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十話 やっと婚約破棄です!
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舞踏会場には結構な人数がいるというのに、私が歩けば皆が道を開けるものだからハリーまでの道は一直線に開いた。
マリアはまるでこちらを怖がるようにハリーに身を寄せている。
先ほどまでは響いて聞こえていた皆の声が静まり、今は音楽の音と私の足音だけが異様に響いて聞こえた。
「ハリー様、マリア様、こんにちは。お二人とも、ペアの衣装が似合っておりますね」
私がにこやかに声を掛ければ、ハリーはマリアの腰を抱き、私を睨みつけた。
「私が彼女にプレゼントしたのだから、似合わないわけがないだろう」
その言葉に、マリアは頬を赤らめて少し照れたように笑った。
私はマリアの姿を見つめた。
庇護欲をそそるような外見と、自由気ままな性格。天真爛漫と言えば聞こえはいいだろう。
彼女と出会って、ハリーは全て変わってしまった。
私は、ハリーのことをじっと見つめた。
恋愛感情は昔から抱いたことがない。けれど、もしもマリアがいなければ自分はきっとハリーと順風満帆に結婚していただろう。
彼のことが嫌いではなかったし、王妃という役目についても仕方がないと諦めていたはずだ。
けれど、そんな”もしも”は訪れなかった。
この世界の強制力というものなのだろうか。
じっとハリーを見つめていると、ハリーは自分の従者に命じて書類を持ってこさせると、それを私の目の前へと突きつけた。
「リリー。お前がこんな陰湿な性格だとは知らなかった。マリアを虐め、そればかりか他の生徒を使ってマリアを孤立させているとはな」
じっと話を聞いていると、マリアは私をきっと睨みつけてきた。
「リリー様は、本当にいじわるです!」
そんなマリアを支え、ハリーは言った。
「私の隣に立つべき女性にお前は相応しくない。よって、リリーとの婚約を破棄し、マリアを私の正妃へと迎えるつもりだ」
声高らかに宣言され、私はほっと息をついた。
やっと終わりが来たのだ。
内心、ハリーにこれまでありがとう。さよならなんてことを考える。
これで私は楽しみにしていた田舎暮らしを手に入れたと思った時だった。
「だが、リリー、お前のこれまでの努力自体は、認められるもの。故に、賠償金を支払えばお前を側妃の座へと迎え入れよう」
「は? 側妃でございますか???」
ハリーの言葉に、私はちらりと国王陛下と王妃殿下がカーテン裏で控えているであろう場所を見た。ぷるぷると震えている様子から、出てくる予定だったけれどハリーの言葉が衝撃過ぎて動けずにいるということだろう。
「それは、まぁ、どうしてそのようなお考えになったのか・・・」
私はどうしたものかと思っていた時であった。
「はははっ。本当に面白い余興だなぁ」
響き渡った声はアイザックのものであり、アイザックは珍しく正装姿で美しく着飾っていた。
「アイザック?」
今まで公の場に現れることを極端に嫌がっていたのに。
もしかして、私のために来てくれたのだろうか。
「アイザック……何故この場にお前が?」
他の貴族らはいったい誰だろうかというような顔を浮かべている。
ハリーはアイザックを睨みつけ、マリアは何故かアイザックの姿に見惚れるように頬を赤らめている。
会場内の令嬢らは、突然現れた美しくアイザックに目を奪われている。
「残念ながら、リリーに婚約破棄を宣言した時点で、お前の未来は決まったよ。そうですよね? 国王陛下」
会場内にアイザックの声が響き、王族の座る上座から国王陛下と王妃殿下が姿を現した。皆が頭を下げ、そして国王陛下は静かにため息をつくと口を開いた。
「顔を上げよ。はぁ。誠に残念だ」
ハリーは突然の出来事に何が起きているのだと戸惑っている様子であったが、マリアが引っ付いてくるので身動きが取れない様子である。
私はその姿を見ながら、哀れに思った。
婚約破棄、言っちゃったもんね。うん。ありがとう。
私はにっこりと晴れやかな微笑みを浮かべて、国王陛下を見つめた。
「正式にハリーとリリー嬢の婚約破棄を認める。ただし、非があるのはハリーのみ。リリー嬢はこれまでよくやってくれた。大義であった」
会場内にハリーが息を飲む音が聞こえた。
「この一件については、皆にはまたおって知らせる。関係者はついてきなさい」
会場内は少しざわめきが起こる。
「ハリー殿は終わりだな」
「まぁ、仕方ないだろう」
「そうですわよ。あのお美しいリリー様を捨てて側妃にしようなんて考える方に王位など継げませんわ!」
そんな会話が会場内には広がっていった。
ハリーは意味がわからないというように、足早に国王陛下を追いかけた。
私は、婚約破棄の宣言を思いだし、顔がにやつくのをやめられなかった。
マリアはまるでこちらを怖がるようにハリーに身を寄せている。
先ほどまでは響いて聞こえていた皆の声が静まり、今は音楽の音と私の足音だけが異様に響いて聞こえた。
「ハリー様、マリア様、こんにちは。お二人とも、ペアの衣装が似合っておりますね」
私がにこやかに声を掛ければ、ハリーはマリアの腰を抱き、私を睨みつけた。
「私が彼女にプレゼントしたのだから、似合わないわけがないだろう」
その言葉に、マリアは頬を赤らめて少し照れたように笑った。
私はマリアの姿を見つめた。
庇護欲をそそるような外見と、自由気ままな性格。天真爛漫と言えば聞こえはいいだろう。
彼女と出会って、ハリーは全て変わってしまった。
私は、ハリーのことをじっと見つめた。
恋愛感情は昔から抱いたことがない。けれど、もしもマリアがいなければ自分はきっとハリーと順風満帆に結婚していただろう。
彼のことが嫌いではなかったし、王妃という役目についても仕方がないと諦めていたはずだ。
けれど、そんな”もしも”は訪れなかった。
この世界の強制力というものなのだろうか。
じっとハリーを見つめていると、ハリーは自分の従者に命じて書類を持ってこさせると、それを私の目の前へと突きつけた。
「リリー。お前がこんな陰湿な性格だとは知らなかった。マリアを虐め、そればかりか他の生徒を使ってマリアを孤立させているとはな」
じっと話を聞いていると、マリアは私をきっと睨みつけてきた。
「リリー様は、本当にいじわるです!」
そんなマリアを支え、ハリーは言った。
「私の隣に立つべき女性にお前は相応しくない。よって、リリーとの婚約を破棄し、マリアを私の正妃へと迎えるつもりだ」
声高らかに宣言され、私はほっと息をついた。
やっと終わりが来たのだ。
内心、ハリーにこれまでありがとう。さよならなんてことを考える。
これで私は楽しみにしていた田舎暮らしを手に入れたと思った時だった。
「だが、リリー、お前のこれまでの努力自体は、認められるもの。故に、賠償金を支払えばお前を側妃の座へと迎え入れよう」
「は? 側妃でございますか???」
ハリーの言葉に、私はちらりと国王陛下と王妃殿下がカーテン裏で控えているであろう場所を見た。ぷるぷると震えている様子から、出てくる予定だったけれどハリーの言葉が衝撃過ぎて動けずにいるということだろう。
「それは、まぁ、どうしてそのようなお考えになったのか・・・」
私はどうしたものかと思っていた時であった。
「はははっ。本当に面白い余興だなぁ」
響き渡った声はアイザックのものであり、アイザックは珍しく正装姿で美しく着飾っていた。
「アイザック?」
今まで公の場に現れることを極端に嫌がっていたのに。
もしかして、私のために来てくれたのだろうか。
「アイザック……何故この場にお前が?」
他の貴族らはいったい誰だろうかというような顔を浮かべている。
ハリーはアイザックを睨みつけ、マリアは何故かアイザックの姿に見惚れるように頬を赤らめている。
会場内の令嬢らは、突然現れた美しくアイザックに目を奪われている。
「残念ながら、リリーに婚約破棄を宣言した時点で、お前の未来は決まったよ。そうですよね? 国王陛下」
会場内にアイザックの声が響き、王族の座る上座から国王陛下と王妃殿下が姿を現した。皆が頭を下げ、そして国王陛下は静かにため息をつくと口を開いた。
「顔を上げよ。はぁ。誠に残念だ」
ハリーは突然の出来事に何が起きているのだと戸惑っている様子であったが、マリアが引っ付いてくるので身動きが取れない様子である。
私はその姿を見ながら、哀れに思った。
婚約破棄、言っちゃったもんね。うん。ありがとう。
私はにっこりと晴れやかな微笑みを浮かべて、国王陛下を見つめた。
「正式にハリーとリリー嬢の婚約破棄を認める。ただし、非があるのはハリーのみ。リリー嬢はこれまでよくやってくれた。大義であった」
会場内にハリーが息を飲む音が聞こえた。
「この一件については、皆にはまたおって知らせる。関係者はついてきなさい」
会場内は少しざわめきが起こる。
「ハリー殿は終わりだな」
「まぁ、仕方ないだろう」
「そうですわよ。あのお美しいリリー様を捨てて側妃にしようなんて考える方に王位など継げませんわ!」
そんな会話が会場内には広がっていった。
ハリーは意味がわからないというように、足早に国王陛下を追いかけた。
私は、婚約破棄の宣言を思いだし、顔がにやつくのをやめられなかった。
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