上 下
17 / 31

第十七話 発光する光

しおりを挟む
 ユグドラシルとガジェラルらは場所を移動し、ガジェラルの住む暗黒の城へと足を踏み入れていた。

 その外装は黒曜石であり、怪しく輝くその城は、恐ろしさをさらに引き立てているように思えた。

 一室に案内されたユグドラシルとルシフェルは、人型の魔人らが城の中で働いているのを見て少し驚いていた。

 人型の魔人はほとんど確認された事がないとされており、おそらくそんな姿をまじかで見ることが出来るのはユグドラシルくらいのものであろう。

 ガジェラルの城は封印されし森の中央に位置し、その禍々しい力が最も濃い場所となっていた。

 ユグドラシルは周りをきょろきょろと見まわしながら、城の内装のそのあまりの美しさに目を奪われていた。

「ルシフェルすごいねぇ。なんか、かっこいいね。」

 森の清らかな自然を愛するルシフェルにとっては、禍々しいこの城のどこがかっこいいのかさっぱりわからなかったが、その言葉を否定するわけにもいかずただ黙っていた。

 そして、ユグドラシルの目の前に出されたお茶らしきものを目にしたルシフェルは息を飲んだ。

 黒々としたその飲み物は、絶対に普通の人が飲んではならない代物だろうと一目で分かる。

「さぁ、冷めないうちに。」

 ガジェラルにそう促され、ルシフェルが止める間もなくユグドラシルはにこにことした表情でそれを口にした。

「どうだ?」

「おいしぃ。チョコレート?」

「ほう。チョコレートを知っているか?これは人の国にはない物だと思ったのだが。」

「え?えーっと。はい。その、本で!本で読んで知っていたのだと思います。」

「本?あー。あの、人が文字で書き残した書物か。」

「はい。」

「人間とは本当に面白い物を発明するものだ。それで、本題に移る前に、名を名乗っておこう。私はこの森の王であるガジェラル。そなたは?」

「私はユグドラシル。こっちが精霊の王のルシフェル。」

 ルシフェルは姿を変えると、ユグドラシルの横に座った。

 その牽制するような様子に、ガジェラルは笑みを浮かべると言った。

「精霊の・・王か。では、ユグドラシルは何なのだ?」

「私?」

 自分について聞かれるなど思っていなかったユグドラシルは、自分自身で亡国のお姫様なんですとは言うのが恥ずかしくて、どうしようかと考えているうちに、ルシフェルが口を開いた。

「彼女は我らが姫君。精霊の守護を受けし乙女だ。」

 ユグドラシルはそれを聞き恥ずかしさに内心身悶えた。

 ガジェラルはそれを聞き、目を細めるとユグドラシルを見て言った。

「なるほどな。では、先ほどの取引について話を聞こうか?」

 ガジェラルの言葉に、ユグドラシルはほっとすると、表情を引き締めて言った。

「あの光の正体を私は知っていて、それを取り除くことも出来ます。」

「ほう。それで?あれは何だ?」

 あまり信用してほいないのだろう。ガジェラルの言葉は冷たいものだったが、ユグドラシルはにっこりと笑みを深めると言った。

「その前に取引です。」

「ふん。取引内容は?」

「あれを取り除く代わりに、私の見方になっていただきたい。」

「味方?まさか、人同士の戦争に我らを使おうというのか?」

 その言葉にユグドラシルは目を丸くすると慌てて首を横にふった。

「まさか!その逆です。」

「逆?」

 ユグドラシルは満面の笑顔で頷いた。

「はい。戦争に加担しないで下さい。」

 その言葉に、ガジェラルもルシフェルも目を丸くするのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢の幸せは新月の晩に

シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。 その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。 しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。 幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。 しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。 吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。 最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。 ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

処理中です...