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三十二話

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 シルビアンヌは手を紫色の水晶へと当てた。

 触れてみればそこからは魔力が感じられず、恐らくこのままであればあの声が言っていたように王国は亡びの道を歩むことになるのであろう。

 シルビアンヌはアリーの手をぎゅっと握ると、呼吸を整えてゆっくりと魔力を広げていく。

 セインの作り上げた結界も、竜巻も、元の根源はシルビアンヌの魔力である。

 糸を紡いでいくように、シルビアンヌは魔力を次第に一つの流れのように組み換え、そして金色の瞳を輝かせ、赤い髪を風になびかせた。

「我、魔女シルビアンヌ。この力を王国の繁栄のために忠誠を捧げる。」

 王城に突如として魔力が広がり、そして淡い光となって包み込む。

 それはまるで温かな春の木漏れ日のようで、光の舞うその光景は美しく輝いていた。

 竜巻は消え、禍々しい雰囲気も一掃されている。

「これは・・・」

 ラルフは空を見上げて目を丸くした。

 空には美しい魔法陣が描かれていた。まるで花のような魔法陣であり、それは美しかった。

「魔女か・・・悪しき魔女とは、名ばかりだな・・・。」

 体全身から魔力が抜け、それと同時に体の中からまるで魂が抜けるような、ぐらぐらと揺れる感覚にシルビアンヌはアリーに抱き留められた。

「シルビアンヌ様!」

 これは一体何だ?

 シルビアンヌは何かに魂が引っ張られる感覚を感じる。

 ぐらぐらとするその感覚に吐き気がする。

『・・善き魔女シルビアンヌ。最後の選択を与えます。』

「・・・え?」

 シルビアンヌの瞳には、紫色の水晶の前に美しい女性が立っているのが見えた。

『この世界は、地球という星の日本と繋がっています。悪しき魔女には強制的に帰っていただきますが、善き魔女には選択が与えられます。貴方は、運命の番とこの世界に残りますか?』

 その言葉にシルビアンヌは瞳を大きく見開いた。

 悪しき魔女は、死ぬのではないのか。

 そして自分は、地球に帰るか選択できるのか?

 シルビアンヌは自分を支えるアリーを見上げた。

 アリーには目の前の女性が見えていないのだろう。自分のことを心配して、手が震えている。

 シルビアンヌはその姿を見て、改めて心を決めた。

「私はこの世界に残ります。私にはアリーがいるもの。」

 美しい女性はにこりと笑い、シルビアンヌに手をかざした。

『善き魔女シルビアンヌに祝福を。この国の為に、大変な役目を与えてしまい申し訳ありませんでした。私の存在、そして悪しき魔女でも地球へと戻されることは記録には残さないで下さい。そうしてしまった場合に、招いた異世界の魔女らが悪しき魔女となる道が増えては、災いを招きかねないのです。』

 なるほど、だからあの記録には残っていなかったのかとシルビアンヌは頷いた。

 美しい女性がほっとするように笑みを浮かべると、眩しいほどの光があたり一面を照らし、そしてシルビアンヌの体は不思議なほどに軽くなった。

 体と魂が馴染んだ感覚に、シルビアンヌは体を起き上がらせるとアリーを抱きしめた。

「シルビアンヌ様!大丈夫ですか?」

 美しい女性は消え、アリーの心配げな顔にシルビアンヌは笑みを浮かべると頷いた。

「ええ。大丈夫。アリー。ありがとう。」

 空は晴れ渡り、何事もなかったかのように大空を青い鳥が飛んで行った。



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