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第十五話
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茂みの間に地面へと斜めに抉れるような形で、狭いが人が身を隠す事が出来る空間が空いていた。
そこへと馬から飛び降り身を潜めた幼子と玉枝はじっと動かず、男達が立ち去るのを待った。
夜の帳が降り、真っ暗になると男達は一人、また一人と森から逃げるように駆け出ていった。
「行ったかな。」
玉枝はそう言うとその場から出ようと動こうとした。
だが、幼子の手が、がしりとしがみつくように玉枝を掴んでおり、うまく外へと出られない。
玉枝は小さく息を吐くと、幼子の頭を優しく撫でて瞳を合わせると穏やかな声で言った。
「ここから出よう。一度手を離して?」
幼子は自分が玉枝にしがみついていたことに今気がついたようで、顔を赤らめるとパッと手を離した。
その様子に玉枝は仮面の下で笑みを浮かべると、外へと出た。
辺りを見回しても、暗い闇が続くばかりであり、人の気配はない。
空を見上げれば三日月が木々の合間から姿を見せ、うっすらと地上を照らす。
耳を澄ませてみれば、蛙の賑やかな鳴き声と、微かに風で揺れる葉の音が聞こえる。
「大丈夫。もう人の気配はないよ。」
玉枝は幼子の手を引き穴から出るのを手伝う。
幼子は玉枝の手をギュッと握り、夜の森が恐ろしいのか身体をピタリと寄せて震えている。
触れた所から熱が伝わり、玉枝はドキリとした。
温かい。
人の体温の温かさに思わず顔をしかめそうになりながら、玉枝は心を落ち着けると幼子の目の前へとしゃがみこみ尋ねた。
「貴方を追ってきたあの者達は何者?」
「わ、分からない。宮に突如攻めいってきて、そして、訳が分からないまま、皆に逃げろと言われて・・」
「宮というと?」
「都を厄から守るのが宮の役目。恐らく残った宮仕えのものらが、今、宮の最新部に留まり、どうにか堪えていると思う。」
人の世の事に関わらなかったがために、玉枝にはその都の情勢がどうなっているのかが分からない。ただ、先程の男達を思いだし、眉間にシワがよってしまう。
「あ、あの。助けていただき、本当に感謝する。」
「いや、私も無関係とはいいがたいのでね。」
「それは?どういう?・・その、その姿から察するに貴方は神々の薬師様であろう?」
幼子なのに物知りだなと玉枝は感心したその時であった。
玉枝と幼子の目の前に、狐火が突如として至るところに現れると、暗い森を明るく照らした。
そこへと馬から飛び降り身を潜めた幼子と玉枝はじっと動かず、男達が立ち去るのを待った。
夜の帳が降り、真っ暗になると男達は一人、また一人と森から逃げるように駆け出ていった。
「行ったかな。」
玉枝はそう言うとその場から出ようと動こうとした。
だが、幼子の手が、がしりとしがみつくように玉枝を掴んでおり、うまく外へと出られない。
玉枝は小さく息を吐くと、幼子の頭を優しく撫でて瞳を合わせると穏やかな声で言った。
「ここから出よう。一度手を離して?」
幼子は自分が玉枝にしがみついていたことに今気がついたようで、顔を赤らめるとパッと手を離した。
その様子に玉枝は仮面の下で笑みを浮かべると、外へと出た。
辺りを見回しても、暗い闇が続くばかりであり、人の気配はない。
空を見上げれば三日月が木々の合間から姿を見せ、うっすらと地上を照らす。
耳を澄ませてみれば、蛙の賑やかな鳴き声と、微かに風で揺れる葉の音が聞こえる。
「大丈夫。もう人の気配はないよ。」
玉枝は幼子の手を引き穴から出るのを手伝う。
幼子は玉枝の手をギュッと握り、夜の森が恐ろしいのか身体をピタリと寄せて震えている。
触れた所から熱が伝わり、玉枝はドキリとした。
温かい。
人の体温の温かさに思わず顔をしかめそうになりながら、玉枝は心を落ち着けると幼子の目の前へとしゃがみこみ尋ねた。
「貴方を追ってきたあの者達は何者?」
「わ、分からない。宮に突如攻めいってきて、そして、訳が分からないまま、皆に逃げろと言われて・・」
「宮というと?」
「都を厄から守るのが宮の役目。恐らく残った宮仕えのものらが、今、宮の最新部に留まり、どうにか堪えていると思う。」
人の世の事に関わらなかったがために、玉枝にはその都の情勢がどうなっているのかが分からない。ただ、先程の男達を思いだし、眉間にシワがよってしまう。
「あ、あの。助けていただき、本当に感謝する。」
「いや、私も無関係とはいいがたいのでね。」
「それは?どういう?・・その、その姿から察するに貴方は神々の薬師様であろう?」
幼子なのに物知りだなと玉枝は感心したその時であった。
玉枝と幼子の目の前に、狐火が突如として至るところに現れると、暗い森を明るく照らした。
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