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十いち
しおりを挟む夜叉は雪女の弱った妖気を感じとると、戸を開け空を見上げた。
朝焼けに包まれた空から、雪の結晶がキラキラと落ちたかと思うと雪女の身体も落ちてきているのが見える。
夜叉は地面に降りると、足に力を入れ、一気に空へと飛び上がった。
地面に蜘蛛の巣状に割れ目が広がり、砂ぼこりが舞う。
空中で夜叉は雪女を抱き止めると、そのまま地上へと降りた。
弱りきった雪女はぐったりとしており、夜叉は表情を歪めた。
「雪女。何があった?」
夜叉の言葉に雪女は弱々しい声ながらも何があったのかを夜叉へと伝えた。
藤原 廣光という男の名を聞いた夜叉は眉間にシワを寄せると、燃え上がるような妖気を一気に広げ、屋敷の中にいた妖怪達は飛び起きると夜叉の元へと集まる。
雪女の身体には、呪が広がっており、このままでは弱っていく一方であろう。
夜叉の恐ろしい妖気に、妖怪達は震え上がる。
そんな時であった。
恐ろしい妖気に包まれたその場に、涼やかな可愛らしい光葉の声が響いた。
「夜叉様?どうしたのです?」
羽織を羽織った寝巻き姿の光葉も騒ぎで起きてしまったのであろう。
皆の視線が光葉に集まり、そして夜叉の妖気が微かに薄まる。
「光葉。」
夜叉の緊張したようなその声に光葉は首をかしげると、夜叉の腕の中でぐったりとする雪女の姿を見つけて素足なのも厭わず地面へと降り駆け寄った。
「どうしたのですか?」
苦悶の表情を浮かべる雪女の姿に、夜叉はどうすべきかと顔を歪ませる。
光葉の力の正体が分からない状態で、呪を消す力を使わせていいのかと夜叉は頭の中で考える。
だが、このままであれば雪女は呪の力によって弱っていく。
そんな迷う夜叉の手に光葉に白い手が重なり、視線を上げると、光葉と目が合う。
光葉はにこりと笑みを浮かべると言った。
「夜叉様。これは呪というものなのでしょう?私に落とせるのであればさせてはいただけませんか?」
その言葉に夜叉は眉間のシワを深くする。
「だが、その力を使い、お前に害がないという確証はないのだぞ?」
光葉はクスリと笑い声をあげた。
「あら、もし害があるなら、とうの昔に私はどうにかなっておりますよ。だって昨日皆様をたくさん洗いましたもの。」
夜叉がそれでも頷かないでいると、光葉は雪女の頬に触れた。
「それに、夜叉様が大切に思われている皆様の力になれるならば害があろうと本望です。」
夜叉はその言葉に瞳を閉じた。
「光葉。頼む。」
「はい。」
光葉は童達が桶にお湯と綺麗な布とを準備を頼み、そして雪女を部屋へと運んでもらうとにこりと笑って部屋へと入ろうとした夜叉を止めた。
「殿方はご遠慮下さいませ。」
夜叉は面を食らったような表情を浮かべると、ぴしゃりと戸を閉められてしまい、頭をぽりぽりと掻きその場へと座って待つこことした。
その横や後ろに他の男の妖怪らは座り、女の妖怪らは忙しそうに走り回る。
性別が曖昧な妖怪らは男の妖怪と共に待つのであった。
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