16 / 76
第百八十四話
しおりを挟む
太陽の日が昇る前に、子ども達は動き始め、そして牢から進んで出て行く。
その様子を真っ赤に腫らした目で見つめていたアルルは思わず子ども達に声をかけた。
「ねえ、おはよう。」
どうにか声が震えないように、頑張って元気に言ったつもりだった。
それでも声は震えていて、かすれてしまった。
一瞬、何人かがアルルを見て目を瞬いたが、すぐに何の感情も移さないような表情に戻ると、何も言わずに歩いて行ってしまった。
昨日の少年がアルルも外に出るように促すが、アルルは壁に張り付いて動かなかった。
「私は、、、昨日みたいに人形になるのは嫌。」
少年は困ったように頭を掻くと静かに言った。
「あのね、そんな事をしても無駄だよ?時間が来れば、ほら。」
アルルの体は勝手に外へ出ようと動き始める。
「いや、私は嫌!」
そう声を上げた。
抵抗するように、必死に足を止めようとした。
それでも、体はいう事を聞かなくなり、そして昨日のように操られる。
それはまるで人形。
アルルは悲しくて、悔しくて、辛くて心の中で泣いた。
昨日と同じように廊下を進み、そして大きな薔薇の絵の描かれた扉を開けると、中に昨日の少女がいる。
少女は眉間にしわを寄せた。
「何その不細工な顔。目が腫れているじゃない。やぁね。」
そう言うと少女はアルルの足を蹴ってきた。
「今度そんな顔で来たら、お仕置きをするわよ。あぁ。そんな不細工な顔を見せないでちょうだい。反省室で反省しておきなさい。」
アルルの体は勝手に動き、そして反省室と呼ばれる小さな箱の中に入ると、明かりが消え、真っ暗になった。
他の者達にとっては真っ暗闇は怖いかもしれない。
けれど、アルルにとってはまだ操られるよりは暗闇の方がほっとできた。
できる事なら、ずっとこの暗闇の中にいたいくらいに、心が穏やかになる。
だが、その時、外側から箱を蹴られ、アルルの心臓は跳ねた。
「ふふふ。良い事を教えてあげるわ。」
少女の声がしたかと思うと、少女は楽しそうに笑いながら言った。
「お前の父親であるアロン様がこの国に来ることが決まったわ。ふふ。」
お父さんが来る?
アルルの心に光がともり、心の中で歓声を上げた。
だが、その期待は一瞬にして暗闇へと落とされる。
「けどね、貴方の事なんて覚えていないわよ?」
『え?どういう事?』
心の中でアルルはそう声を上げた。
「だって、私が魔術で、貴方の記憶を、全部、消しちゃったから。」
喉の奥がひゅっとなった。
何と言った?
記憶を、消した?
「ふふふ。会えるのが楽しみねぇ。貴方の事なんて一切覚えていない王子様とお父さん。会うのが楽しみでしょう?」
意地の悪い少女の声が響く。
お父さんが、レオが、私の事を忘れた?
そんなわけない。
一緒に誕生日のお祝いをしてくれた事も、遊んだ事も、冒険をした事もアルルの心には宝物のようにしっかりと残っている。
忘れるわけがない。
「忘れるわけがないとでも、思っているんでしょう?」
檻をたたく音が響き、そして少女の笑い声がこだまする。
「ざーんーねーん。忘れているわよ。綺麗さっぱりね。」
『嘘だ!ウソだ!嘘だ!お父さんもレオも、私の事を忘れるもんか!』
忘れるもんか!
だって、ずっと一緒にいたんだ。
楽しい時には一緒に笑って、辛い時には泣いて、一緒にいた。
大好きだって言ったら、ギュッとしてくれた。
私の事を大切にしてくれた。
一つ一つの思いでが、心の中に残っている。
それを忘れるわけがない!
忘れる、わけが、ない!
「忘れたの。だって、私の魔術は一級品だもの。」
そんなわけない。
絶対に、絶対に。
そんなわけない。
アルルは心の中で泣き叫んだ。
自分の瞳からは涙が落ちないけれど、心は悲鳴を上げて泣いている。
アルルはそれでも絶対にお父さんもレオもきっと覚えていると信じた。
その様子を真っ赤に腫らした目で見つめていたアルルは思わず子ども達に声をかけた。
「ねえ、おはよう。」
どうにか声が震えないように、頑張って元気に言ったつもりだった。
それでも声は震えていて、かすれてしまった。
一瞬、何人かがアルルを見て目を瞬いたが、すぐに何の感情も移さないような表情に戻ると、何も言わずに歩いて行ってしまった。
昨日の少年がアルルも外に出るように促すが、アルルは壁に張り付いて動かなかった。
「私は、、、昨日みたいに人形になるのは嫌。」
少年は困ったように頭を掻くと静かに言った。
「あのね、そんな事をしても無駄だよ?時間が来れば、ほら。」
アルルの体は勝手に外へ出ようと動き始める。
「いや、私は嫌!」
そう声を上げた。
抵抗するように、必死に足を止めようとした。
それでも、体はいう事を聞かなくなり、そして昨日のように操られる。
それはまるで人形。
アルルは悲しくて、悔しくて、辛くて心の中で泣いた。
昨日と同じように廊下を進み、そして大きな薔薇の絵の描かれた扉を開けると、中に昨日の少女がいる。
少女は眉間にしわを寄せた。
「何その不細工な顔。目が腫れているじゃない。やぁね。」
そう言うと少女はアルルの足を蹴ってきた。
「今度そんな顔で来たら、お仕置きをするわよ。あぁ。そんな不細工な顔を見せないでちょうだい。反省室で反省しておきなさい。」
アルルの体は勝手に動き、そして反省室と呼ばれる小さな箱の中に入ると、明かりが消え、真っ暗になった。
他の者達にとっては真っ暗闇は怖いかもしれない。
けれど、アルルにとってはまだ操られるよりは暗闇の方がほっとできた。
できる事なら、ずっとこの暗闇の中にいたいくらいに、心が穏やかになる。
だが、その時、外側から箱を蹴られ、アルルの心臓は跳ねた。
「ふふふ。良い事を教えてあげるわ。」
少女の声がしたかと思うと、少女は楽しそうに笑いながら言った。
「お前の父親であるアロン様がこの国に来ることが決まったわ。ふふ。」
お父さんが来る?
アルルの心に光がともり、心の中で歓声を上げた。
だが、その期待は一瞬にして暗闇へと落とされる。
「けどね、貴方の事なんて覚えていないわよ?」
『え?どういう事?』
心の中でアルルはそう声を上げた。
「だって、私が魔術で、貴方の記憶を、全部、消しちゃったから。」
喉の奥がひゅっとなった。
何と言った?
記憶を、消した?
「ふふふ。会えるのが楽しみねぇ。貴方の事なんて一切覚えていない王子様とお父さん。会うのが楽しみでしょう?」
意地の悪い少女の声が響く。
お父さんが、レオが、私の事を忘れた?
そんなわけない。
一緒に誕生日のお祝いをしてくれた事も、遊んだ事も、冒険をした事もアルルの心には宝物のようにしっかりと残っている。
忘れるわけがない。
「忘れるわけがないとでも、思っているんでしょう?」
檻をたたく音が響き、そして少女の笑い声がこだまする。
「ざーんーねーん。忘れているわよ。綺麗さっぱりね。」
『嘘だ!ウソだ!嘘だ!お父さんもレオも、私の事を忘れるもんか!』
忘れるもんか!
だって、ずっと一緒にいたんだ。
楽しい時には一緒に笑って、辛い時には泣いて、一緒にいた。
大好きだって言ったら、ギュッとしてくれた。
私の事を大切にしてくれた。
一つ一つの思いでが、心の中に残っている。
それを忘れるわけがない!
忘れる、わけが、ない!
「忘れたの。だって、私の魔術は一級品だもの。」
そんなわけない。
絶対に、絶対に。
そんなわけない。
アルルは心の中で泣き叫んだ。
自分の瞳からは涙が落ちないけれど、心は悲鳴を上げて泣いている。
アルルはそれでも絶対にお父さんもレオもきっと覚えていると信じた。
0
お気に入りに追加
2,638
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる