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第一章

 熱の正体 55

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 国王らとの話し合いが終わり、グリードは自室に戻ると、大きくため息をついた。



 窓を開け、ため息を外に追い出すように月を仰ぐ。



 春の風は穏やかで、いつもならば心地よく感じるはずがそれすらも不快に感じる。



「はぁ、、なんでフィリアが、、」



 今までは、いつでも自分の腕の中へとフィリアを抱き締める事が出来た。だが、フィリアに先に釘を刺されてしまった。



『私が4人と話したりするのを邪魔しちゃだめですからね?』



 それに、衝撃を受けた。



 フィリアが、他の男に笑顔を向け、話しかける。それを自分は止めてはいけないという衝撃。



 ただ指をくわえて見ていろというのか。



 大きなため息が漏れる。



 自分の胸を抑えると、ぎしぎしと音を立てるように痛んでいるのが分かる。



 自分は、フィリアを独占したいのだ。



 だれにも触れさせたくない。



 けれど、それが許されない。



 その時、部屋がノックされ、フィリアが部屋に入ってきた。



「グリード?少しいい?」



「あぁ。どうした?」



 フィリアはすたすたと部屋に入ってくると、そのままゆっくりとグリードを抱き締めた。



 グリードは困惑し、思わず身を固めた。



「グリード?」



「どうしたフィリア。」



 服越しにフィリアの体温が伝わってくる。胸の中がそわそわとしてくるのが分かる。



「私の演技力楽しみにしていてね。」



 その言葉に心が沈む。



「、、、演技なんだよな?」



 フィリアは顔を上げ、グリードを見上げて唇をとがらせた。



「当たり前でしょう。私はエマ、クロエラ、マリア、シェーラを裏切るわけないじゃない。」



 その上目遣いはとても可愛らしく、グリードの手は無意識にフィリアの頬を撫でた。



 柔らかな肌に、ドキリとする。



 フィリアはその手にすり寄るように顔を寄せ微笑んだ。



 心臓がドクリと音を立てたのが分かった。



「ありがとうグリード!なんだか元気が出てきたわ。私全力で頑張るわ!」



 そういうとグリードの腕からするりとフィリアは抜け、笑顔で手を振ると「おやすみなさい。」と部屋から出ていった。



 嵐のように現れ消えたてしまった。



 だが、その痕跡は残り、グリードの心を踏み荒らす。



 心臓が鳴る。



 手に残るフィリアの感触が蘇る。



 肌の体温の心地よさに思い知らされる。





 顔が赤くなる。



 全身の血が沸騰しているのではないかと感じた。



「これは、、なんだ?」



 ドクリドクリと、心臓は鳴り止まず、グリードは自身の中にある熱に、翻弄される。



 そして、その熱の正体に気づいた時、グリードは衝撃を抑えられず、夜の空に飛び立ち、明け方まで戻る事はなかった。



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