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二十三話

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 ドキリとした。

 アリーの久しぶりの視線に顔に熱が集まってくる。

「シルビアンヌ嬢?」

 セインの声に、シルビアンヌはハッとすると、セインの戸惑う視線と瞳を合わせ、そしてにこりと笑みを浮かべて言った。

「それはどう思うかなのではないでしょうか?」

「え?」

「確かに黒目黒髪は忌むべきものと国ではいわれていますが、それをそのままに信じている者ばかりではないでしょう?」

 シルビアンヌはダンスの曲が終わると、セインに美しく一礼をして言った。

「貴方様ご自身はとても素敵な方。それを見てくれる人こそ、貴方が本当に大切にする相手なのではないでしょうか。その他大勢の声よりも、貴方様を大切にしてくれる人に、目を向けて下さいませ。」

 そう言ってその場を後にしようとしたシルビアンヌの手を、セインは掴むと言った。

「そのような者が、私にいるとでも?」

 冷たい視線に、シルビアンヌは苦笑を浮かべた。

「拒んでばかりでは、見えないのではないでしょうか。」

 失礼な言い回しだとは思いながらも、シルビアンヌはセインにもっと周りを見てほしくてそう言った。

 ゲームの中で出てくるセインは人気が出過ぎて、短編集にて小説化されていた。その中で、セインが気づいていないだけで、セインを想っている人がたくさん傍にいるのだ。

 まぁ、想っている人は男性が多かったが。さすがBL。

 彼が受けなのか攻めなのか皆の妄想を豊かにしてくれたのは間違いない。

 そう思っていると、シルビアンヌをセインから引き離すようにアリーが間に入ってきた。

「失礼、シルビアンヌ嬢とこの後一曲約束をしているのですが、その手を放していただいてもかまいませんか?」

 いつもの優しい雰囲気ではないアリーに、ドキリとする。

 セインはアリーとしばしにらみ合うと、にこりとした笑顔をまた張り付けて頷いた。

「ええ。美しい令嬢を私が独り占めするわけにはいきませんから。ではシルビアンヌ嬢。またお話ししましょうね。」

「え?・・あ、はい。」

 セインは背を向けると人ごみの中へと姿を消した。

 アリーはシルビアンヌの手を取ると優しくエスコートしながら会場から外へと連れて出る。

「え?え?アリー?私、まだ一曲しか踊っていないのだけれど。」

 このままでは運命の相手を見つけられないではないかとシルビアンヌは焦るが、アリーは止まらない。

 返事もなく、シルビアンヌはただアリーと共に進んで行くしかない。

 外に出ると夜の闇の中で星々は輝き、少し肌寒い風が頬を撫でていく。

 満月だからか、暗い中庭の道もよく見える。

 会場から聞こえる音楽は小さく微かに聞こえる。

 アリーは足を止めると、振り返り、そして真っ直ぐにシルビアンヌを見つめた。そして自分の上着を脱ぐとシルビアンヌに着せた。

「え?その・・・そんなに寒くはないわ?」

「そんなに易々とその美しい肌をさらさないで下さい。」

「え?でも侍女も似合っていると言ってくれたわ。」

「似合っていますよ。似合っています。でも、お願いですからそんなに無防備な姿を晒さないで下さい。すぐにでも誰かに攫われてしまいそうで・・・怖い。」

 アリーに思わず手を伸ばしそうになって、シルビアンヌはそれをどうにか堪えるとアリーに背を向けた。

「私は運命の相手になら攫われてもいいわ。だから、口出ししないでちょうだい。」

 その言葉にアリーは後ろからシルビアンヌを抱きしめた。

「・・・嫌だ。」

「え?」

 シルビアンヌは内心驚いていた。

 アリーが、今までシルビアンヌの言葉に従わなかったことなどなかった。

「は、離して。」

「嫌です。先日はどうにか・・貴方の言葉に従おうと思った。けれど・・嫌だ。シルビアンヌ様お願いです。お願いですからどうして僕達を傍から離したいのか、話して下さい。」

「そ・・それは・・・」

「お願いです。」

 アリーの震える声に、シルビアンヌは唇を噛む。

 話してもいいのだろうか?

 だが、ゲームのヒロインであるアリーに話して、アリーの幸せを壊してしまったら?

 けれど抱きしめられる熱が心地よくて、シルビアンヌの心は甘えたくてたまらない。

 もし、アリーが運命の相手でなくてもかまわないのではないだろうか。死ぬのは怖い。けれど、アリー以上に自分が愛おしく思える存在が出来るかと尋ねられれば、答えられない。

 シルビアンヌは、アリーを見上げると潤んだ瞳で心を決めると、静かに言った。

「私は・・・・魔女なの。」

 その言葉に、アリーは優しく目を細めると、シルビアンヌの細い首筋に顔をうずめた。

「やはりそうなんですね。」

「え?」

 次の瞬間、垣根からこちらを伺っていたラルフにギデオンにジルが現れ、今までの様子を見られていたことに、シルビアンヌは顔を真っ赤に染め上げるのであった。








 


 
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