかたない。

 お父さんとレオが覚えていてくれただけでも奇跡なのである。

「アルルは、大丈夫だった?」

 レオの瞳に、アルルは頷いた。

「大丈夫だよ。でも、体を無理やり動かされるってすごく嫌な気持ちになるんだっていうのは分かった。」

「そう、、、だよね。」

「うん。それにね、実は、朝が来るのが怖い。」

「え?」

 時計の針の音が聞こえ、レオは思わず時計に視線を移した。

 アルルはその視線を追うように時計を見ると、静かに言った。

「時間が過ぎて朝が来て、そしたら人形にされるの。動きたくないって思っても無理やり動かされるの。それがね、とても気持ちが悪かった。」

 レオはその言葉に唇を閉じて奥歯を噛んだ。

 悔しい。

 アルルを助けたのは結局キースである。

 それがレオを何とも言えない気持ちにさせていた。

 こんな感情初めてで、レオは胸を押さえた。

「ねぇレオ。」

「ん?なぁに?」

「今日、一緒に寝てもいい?」

 アルルの手はレオの手を掴み、震えを抑えようとしているのが分かった。

 レオはうなずいてその手をぎゅっと握った。

「うん。一緒に寝よう。」

「ありがとう。」

 胸の痛みの原因は分からなかったけれど、今は胸がいっぱいになっている。

 レオはにっこりと笑った。

「夢でも会えるといいね。」

「そうだね。おやすみ。」

「うん。おやすみ。」

 ベッドはふかふかで、その上二人で眠るととても暖かく感じた。

 アルルもレオも、お互いの暖かさですぐに、幸せな夢の中へと旅立った。
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