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第二十六話 お腹いっぱいにご飯が食べたい。

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 賢者は美味しそうに水梨の実をむくと、皿に盛って出してくれた。

 ユグドラシルは物語の中の食べ物を自分も食べれることに喜びを感じ、遠慮なくそれを口に運んだ。

 だが、次の瞬間ユグドラシルは驚いて目を丸くしてしまう。

 口に含んだその瞬間に、口の中で水梨の実は弾け、まるでジュースを飲んでいるように甘い蜜が口いっぱいに広がったのである。

 ユグドラシルの表情はだらしなく緩み、そして横を見てみれば、ルシフェルの顔も、ロロワロールの顔もだらしなく緩んでいた。

「おいしい。」

「うん。おいしい。」

「うまいのぉー。」

 三人はそれから会話もなく黙々と食べ続け、皿にのっていた実が全てなくなってから気合を入れて表情に力を入れた。

 ユグドラシルはこれまでの経緯と、仲間に加わってほしいと言う願いを口にすると、ロロワロールは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。

 ユグドラシルは、今はとにかく待つだけだと座っていたのだが、水梨の実の味を知ってしまった今、気になるのは岩の亀の手の味である。

 水梨の実はとてつもなく美味しかった。

 ならば恐らくあの岩の亀の手も相当な美味であろう。

 ゴクリと、ユグドラシルが喉を鳴らすとロロワロールは苦笑を浮かべて言った。

「そんなに緊張せんでもいい。一つ聞きたいんだがいいか?」

 ユグドラシルは、頭の中から岩の亀の手の味を想像していたことを必死に追い出すと、ロロワロールに視線を向けて頷いた。

「お前さんに、何の利益がある?」

「え?」

 ユグドラシルはその言葉に、利益という言葉を考えてみた。

 利益。

 自分の利益。

 ユグドラシルは視線を泳がせると、ふっと思いついた言葉を口からこぼしていた。

「おいしい、ご飯がお腹いっぱいに食べられる?」

 そう。

 きっと平和になれば今よりも仕事もしやすくなるだろうし、町だって平和になる。

 そうなれば、恐らく今よりもお腹いっぱいご飯が食べられて幸せになれる。

 うん。

 これだな。

 利益とは、お腹いっぱいにご飯が食べられることだ。

 ユグドラシルが何の迷いもない瞳でへにゃりと笑ったのを見て、ロロワロールは言葉を失った。

 真理だと思ったのだ。

 亡国のかたき討ちだとか、民の為だとか、そう言った事を口に出していたならば、この娘も所詮ただの人の子かと思っただろう。

 だが、違う。

 ご飯がお腹いっぱいに食べられる。

 その通りなのだ。

 結局の所人は食べねば生きていけない。そして食べる為には国が平和になる事が最も必要な事なのだ。

 国が平和であれば食べ物があり、そして飢えがない。飢えがないという事は人々の生きる活力となる。人々が生き生きと活動していくと経済は潤う。経済が潤えば国は栄える。

 真理だ。

 ロロワロールは笑みを返すと頷いた。

「良いだろう。力を貸そう。」

 何と言う逸材か。

 ロロワロールは、ユグドラシルの求めるご飯がお腹いっぱいに食べられる国が見たくなった。



 

 
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