【完結】神々の薬師

かのん

文字の大きさ
上 下
15 / 23

第十五話

しおりを挟む
 茂みの間に地面へと斜めに抉れるような形で、狭いが人が身を隠す事が出来る空間が空いていた。

 そこへと馬から飛び降り身を潜めた幼子と玉枝はじっと動かず、男達が立ち去るのを待った。

 夜の帳が降り、真っ暗になると男達は一人、また一人と森から逃げるように駆け出ていった。

「行ったかな。」

 玉枝はそう言うとその場から出ようと動こうとした。

 だが、幼子の手が、がしりとしがみつくように玉枝を掴んでおり、うまく外へと出られない。

 玉枝は小さく息を吐くと、幼子の頭を優しく撫でて瞳を合わせると穏やかな声で言った。

「ここから出よう。一度手を離して?」

 幼子は自分が玉枝にしがみついていたことに今気がついたようで、顔を赤らめるとパッと手を離した。

 その様子に玉枝は仮面の下で笑みを浮かべると、外へと出た。

 辺りを見回しても、暗い闇が続くばかりであり、人の気配はない。

 空を見上げれば三日月が木々の合間から姿を見せ、うっすらと地上を照らす。

 耳を澄ませてみれば、蛙の賑やかな鳴き声と、微かに風で揺れる葉の音が聞こえる。

「大丈夫。もう人の気配はないよ。」

 玉枝は幼子の手を引き穴から出るのを手伝う。

 幼子は玉枝の手をギュッと握り、夜の森が恐ろしいのか身体をピタリと寄せて震えている。

 触れた所から熱が伝わり、玉枝はドキリとした。

 温かい。

 人の体温の温かさに思わず顔をしかめそうになりながら、玉枝は心を落ち着けると幼子の目の前へとしゃがみこみ尋ねた。

「貴方を追ってきたあの者達は何者?」

「わ、分からない。宮に突如攻めいってきて、そして、訳が分からないまま、皆に逃げろと言われて・・」

「宮というと?」

「都を厄から守るのが宮の役目。恐らく残った宮仕えのものらが、今、宮の最新部に留まり、どうにか堪えていると思う。」

 人の世の事に関わらなかったがために、玉枝にはその都の情勢がどうなっているのかが分からない。ただ、先程の男達を思いだし、眉間にシワがよってしまう。

「あ、あの。助けていただき、本当に感謝する。」

「いや、私も無関係とはいいがたいのでね。」

「それは?どういう?・・その、その姿から察するに貴方は神々の薬師様であろう?」

 幼子なのに物知りだなと玉枝は感心したその時であった。

 玉枝と幼子の目の前に、狐火が突如として至るところに現れると、暗い森を明るく照らした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ男の娘の取り扱い方

下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】 「朝顔 結城」 それが僕の幼馴染の名前。 彼は彼であると同時に彼女でもある。 男でありながら女より女らしい容姿と性格。 幼馴染以上親友以上の関係だった。 しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。 主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。 同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。 しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。 ――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。 現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」 本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。 ※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。 こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】 ──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった── 養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。 龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。 あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。 世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。 ※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。

後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん
キャラ文芸
桃玉は10歳の時に両親を失い、おじ夫妻の元で育った。桃玉にはあやかしを癒やし、浄化する能力があったが、あやかしが視えないので能力に気がついていなかった。 しかし桃玉が20歳になった時、村で人間があやかしに殺される事件が起き、桃玉は事件を治める為の生贄に選ばれてしまった。そんな生贄に捧げられる桃玉を救ったのは若き皇帝・龍環。 桃玉にはあやかしを祓う力があり、更に龍環は自身にはあやかしが視える能力があると伝える。 「俺と組んで後宮に蔓延る悪しきあやかしを浄化してほしいんだ」 こうして2人はある契約を結び、九嬪の1つである昭容の位で後宮入りした桃玉は龍環と共にあやかし祓いに取り組む日が始まったのだった。

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

処理中です...