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二十二話

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 四人と話を日から数日。

 あの日から四人はシルビアンヌの前に姿を現しておらず、絶賛ボッチのシルビアンヌである。

 最初こそさびしいと思っていたシルビアンヌではあったが、数日もすれば慣れ、そしてシルビアンヌは一人の気楽さと自由を感じて目をキラキラと輝かせていた。

 私は死なないわ!絶対に素敵な運命の番を見つけて見せるんだから!

 手っ取り早くその相手が見つけられそうな場所と言えば、週末に開かれる学園主催の舞踏会である。

 貴族社会の練習の場として、学園では週末に舞踏会が開かれるのである。そここそが出会いを探す最適な場所であるとシルビアンヌは意気込み、寮の自室にて侍女と一緒にドレスを選び着飾っていた。

 真っ赤な髪が映えるように、紫色のマーメイドラインのドレスを選んだ。

 背中が大きく開き、胸元も大胆なデザインで少しばかり派手すぎるかとも思ったが鏡の前に立つ自分を見てシルビアンヌはにっこりと笑みを浮かべた。

 完璧に悪しき魔女っぽい。

 だが、可愛らしいデザインは似合わないので、似合わないモノを着るよりはいいかとシルビアンヌは切り替えることにした。

 舞踏会では婚約者がいるものは、婚約者と参加するが、いないものは一人で参加するのでシルビアンヌも気兼ねすることなく会場へと足を踏み入れた。

 だが何故だろうか。

 シルビアンヌが会場の扉から登場した瞬間に、雑談の声は静まり返り、そして息を飲む声が聞こえる。

 今日は四人を侍らせてもいない。

 なのにどうして皆静まり返るのだとシルビアンヌは内心戦々恐々としながら会場へと優雅に見えるように足を踏み入れた。

 会場中の令嬢、令息らはシルビアンヌに熱い視線を向けていた。

「まぁまぁまぁ。なんてお美しいのかしら。」

「最近何故かお一人なの。あぁ、シルビアンヌ様単独のお姿は中々見る機会がなかったから、しっかり目に焼き付けておかなければ。」

「あぁ、見てあのドレス。あのドレスを着こなせるのはきっとシルビアンヌ様だけですわ。」

 饒舌になる令嬢達とは裏腹に、令息らはただただ瞳に熱をこもらせて、シルビアンヌの姿に見入っていた。

 美しい髪の間から見える白い素肌は艶めかしく、大胆に開いた背中と胸元に視線が行ってしまうのは男の性だろう。

 男性陣はまるで吸い寄せられるようにシルビアンヌの方へと足を進めていく。

 だが、シルビアンヌとふと視線が合い、微笑を向けられると腰が抜けてしまいそうになり、その場から動けなくなる。

 男性陣は心の中で悲鳴を上げる。

 無防備に微笑む姿は可愛らしく見え、美しさと可愛らしさを兼ね備えたシルビアンヌにあと一歩の所で近づけない。

 シルビアンヌは、先ほどからダンスに誘われるのではないかと愛想を振りまいていたのだが、あと一歩の所で男性達が歩みを止めてしまい、何も言われない事に、やはり自分には魅力はないのだろうかと焦り始めていた。

 それともやはり男性達の恋愛対象は男性であり、自分には興味がないのだろうかと不安になる。

 このままでは、ただただ会場に来ただけになってしまう。

 シルビアンヌがどうしようかと悩んでいた時であった。

 すらりと身長の高い、黒色の瞳と髪の美しい美丈夫が一歩前へと進みでた。

 その姿に、会場中が息を飲む。

 彼はある意味有名な男性であった。

 魔女同様にこの国にとって忌むべき存在。黒目黒髪という不吉を纏った男性は公爵家の嫡男であり王弟殿下の血を引くセイン・ルベルト。

 ゲームの中でもちらりと登場し、何故彼を攻略できないのだと苦情がかなり寄せられたらしい。

 そんな事を思い出していると、セインはにっこりと仮面のように張り付けられた笑顔でシルビアンヌに手を差し出した。

「私は公爵家のセイン・ルベルトと申します。よろしければ一曲お相手していただけないでしょうか?」

 シルビアンヌは底冷えするような偽物の笑顔に、満面の笑顔で返した。

「もちろん。よろこんでお受けいたしますわ。私は公爵家のシルビアンヌ・レストでございます。」

 嬉しそうににこにこと無邪気な笑顔を向けられたセインは一瞬驚いたように目を見開いたがすぐに笑顔に戻るとシルビアンヌの細く白い手をとった。

 そして触れるだけのキスを手の甲へと落とすと、シルビアンヌの体をしっかりと抱き寄せた。

「ふふ。セイン様がダンスに誘ってくださって嬉しかったです。」

 可愛らしく微笑んでそう言ったシルビアンヌにセインは首を傾げる。

「何故です?貴方ならば選り取り見取りでしょう?」

「まぁ!そうならばどんなに素敵なことでしょう。ですが、ご覧になっていたでしょう?私、一人で誰にも誘ってもらえなくて戸惑っていましたの。」

 曲が流れ始め、ダンスを軽やかに踊りながら二人は会話を続ける。

「それは貴方があまりに美しすぎて皆声がかけられなかったのですよ。」

「まぁ。お上手ですね。」

 クスクスと笑う姿にセインは拍子抜けしたように、苦笑を浮かべた。

「貴方こそ、よく私と踊る気になりましたね?」

「え?」

 小首をかしげるシルビアンヌにセインは自嘲気味に笑うと言った。

「黒目黒髪の私と踊りたいなど、皆思わない。」

 仮面の笑顔が剥がれ落ち、悲しげな瞳が見えてシルビアンヌはなるほどと小さく頷いた。黒目黒髪は忌むべき存在。彼がどのような扱いを受けて来たのかのかは想像するに難くない。

 ふいに、幼い頃に一度だけ見かけたお茶会の時も一人きりだったのを思い出す。

 どう言葉を返したものかとシルビアンヌが考えていた時、熱い視線を背中に感じそちらへと視線を向けるとアリーの姿が目に入った。



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