お馬鹿な主人公は、お馬鹿なりに頑張る。

かのん

文字の大きさ
上 下
26 / 31

第二十六話 お腹いっぱいにご飯が食べたい。

しおりを挟む
 賢者は美味しそうに水梨の実をむくと、皿に盛って出してくれた。

 ユグドラシルは物語の中の食べ物を自分も食べれることに喜びを感じ、遠慮なくそれを口に運んだ。

 だが、次の瞬間ユグドラシルは驚いて目を丸くしてしまう。

 口に含んだその瞬間に、口の中で水梨の実は弾け、まるでジュースを飲んでいるように甘い蜜が口いっぱいに広がったのである。

 ユグドラシルの表情はだらしなく緩み、そして横を見てみれば、ルシフェルの顔も、ロロワロールの顔もだらしなく緩んでいた。

「おいしい。」

「うん。おいしい。」

「うまいのぉー。」

 三人はそれから会話もなく黙々と食べ続け、皿にのっていた実が全てなくなってから気合を入れて表情に力を入れた。

 ユグドラシルはこれまでの経緯と、仲間に加わってほしいと言う願いを口にすると、ロロワロールは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。

 ユグドラシルは、今はとにかく待つだけだと座っていたのだが、水梨の実の味を知ってしまった今、気になるのは岩の亀の手の味である。

 水梨の実はとてつもなく美味しかった。

 ならば恐らくあの岩の亀の手も相当な美味であろう。

 ゴクリと、ユグドラシルが喉を鳴らすとロロワロールは苦笑を浮かべて言った。

「そんなに緊張せんでもいい。一つ聞きたいんだがいいか?」

 ユグドラシルは、頭の中から岩の亀の手の味を想像していたことを必死に追い出すと、ロロワロールに視線を向けて頷いた。

「お前さんに、何の利益がある?」

「え?」

 ユグドラシルはその言葉に、利益という言葉を考えてみた。

 利益。

 自分の利益。

 ユグドラシルは視線を泳がせると、ふっと思いついた言葉を口からこぼしていた。

「おいしい、ご飯がお腹いっぱいに食べられる?」

 そう。

 きっと平和になれば今よりも仕事もしやすくなるだろうし、町だって平和になる。

 そうなれば、恐らく今よりもお腹いっぱいご飯が食べられて幸せになれる。

 うん。

 これだな。

 利益とは、お腹いっぱいにご飯が食べられることだ。

 ユグドラシルが何の迷いもない瞳でへにゃりと笑ったのを見て、ロロワロールは言葉を失った。

 真理だと思ったのだ。

 亡国のかたき討ちだとか、民の為だとか、そう言った事を口に出していたならば、この娘も所詮ただの人の子かと思っただろう。

 だが、違う。

 ご飯がお腹いっぱいに食べられる。

 その通りなのだ。

 結局の所人は食べねば生きていけない。そして食べる為には国が平和になる事が最も必要な事なのだ。

 国が平和であれば食べ物があり、そして飢えがない。飢えがないという事は人々の生きる活力となる。人々が生き生きと活動していくと経済は潤う。経済が潤えば国は栄える。

 真理だ。

 ロロワロールは笑みを返すと頷いた。

「良いだろう。力を貸そう。」

 何と言う逸材か。

 ロロワロールは、ユグドラシルの求めるご飯がお腹いっぱいに食べられる国が見たくなった。



 

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

拉致られて家事をしてたら、カタギじゃなくなってた?!

satomi
恋愛
肩がぶつかって詰め寄られた杏。謝ったのに、逆ギレをされ殴りかかられたので、正当防衛だよね?と自己確認をし、逆に抑え込んだら、何故か黒塗り高級車で連れて行かれた。……先は西谷組。それからは組員たちからは姐さんと呼ばれるようになった。西谷組のトップは二代目・光輝。杏は西谷組で今後光輝のSP等をすることになった。 が杏は家事が得意だった。組員にも大好評。光輝もいつしか心をよせるように……

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...