17 / 76
第百八十五話
しおりを挟む数日が立ち、アルルは来る日も来る日も少女にアロンもレオもお前の事など忘れていると言われ続け、目の下には深い隈が出来上がっていた。
それを少女は面白そうに笑ってはお化粧をアルルに施して見えなく隠していた。
この数日で分かったことは、少女の名前はシュリレ。魔術の国の魔術師であり、アルルに街で声をかけてきたキースの事が好きだという事。
そんな少ない情報しか手に入っていない。
後は、自分と同じように人形として働いている子どもが13名いて、全員がそれを良しとして生きていると言う現実であった。
辛い数日間であった。だが、希望もある。
明日、アロンとレオが魔術の国に来ることになっており、シュリレは進んで二人に滞在する場所として自分の屋敷を進めたと言う。
もちろん、記憶を失った二人を見て、絶望するアルルが見たいからである。
シュリレは事ある毎にアルルに絶望を刻むように呟く。
「お前は忘れられている。」
「その程度の子なの。」
「むしろお前が居ない方が皆が幸せ。」
そう呟かれるたびに、そんな事はないと自分に言い聞かせるが心が黒く染まるような感情に包まれる。
そんな夜の事であった。
アルルが丸まり、大きく息を吐いた時であった。
暗闇の中に入口が開きその中から黒い衣服に身を包んだノアとドリーが現れたのである。
ドリーはアルルの顔を見た瞬間に、笑みを浮かべるとアルルをぎゅっと抱きしめてきた。
「あぁ、アルル様。」
アルルは二人から逃げる気力もなく、されるがままになっているとノアが優しい声で呟いた。
「ここは姫君とは相性の悪い国ですねぇ。姫君、一緒に行きますか?」
二人の周りの闇はアルルと会えたことを喜ぶように揺れている。
だが、アルルはドリーを引き離すと、立ち上がり、二人から距離を取った。
「行かない。私は、、、家に帰るんだもの。」
その様子にドリーは悲しげに言った。
「そのまま闇に心を許してしまえばいいのに。アルル様。闇に心を開いて。」
アルルは首を何度も横に振った。
その様子を見てノアは肩をすくめる。
「魔術師と魔法使いは相性が悪いんですよ。もう、ここに私達が居る事もばれている。」
「アルル様!」
ノアはそう言うが、アルルは首をまた横に振ると、小さく息を吐いてから言った。
「ノアもドリーも早く逃げて。私の為にわざわざ来てくれたんでしょう?」
入口の闇の入口が揺らいでいる。きっとこの国に道を繋ぐのは相当な苦労があったはずだ。
アルルのその言葉に二人は目を丸くした。
アルルはニコリと笑みを浮かべると言った。
「ほら、見つからないうちに行って。ふふ。私はそっちには行かないよ?」
アルルの笑みは明らかに強がりだったのだが、その笑みのまま、アルルは二人に言った。
「私はそっちには行かない。二人がいつか、私の傍においでよ。」
その言葉に二人は驚き、だが次の瞬間大きく入口が揺れたのを見てノアはドリーの腕を引っ張り闇の入口へと戻る。
「その元気があれば大丈夫ですね。ですが姫君、呼んでくださればいつでも迎えに来ますからね。」
「私もですよ!アルル様!」
アルルが二人に手を振った時、闇の入口は消え、二人の姿は消えた。
そしてその代わりにシュリレが現れ、怒りに燃える顔でアルルを睨みつけた。
「私の屋敷に闇を開いたのはお前か!」
怒りを宿したシュリレの顔はまるで鬼のように歪んでいた。
0
お気に入りに追加
2,637
あなたにおすすめの小説
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
川の者への土産
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・京助はある日の見回り中に、川木拾いの小僧である正蔵と出会う。
正蔵は「川の者への土産」と叫びながら、須川へ何かを流す。
川を汚そうとしていると思った京助は、正蔵を始末することを決めるが……
*
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる