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十に
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光葉は布団に寝かせられた雪女の着物を、童らと共に脱がした。
その瞬間、まるで蛇のような黒い物がうねりを上げて宙へと舞い、そしてこちらを威嚇するようにして睨みつけると、雪女の体へと入り込んで動かなくなり、陶器のように白い雪女の肌に黒々とした呪が巻き付いた。
光葉はその様子を見て息を呑んだ。
昼間に妖怪達の呪というものを洗い流していったから、光葉には自分にならば簡単に出来るのではないかという楽観的な考えがあった。
だが、この現実を見て、その楽観的な考えのままでいられるほど、光葉はバカではない。
夜叉は正しい。
光葉の力が一体何なのかも分からない状態で使うべきではないのだ。
光葉自身も、その力を知ったのはつい先ほどであるし、それに何より呪というもの事態が何なのか、それすらもよくは分かっていない。
そんな状態で自分の力を使い誰かを救う事が出来るかもしれないなんて、甘い考えだ。
けれど。
光葉は苦しみ、痛みに苦悶の表情を浮かべる雪女を見て心を決める。
迷っている場合ではないのだ。
出来る出来ないの問題ではない。
自分にもし出来るという可能性があるならば、やらなければならない。
光葉は襷を掛けると、自身の両方の頬を叩き、気合を入れるとお湯に布をつけ、よく絞る。
それから童達には雪女の両手両足をしっかりとつかんでいてもらい、ゆっくりとその黒い蛇のような呪を布で拭き始めた。
「ひゃぁぁっぁ!」
妖力が暴走しているのか雪女の体を押さえつけていた童達の両手が凍り、部屋の中が吹雪のように荒れ狂う。
そればかりではなく、雪女の肌にまとわりつく呪が光葉の手から逃げ回るようにして移動をはじめ、光葉は呪を布で追って拭こうとする。
だが、雪女の力によって布は凍りつき、温かだったはずのたらいに入ったお湯にも氷が張っている。
「誰か、火を扱う妖怪はいない?!」
光葉の声に反応するように、部屋の中に火が灯ると、狐の妖怪達が狐火によって部屋を暖め、凍った水を溶かした。
光葉はもう一度布を狐たちが温めなおしたたらいのお湯につけ、そして雪女に声をかけた。
「今、呪を洗い流します。だから、頑張って。」
そう言った瞬間、雪女がわずかに頷くように動いた。
光葉は雪女の肌を逃げ回る呪に布を押し付けると、肌を傷つけないように丁寧に拭いていく。
「お願い。消えて。」
黒い蛇のような呪はどんどんと小さくなり始め、その逃げ惑う姿を光葉は追って布を動かす。
そして、ミミズほどに小さくなった呪に布を押し付けると両目を閉じて祈った。
「消えて。雪女さんから、居なくなって!」
光葉の声に反応してか、呪のあった場所から黒々とした煙が巻き上がった。
光葉は宙に漂うそれを驚いたようにじっと見つめると、黒い煙の中からこちらを覗き込む眼が見えて息を飲んだ。
人だと、光葉は思った。
黒い闇を映す人の眼が、光葉をじっと見つめていた。
「や、夜叉様!」
思わず光葉が恐怖からそう叫ぶと、夜叉は戸を開けて部屋へと入り、黒い煙を瞳にとらえると腰に差していた刀を引き抜き、その黒い煙を切った。
『光・・・・。』
そう、聞こえた。
光葉は一体何が起こったのか分からず震えた。だが、その瞳が消える瞬間まで目を放す事が出来なかった。
その瞬間、まるで蛇のような黒い物がうねりを上げて宙へと舞い、そしてこちらを威嚇するようにして睨みつけると、雪女の体へと入り込んで動かなくなり、陶器のように白い雪女の肌に黒々とした呪が巻き付いた。
光葉はその様子を見て息を呑んだ。
昼間に妖怪達の呪というものを洗い流していったから、光葉には自分にならば簡単に出来るのではないかという楽観的な考えがあった。
だが、この現実を見て、その楽観的な考えのままでいられるほど、光葉はバカではない。
夜叉は正しい。
光葉の力が一体何なのかも分からない状態で使うべきではないのだ。
光葉自身も、その力を知ったのはつい先ほどであるし、それに何より呪というもの事態が何なのか、それすらもよくは分かっていない。
そんな状態で自分の力を使い誰かを救う事が出来るかもしれないなんて、甘い考えだ。
けれど。
光葉は苦しみ、痛みに苦悶の表情を浮かべる雪女を見て心を決める。
迷っている場合ではないのだ。
出来る出来ないの問題ではない。
自分にもし出来るという可能性があるならば、やらなければならない。
光葉は襷を掛けると、自身の両方の頬を叩き、気合を入れるとお湯に布をつけ、よく絞る。
それから童達には雪女の両手両足をしっかりとつかんでいてもらい、ゆっくりとその黒い蛇のような呪を布で拭き始めた。
「ひゃぁぁっぁ!」
妖力が暴走しているのか雪女の体を押さえつけていた童達の両手が凍り、部屋の中が吹雪のように荒れ狂う。
そればかりではなく、雪女の肌にまとわりつく呪が光葉の手から逃げ回るようにして移動をはじめ、光葉は呪を布で追って拭こうとする。
だが、雪女の力によって布は凍りつき、温かだったはずのたらいに入ったお湯にも氷が張っている。
「誰か、火を扱う妖怪はいない?!」
光葉の声に反応するように、部屋の中に火が灯ると、狐の妖怪達が狐火によって部屋を暖め、凍った水を溶かした。
光葉はもう一度布を狐たちが温めなおしたたらいのお湯につけ、そして雪女に声をかけた。
「今、呪を洗い流します。だから、頑張って。」
そう言った瞬間、雪女がわずかに頷くように動いた。
光葉は雪女の肌を逃げ回る呪に布を押し付けると、肌を傷つけないように丁寧に拭いていく。
「お願い。消えて。」
黒い蛇のような呪はどんどんと小さくなり始め、その逃げ惑う姿を光葉は追って布を動かす。
そして、ミミズほどに小さくなった呪に布を押し付けると両目を閉じて祈った。
「消えて。雪女さんから、居なくなって!」
光葉の声に反応してか、呪のあった場所から黒々とした煙が巻き上がった。
光葉は宙に漂うそれを驚いたようにじっと見つめると、黒い煙の中からこちらを覗き込む眼が見えて息を飲んだ。
人だと、光葉は思った。
黒い闇を映す人の眼が、光葉をじっと見つめていた。
「や、夜叉様!」
思わず光葉が恐怖からそう叫ぶと、夜叉は戸を開けて部屋へと入り、黒い煙を瞳にとらえると腰に差していた刀を引き抜き、その黒い煙を切った。
『光・・・・。』
そう、聞こえた。
光葉は一体何が起こったのか分からず震えた。だが、その瞳が消える瞬間まで目を放す事が出来なかった。
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