33 / 36
三十一話
しおりを挟む
シルビアンヌは、手を、セインの作り上げた紫色の結界へと手を伸ばした。
元々シルビアンヌの魔力である。手で触れればどうすれば穴を開けられるかなどすぐにわかる。
シルビアンヌは人が通れるほどの穴を開けるとアリーと共にするりと入り込む。
外とは違い、結界の中は無音であり、ただ、セインの腕から流れ落ちる血の水音だけが、響いて聞こえた。
「はは。シルビアンヌ・・・愛しいシルビアンヌ・・・君は・・・思い出してしまったのか。」
「セイン様・・・。」
アリーはシルビアンヌに促されて、地面へとシルビアンヌを降ろした。
アリーに支えられて、シルビアンヌは立つと、セインに言った。
「もっと・・早く、貴方に出会い、ちゃんと話をするべきでした。」
その言葉に、セインは苦笑を浮かべる。
「確かに、君をもっと早く手に入れていれば、こうやって国を亡ぼすのも、もっと早い段階で行っていただろうなぁ・・・・ねぇシルビアンヌ。今からでも遅くない。こちらへとおいで。一緒に行こう?」
まるですがるような瞳。
独りにはなりたくないと駄々をこねている子供のようだった。
シルビアンヌは優しげに笑みを浮かべると、一歩、また一歩とアリーから離れ、セインの所へと歩いて行った。
背中に、アリーの視線を感じるが、シルビアンヌはセインにたどり着くと、矢で射られた手に、持っていたハンカチをまきながら言った。
「・・・貴方には、ちゃんと貴方の運命の相手がいるのですよ。」
「?・・・何を言っているんだい?」
「大丈夫・・・・本当はさびしかっただけなんですよね?大丈夫です。私がこれを止めますから、安心して下さいね。」
「何を?・・私は、この国の亡びる所を見たいんだ!」
セインの頬に流れる涙を、シルビアンヌは優しく手で拭って言った。
「では、この涙は何のための涙なのですか?」
「・・・え?」
ポタポタト流れ落ちていく涙は、セインの頬を濡らし、そして視界を曇らせる。
セインの震える体を、シルビアンヌはぎゅっと抱きしめると言った。
「大丈夫ですよ。大丈夫。」
「私は・・・」
「本当は、皆に貴方を認めて欲しかっただけなのでしょう?・・・大丈夫。貴方を認めている人はちゃんといます。だから、その人達と今度はちゃんと向き合ってくださいね。」
「何を言っているんだ。」
「そして私に、番外編を見せて下さい。この世界に産まれた私だけが見れる、とっておきのシーンをお願いします。」
「え?」
「でも、その前に、まずはこれを止めますね。」
シルビアンヌはにっこりと笑うとセインの頭をぽんぽんと撫でてアリーを呼んだ。
「アリー?来てくれる?」
「はい。」
ほっとした表情のアリーはすぐにシルビアンヌの横へと駆け寄ると、その腰に手を回した。
立っているのもやっとだったシルビアンヌは苦笑を浮かべると、セインに言った。
「セイン様。恋人は無理ですけれど、よければこれからお友達としてよろしくお願いしますね。」
「君は・・馬鹿か?私はこの国を亡ぼそうとしている男だぞ?」
「あら?でも、今のあなたは矢で射られて、顔面蒼白な上に泣きすぎて目が真っ赤な、ただの素敵なイケメンですよ?」
「何を言っているんだ君は。」
「それに、この国は亡ぼさせません。私が止めますから。」
「すでに発動している。無理に決まっている。」
「では止められた暁には、私と仲良くして下さいね。」
「・・・はは・・はぁ・・・・勝手にしろ。どうせもう、私は動けない。」
使ってきた魔術によって体力は奪われ、その上にかなりの出血で、意識を保っているのもやっとなのだろう。
元々体を鍛えているような武人でもないセインは酷い顔をしていた。
シルビアンヌは肩をすくめて笑うと、アリーに言った。
「ねぇアリー。上手くいかなかったら死んでしまうと思うから、言っておくわね。」
「え?」
「愛しているわ。・・・きっと、本当は貴方に出会った日からずっと・・気づかないふりばかりしていたけれど、私には最初から貴方しかいなかった。」
「・・シルビアンヌ様。」
「だから・・・」
シルビアンヌは、結界の外側で必死に雨風に耐えている三人に向かって叫んだ。
「ヒロインちゃんは私がもらうわ!本当にごめんなさい!」
三人の冷ややかな眼差しが、きっと声は聞こえていないだろうに、シルビアンヌに刺さった。
元々シルビアンヌの魔力である。手で触れればどうすれば穴を開けられるかなどすぐにわかる。
シルビアンヌは人が通れるほどの穴を開けるとアリーと共にするりと入り込む。
外とは違い、結界の中は無音であり、ただ、セインの腕から流れ落ちる血の水音だけが、響いて聞こえた。
「はは。シルビアンヌ・・・愛しいシルビアンヌ・・・君は・・・思い出してしまったのか。」
「セイン様・・・。」
アリーはシルビアンヌに促されて、地面へとシルビアンヌを降ろした。
アリーに支えられて、シルビアンヌは立つと、セインに言った。
「もっと・・早く、貴方に出会い、ちゃんと話をするべきでした。」
その言葉に、セインは苦笑を浮かべる。
「確かに、君をもっと早く手に入れていれば、こうやって国を亡ぼすのも、もっと早い段階で行っていただろうなぁ・・・・ねぇシルビアンヌ。今からでも遅くない。こちらへとおいで。一緒に行こう?」
まるですがるような瞳。
独りにはなりたくないと駄々をこねている子供のようだった。
シルビアンヌは優しげに笑みを浮かべると、一歩、また一歩とアリーから離れ、セインの所へと歩いて行った。
背中に、アリーの視線を感じるが、シルビアンヌはセインにたどり着くと、矢で射られた手に、持っていたハンカチをまきながら言った。
「・・・貴方には、ちゃんと貴方の運命の相手がいるのですよ。」
「?・・・何を言っているんだい?」
「大丈夫・・・・本当はさびしかっただけなんですよね?大丈夫です。私がこれを止めますから、安心して下さいね。」
「何を?・・私は、この国の亡びる所を見たいんだ!」
セインの頬に流れる涙を、シルビアンヌは優しく手で拭って言った。
「では、この涙は何のための涙なのですか?」
「・・・え?」
ポタポタト流れ落ちていく涙は、セインの頬を濡らし、そして視界を曇らせる。
セインの震える体を、シルビアンヌはぎゅっと抱きしめると言った。
「大丈夫ですよ。大丈夫。」
「私は・・・」
「本当は、皆に貴方を認めて欲しかっただけなのでしょう?・・・大丈夫。貴方を認めている人はちゃんといます。だから、その人達と今度はちゃんと向き合ってくださいね。」
「何を言っているんだ。」
「そして私に、番外編を見せて下さい。この世界に産まれた私だけが見れる、とっておきのシーンをお願いします。」
「え?」
「でも、その前に、まずはこれを止めますね。」
シルビアンヌはにっこりと笑うとセインの頭をぽんぽんと撫でてアリーを呼んだ。
「アリー?来てくれる?」
「はい。」
ほっとした表情のアリーはすぐにシルビアンヌの横へと駆け寄ると、その腰に手を回した。
立っているのもやっとだったシルビアンヌは苦笑を浮かべると、セインに言った。
「セイン様。恋人は無理ですけれど、よければこれからお友達としてよろしくお願いしますね。」
「君は・・馬鹿か?私はこの国を亡ぼそうとしている男だぞ?」
「あら?でも、今のあなたは矢で射られて、顔面蒼白な上に泣きすぎて目が真っ赤な、ただの素敵なイケメンですよ?」
「何を言っているんだ君は。」
「それに、この国は亡ぼさせません。私が止めますから。」
「すでに発動している。無理に決まっている。」
「では止められた暁には、私と仲良くして下さいね。」
「・・・はは・・はぁ・・・・勝手にしろ。どうせもう、私は動けない。」
使ってきた魔術によって体力は奪われ、その上にかなりの出血で、意識を保っているのもやっとなのだろう。
元々体を鍛えているような武人でもないセインは酷い顔をしていた。
シルビアンヌは肩をすくめて笑うと、アリーに言った。
「ねぇアリー。上手くいかなかったら死んでしまうと思うから、言っておくわね。」
「え?」
「愛しているわ。・・・きっと、本当は貴方に出会った日からずっと・・気づかないふりばかりしていたけれど、私には最初から貴方しかいなかった。」
「・・シルビアンヌ様。」
「だから・・・」
シルビアンヌは、結界の外側で必死に雨風に耐えている三人に向かって叫んだ。
「ヒロインちゃんは私がもらうわ!本当にごめんなさい!」
三人の冷ややかな眼差しが、きっと声は聞こえていないだろうに、シルビアンヌに刺さった。
2
お気に入りに追加
1,825
あなたにおすすめの小説

【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
神様と呼ばれた精霊使い ~個性豊かな精霊達と共に~
川原源明
ファンタジー
ルマーン帝国ハーヴァー地方の小さな村に一人の少女がいた。
彼女の名はラミナ、小さな村で祖母と両親と4人で平和な生活を送っていた。
そんなある日のこと、狩りに行った父が倒れ、仲間の狩人に担がれて帰宅。
祖母の必死な看病もむなしく数時間後には亡くなり、同日母親も謎の病で息を引き取った。
両親が立て続けに亡くなった事で絶望で埋め尽くされているなか、
『ラミナ元気出しぃ、ウチが側におるから! と言うても聞こえてへんか……』
活発そうな女の子の声が頭の中に響いた。
祖母にそのことを話すと、代々側に居る精霊様では無いかという
そして、週末にあるスキル継承の儀で『精霊使い』を授かるかもしれないねと言われ、
絶望の中に居る少女に小さな明かりが灯った気がした。
そして、週末、スキル継承の儀で念願の『精霊使い』を授かり、少女の物語はここから始まった。
先祖の甥に学園に行ってみてはといわれ、ルマーン帝国国立アカデミーに入学、そこで知り合った友人や先輩や先生等と織りなす物語
各地に散る精霊達と契約しながら
外科医療の存在しない世の中で、友人の肺に巣くう病魔を取り除いたり
探偵のまねごとをしている精霊とアカデミー7不思議の謎を解いたり
ラミナ自身は学内武道会には参加しないけれど、400年ぶりに公衆の面前に姿を現す精霊達
夏休みには,思ってもみなかったことに巻き込まれ
収穫祭&学園祭では、○○役になったりと様々なことに巻き込まれていく。
そして、数年後には、先祖の軌跡をなぞるように、ラミナも世界に羽ばたく。
何事にも捕らわれない発想と、様々な経験をしていくことで、周囲から神様と呼ばれるようになった一人の精霊使いの物語のはじまりはじまり

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!
本見りん
恋愛
魔法大国と呼ばれるレーベン王国。
家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。
……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。
自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。
……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。
『小説家になろう』様にも投稿しています。
『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』
でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる