5 / 23
ご
しおりを挟む
光葉は、いつものように着物を着替え、嫌みを言うために待ち構えている河童の皿に水を注ぎ、池に泳ぐ人面魚達に餌をやっていた。
親方様は朝から仕事で隣山へと出掛けると言っていたので、早く帰ってこないかなと光葉は餌をやりながら小さくため息を漏らした。
ここに来てから本当に幸せなことばかりであり、光葉はいつこの幸せが終わってしまうのかと不安に思っていた。
「お嫁様、どうしたのです?」
そう声をかけてきたのは小さな龍であり、池の端で水浴びをしていたようであった。
光葉はしゃがみ、龍を抱き上げると優しくその頭を撫でながら言った。
「人面魚に餌をあげていたの。貴方とは始めましてね。私は光葉というの。貴方は?」
「これは失礼しました。私は白竜と申します。」
「白竜。よろしくね。」
そう白竜の頭を撫でながらも、光葉は少し首をかしげた。
白竜という名なのにもかかわらず、小さな体は黒のまだらが広がっており、鱗は生気を失い、どこか薄汚れて見えた。
病気なのだろうかと光葉は心配になり、優しくその体を撫でると、少しこすれば黒いまだらが薄れる事に気が付いた。
「ねぇ白龍。貴方の体のそのまだら取れそうなのだけれど、洗ってはダメかしら?」
「え?いや、これはこすって落ちるようなものではないのですが。」
「あら本当に?でも、落ちそうなのよ。ダメかしら?」
その言葉に白龍は困ったように眉を寄せると言った。
「洗ってもいいですが、落ちませんからね?」
「ふふ。ありがとう。少し待っていて。付近とお湯を準備してくるわ!」
「はい。お嫁様、走らないで!転んだら大変ですよ!」
「大丈夫よぉ!」
やる事を見つけた光葉は意気揚々としてお湯と綺麗な布を準備すると、白龍をたらいのお湯に入ってもらい、その体を洗い始めた。
「綺麗になぁれ。綺麗になぁれ。」
光葉がにこにことその白龍の体を洗っていると、その楽しそうな歌声につられて童や河童が集まり始め、その様子を見守っていた。
「何してんだ?」
「何でも、お嫁様が白龍様を洗っているんだと。」
「はぁ?白龍様のあれは、呪だろう?」
「あぁ。あれは体に染みついたら聖なる泉で百年時間を駆けなければ落ちない呪だという。」
「落ちるわけがないじゃないか。」
「そうだよなぁ。」
興味津々といった様子で、妖怪達はわらわらと集まり、光葉と白龍を中心にまるで百鬼夜行でも起こるのかというほどの妖怪が集まった。
妖怪達は目をぎょろぎょろさせながら光葉の手元を見つめ、そして息を飲んだ。
するり、するりと、まるで簡単な汚れが落ちるかのように呪が流れ落ちていくのである。その様子はただ事ではなく、妖怪の中にもそんな力を要するものなどいない。
呪には様々な種類があるが、たとえば人から呪われたもの、たとえば妖怪同志で呪いの掛け合いをしたもの、たとえば己自身が怒りによって呪に染まり、不幸をばらまこうとするものなどさまざまである。
白龍のかかっている呪が何かは分からないが、一朝一夕で落ちる事のないはずのものであるのは明らかだ。
「どういうことだ?」
「あれは、呪ではなかったのか?」
「呪が、落ちた?」
ざわざわと声が揺らめき始めた時、光葉の声が響き渡った。
「やった!綺麗になったわ!」
満足げな光葉は立ち上がると、綺麗な乾いた布で仕上げに白龍を磨いていく。
「きらきら光れ~綺麗に光れ~。」
光葉は周りの妖怪の山には気づいていないのか、白龍の体を丁寧に歌いながら磨き上げていく。
そして、仕上がった瞬間、その場にいた妖怪達はあまりにまばゆく白龍が輝くものだからその眩しさに思わず目を瞑った。
「何という事だ!身が、身が!軽い!軽いぞ!」
白龍は空をくるりくるりと輝く体を回転させながら飛び、そして光葉の前へと頭を垂れると言った。
「お嫁様!お嫁様は何という力の持ち主か!私は貴方を侮っておりました。さすが、親方様のお嫁様でございます。白龍、これよりお嫁様の為ならば、命を張りましょう!」
その勢いのある言葉に、光葉は思わず一歩引くと、苦笑を浮かべながら言った。
「まぁまぁ。白龍。大げさよ。私は汚れを洗い流しただけよ?」
「何と!謙遜されまするか!なんと高貴な!」
「え?えぇ?」
光葉は困ったように首を傾げた時、周りにたくさんの妖怪が集まっている事に気が付き、光葉は目を丸くした。
「まぁまぁ!こんなにたくさん!ここで何かあるのかしら?」
その間の抜けた声に、妖怪達は思わず何も言えなかった。
親方様は朝から仕事で隣山へと出掛けると言っていたので、早く帰ってこないかなと光葉は餌をやりながら小さくため息を漏らした。
ここに来てから本当に幸せなことばかりであり、光葉はいつこの幸せが終わってしまうのかと不安に思っていた。
「お嫁様、どうしたのです?」
そう声をかけてきたのは小さな龍であり、池の端で水浴びをしていたようであった。
光葉はしゃがみ、龍を抱き上げると優しくその頭を撫でながら言った。
「人面魚に餌をあげていたの。貴方とは始めましてね。私は光葉というの。貴方は?」
「これは失礼しました。私は白竜と申します。」
「白竜。よろしくね。」
そう白竜の頭を撫でながらも、光葉は少し首をかしげた。
白竜という名なのにもかかわらず、小さな体は黒のまだらが広がっており、鱗は生気を失い、どこか薄汚れて見えた。
病気なのだろうかと光葉は心配になり、優しくその体を撫でると、少しこすれば黒いまだらが薄れる事に気が付いた。
「ねぇ白龍。貴方の体のそのまだら取れそうなのだけれど、洗ってはダメかしら?」
「え?いや、これはこすって落ちるようなものではないのですが。」
「あら本当に?でも、落ちそうなのよ。ダメかしら?」
その言葉に白龍は困ったように眉を寄せると言った。
「洗ってもいいですが、落ちませんからね?」
「ふふ。ありがとう。少し待っていて。付近とお湯を準備してくるわ!」
「はい。お嫁様、走らないで!転んだら大変ですよ!」
「大丈夫よぉ!」
やる事を見つけた光葉は意気揚々としてお湯と綺麗な布を準備すると、白龍をたらいのお湯に入ってもらい、その体を洗い始めた。
「綺麗になぁれ。綺麗になぁれ。」
光葉がにこにことその白龍の体を洗っていると、その楽しそうな歌声につられて童や河童が集まり始め、その様子を見守っていた。
「何してんだ?」
「何でも、お嫁様が白龍様を洗っているんだと。」
「はぁ?白龍様のあれは、呪だろう?」
「あぁ。あれは体に染みついたら聖なる泉で百年時間を駆けなければ落ちない呪だという。」
「落ちるわけがないじゃないか。」
「そうだよなぁ。」
興味津々といった様子で、妖怪達はわらわらと集まり、光葉と白龍を中心にまるで百鬼夜行でも起こるのかというほどの妖怪が集まった。
妖怪達は目をぎょろぎょろさせながら光葉の手元を見つめ、そして息を飲んだ。
するり、するりと、まるで簡単な汚れが落ちるかのように呪が流れ落ちていくのである。その様子はただ事ではなく、妖怪の中にもそんな力を要するものなどいない。
呪には様々な種類があるが、たとえば人から呪われたもの、たとえば妖怪同志で呪いの掛け合いをしたもの、たとえば己自身が怒りによって呪に染まり、不幸をばらまこうとするものなどさまざまである。
白龍のかかっている呪が何かは分からないが、一朝一夕で落ちる事のないはずのものであるのは明らかだ。
「どういうことだ?」
「あれは、呪ではなかったのか?」
「呪が、落ちた?」
ざわざわと声が揺らめき始めた時、光葉の声が響き渡った。
「やった!綺麗になったわ!」
満足げな光葉は立ち上がると、綺麗な乾いた布で仕上げに白龍を磨いていく。
「きらきら光れ~綺麗に光れ~。」
光葉は周りの妖怪の山には気づいていないのか、白龍の体を丁寧に歌いながら磨き上げていく。
そして、仕上がった瞬間、その場にいた妖怪達はあまりにまばゆく白龍が輝くものだからその眩しさに思わず目を瞑った。
「何という事だ!身が、身が!軽い!軽いぞ!」
白龍は空をくるりくるりと輝く体を回転させながら飛び、そして光葉の前へと頭を垂れると言った。
「お嫁様!お嫁様は何という力の持ち主か!私は貴方を侮っておりました。さすが、親方様のお嫁様でございます。白龍、これよりお嫁様の為ならば、命を張りましょう!」
その勢いのある言葉に、光葉は思わず一歩引くと、苦笑を浮かべながら言った。
「まぁまぁ。白龍。大げさよ。私は汚れを洗い流しただけよ?」
「何と!謙遜されまするか!なんと高貴な!」
「え?えぇ?」
光葉は困ったように首を傾げた時、周りにたくさんの妖怪が集まっている事に気が付き、光葉は目を丸くした。
「まぁまぁ!こんなにたくさん!ここで何かあるのかしら?」
その間の抜けた声に、妖怪達は思わず何も言えなかった。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
京都式神様のおでん屋さん 弐
西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※一巻は第六回キャラクター文芸賞、
奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる