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二十九話

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 しばらく睨み合いが続いていた、その時であった。

 セインは落ち着きを取り戻したかのように笑みを浮かべると、自らの手袋を外し、そしてそこに刻まれた紋様にポケットから取り出した硝子玉をかざした。

 すると、紫色の魔力が吹き出し、強風と轟音を生んで王の間の窓ガラスは粉々に砕け散った。

 そして、突如として宙にふわりと髪の毛を揺らしながら、シルビアンヌが現れたのである。

 真っ赤に燃える赤髪の魔女。

 金色の瞳が操られるようににごり、四人を見下ろした。

「シルビアンヌ様!」

 アリーが名を呼んだ瞬間、シルビアンヌが手をアリーへと向ける。

 風が渦を巻き、アリーに弓矢のように飛んでいく。それをアリーは剣で受けると宙へと受け流した。

 トン、と、シルビアンヌはセインの横へと降りると、まるで猫のようにセインへとすり寄った。

「シルビアンヌ。こんな国、もういらないよな。・・計画よりも早いが、壊してしまおうか。」

「はい。セイン様。セイン様の御心のままに。」

 四人はシルビアンヌの操られる姿に舌打ちすると、ジルが声を上げた。

「私は魔術を展開します。時間稼ぎを!」

『了解。』

 セインはシルビアンヌを盾にすると、楽しげに笑って言った。

「では失礼しますね。はっはっは。もう会う事もないでしょう。滅びの国の住人達よ。では。」

 セインは手に持っていた紙に呪文を唱えると、青白い炎と主にその場から消えうせた。

 シルビアンヌは何の感情も抱かない表情で、手をかざし四人に魔法で攻撃を仕掛ける。

 シャンデリアは砕け散り、調度品もシルビアンヌの魔法によって砕け散っていく。

 アリー、ラルフ、ギデオンはシルビアンヌの魔法を剣で弾きながら、シルビアンヌを傷つけないように立ち回る。

「シルビアンヌ様!目を覚まして下さい!」

 そうアリーが言うと、今まで何も映していなかったようなシルビアンヌの瞳が、かすかに揺れる。

 アリーは一気にシルビアンヌとの距離を詰めると、剣を手放し、その体を抱きしめた。

「これは貴方の意思じゃない。大丈夫ですから!大丈夫ですからね!」

「なっ!?離して!離して!」

 そう言いながらも、シルビアンヌの片方の手がアリーの服をぎゅっと掴む。

 風が吹き荒れ、アリーの頬に切り傷が出来、血が一筋流れた瞬間、シルビアンヌの表情が青ざめていく。

「いや、いやぁっぁぁぁぁ!ヒロインちゃんの顔に傷がぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!」

「魔術を展開します!アリー!そのままシルビアンヌ嬢を押さえていて!」

 ジルの声にアリーは頷き、ぎゅっとシルビアンヌを抱きしめる。

 四方を囲むように魔術の陣が展開されていく。光る色は赤、青、黄色と変わって行き、そして次の瞬間シルビアンヌの体を突き抜けるようにして光が飛び、そして、シルビアンヌの体から力が抜けた。

「シルビアンヌ様!」

 アリーはそんな体を抱き留め、ジルは、大きく息を吐いてその場に座り込んだ。

 ギデオンとラルフはその様子を見るとすぐに兵を呼び、セインの居場所を把握しようと動き出す。

 瞳を開けたシルビアンヌは、血の流れるアリーの頬に手を伸ばすとまた悲鳴を上げた。

「可愛いヒロインちゃんの顔に傷が・・・傷がぁぁぁぁぁぁ!」

「シルビアンヌ様?」

 アリーはきょとんとし、ジルは大きくため息をついた。

「いつも通りで安心したよ。はぁ・・・一瞬シルビアンヌ嬢が意識を戻してくれたから魔術が上手くいった。魔術は本来術者以外が解くのはかなり時間がかかるから、荒療治はしたくなかったんだけど・・・上手くいって良かったよ。本当に。」

 その場にジルは大の字に寝転がった。

 だが、そうもゆっくりはできないらしい。

 ラルフが眉間にしわを寄せて言った。

「セインが魔女の審判の場に向かったようだ。嫌な予感がする。行くぞ。」

「先に俺は行くぞ。」

 ギデオンはそう言うと駆け出し、そして、ラルフはシルビアンヌに視線を向けた。

「ここで休んでおくか?」

 シルビアンヌは状況に困惑しながらも首を横に振った。

「行きます。行かせてください。」

「分かった。僕も先に行く。アリー、ジル、シルビアンヌ嬢を頼んだぞ。」

 ラルフも先に走り、アリーはシルビアンヌを抱き上げた。

「っきゃ!」

 シルビアンヌは横抱きにされて驚きながら顔を真っ赤に染めた。

「しっかり捕まって下さいね。」

「は、恥ずかしいわ・・・。」

 恥らうシルビアンヌに、ジルは大きくため息をついた。

「私が抱えられて運ばれたいくらいだよ。もうクタクタだ。」

「え?それはそれで見たいわ。代わりましょうか?」

 シルビアンヌの言葉に、アリーとジルは遠い目をしながらため息をついた。









 

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