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二十一話
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魔女の力を受け入れても、シルビアンヌに変化はあまり見られなかった。
魔法を使えるようになったというだけのこと。
魔法を使えば大抵のことは出来るのだなとシルビアンヌは思いながらも、あまり使う必要性も感じず通常通りに生活していたが、どうやったら問題を解決できるのだろうかと頭を悩ませ、そして、頭を悩ませる四人に直接話をすることに決めた。
学園の勉強室を一室借りて、そこにシルビアンヌは四人を呼び出すとはっきりとした口調で言った。
「話があります。」
シルビアンヌのいつになく真剣な表情を見た四人は、席に着くとシルビアンヌに真っ直ぐに視線を向ける。
そしてゆっくりと口を開いた。
「私の運命の相手は貴方方ではございません。なので、私は今後、真剣に、皆様とは別の男性との交際を検討していきたいと思います。」
その一言に一番驚いたように顔を青ざめさせたのはアリーだ。
がたりと席を立ちあがり、シルビアンヌに言った。
「シルビアンヌ様。」
アリーの瞳からシルビアンヌは視線をそらすと、うつむき加減に、静かな口調で言った。
「私は・・・私も・・・普通の女の子のように恋がしたいのです。・・・皆様相手では・・普通の恋はできません。ですから・・・お願いです。」
いつものシルビアンヌの様子ではないと感じた四人は黙り、アリーも席に座り込むと両手で顔を覆った。
そんなアリーにちらりと視線を向けてシルビアンヌは思う。
大丈夫。貴方の運命の相手はすでに三人も周りにいるんだから、その中からゆっくりと選べばいい。
シルビアンヌは、本当に自分に運命の相手などいるのだろうかと不安になりながらも言葉を続けた。
「皆様の事は大切な友達だと思っております。でも、このままではいけない。ですからお願いです。私の事を少しでも思って下さるなら・・・」
四人の表情を見ることが出来ず、シルビアンヌが黙り込むと、アリーが口を開いた。
「分かりました・・・シルビアンヌ様がそう願うなら・・・でもシルビアンヌ様。」
「?」
顔を上げ、アリーと視線が交わる。
いつの間にか、少女らしさは抜け、しっかりとした男性の顔つきになっていくアリーの熱い視線が真っ直ぐにシルビアンヌへと向けられた。
「僕が、シルビアンヌ様以外を愛することは永久にありません。貴方と出会い、貴方と一緒に過ごすと決めた日から僕の心は貴方の物。もし貴方が別のだれかと結ばれる日が来たとしても・・・それは変えられないと思います。」
胸がじわりじわりと熱くなっていくのをシルビアンヌは感じていた。
この数年で、シルビアンヌなりに四人の感情はそれとなく察していた。
ラルフもギデオンもジルも自分の事を好ましくは思っているのだと感じた。けれどアリーの視線だけは違った。
こちらも焼け付いてしまうのではないかと思えるほどに、熱い視線。
三人とは明らかに違った感情。
そんな感情を向けられるたびに、シルビアンヌは揺らぎそうになるのを必死に堪えてきた。
貴方は、ヒロインちゃんなのよ。貴方の幸せは、悪しき魔女の横じゃない。
シルビアンヌは今にもアリーの手を取ってしまいたくなる自分の心を叱咤すると、立ち上がり、美しく一礼をする。
「・・・失礼いたします。皆様・・・ごきげんよう。」
扉を開け、シルビアンヌはその場を後にすると、静かに自室へと足を向ける。
いつもは傍に控えている侍女には下がるように命じ、そして自室へと入り扉を閉めるとその場に座り込んだ。
「ぅ・・・ひっく・・・っぅぅ・・・」
縋り付いてしまいたくなった。
アリーの腕の中に飛び込んでしまいたかった。
だが、アリーはヒロインであり自分の運命の相手ではない。その先に死があると思うと、恐ろしくてならなかった。
どうして自分は悪しき魔女シルビアンヌなのだろうかと思った。
幼い頃はBLの世界へと転生したことに浮かれ、悪役令嬢であっても攻略対象者のトラウマを取り除いておけば大丈夫だなんて楽観的なことしか考えていなかった。
自分の死が間近に迫ってきて、やっと実感する。
死にたくない。
シルビアンヌはその夜、眠りに落ちるまで延々と泣き続けた。
魔法を使えるようになったというだけのこと。
魔法を使えば大抵のことは出来るのだなとシルビアンヌは思いながらも、あまり使う必要性も感じず通常通りに生活していたが、どうやったら問題を解決できるのだろうかと頭を悩ませ、そして、頭を悩ませる四人に直接話をすることに決めた。
学園の勉強室を一室借りて、そこにシルビアンヌは四人を呼び出すとはっきりとした口調で言った。
「話があります。」
シルビアンヌのいつになく真剣な表情を見た四人は、席に着くとシルビアンヌに真っ直ぐに視線を向ける。
そしてゆっくりと口を開いた。
「私の運命の相手は貴方方ではございません。なので、私は今後、真剣に、皆様とは別の男性との交際を検討していきたいと思います。」
その一言に一番驚いたように顔を青ざめさせたのはアリーだ。
がたりと席を立ちあがり、シルビアンヌに言った。
「シルビアンヌ様。」
アリーの瞳からシルビアンヌは視線をそらすと、うつむき加減に、静かな口調で言った。
「私は・・・私も・・・普通の女の子のように恋がしたいのです。・・・皆様相手では・・普通の恋はできません。ですから・・・お願いです。」
いつものシルビアンヌの様子ではないと感じた四人は黙り、アリーも席に座り込むと両手で顔を覆った。
そんなアリーにちらりと視線を向けてシルビアンヌは思う。
大丈夫。貴方の運命の相手はすでに三人も周りにいるんだから、その中からゆっくりと選べばいい。
シルビアンヌは、本当に自分に運命の相手などいるのだろうかと不安になりながらも言葉を続けた。
「皆様の事は大切な友達だと思っております。でも、このままではいけない。ですからお願いです。私の事を少しでも思って下さるなら・・・」
四人の表情を見ることが出来ず、シルビアンヌが黙り込むと、アリーが口を開いた。
「分かりました・・・シルビアンヌ様がそう願うなら・・・でもシルビアンヌ様。」
「?」
顔を上げ、アリーと視線が交わる。
いつの間にか、少女らしさは抜け、しっかりとした男性の顔つきになっていくアリーの熱い視線が真っ直ぐにシルビアンヌへと向けられた。
「僕が、シルビアンヌ様以外を愛することは永久にありません。貴方と出会い、貴方と一緒に過ごすと決めた日から僕の心は貴方の物。もし貴方が別のだれかと結ばれる日が来たとしても・・・それは変えられないと思います。」
胸がじわりじわりと熱くなっていくのをシルビアンヌは感じていた。
この数年で、シルビアンヌなりに四人の感情はそれとなく察していた。
ラルフもギデオンもジルも自分の事を好ましくは思っているのだと感じた。けれどアリーの視線だけは違った。
こちらも焼け付いてしまうのではないかと思えるほどに、熱い視線。
三人とは明らかに違った感情。
そんな感情を向けられるたびに、シルビアンヌは揺らぎそうになるのを必死に堪えてきた。
貴方は、ヒロインちゃんなのよ。貴方の幸せは、悪しき魔女の横じゃない。
シルビアンヌは今にもアリーの手を取ってしまいたくなる自分の心を叱咤すると、立ち上がり、美しく一礼をする。
「・・・失礼いたします。皆様・・・ごきげんよう。」
扉を開け、シルビアンヌはその場を後にすると、静かに自室へと足を向ける。
いつもは傍に控えている侍女には下がるように命じ、そして自室へと入り扉を閉めるとその場に座り込んだ。
「ぅ・・・ひっく・・・っぅぅ・・・」
縋り付いてしまいたくなった。
アリーの腕の中に飛び込んでしまいたかった。
だが、アリーはヒロインであり自分の運命の相手ではない。その先に死があると思うと、恐ろしくてならなかった。
どうして自分は悪しき魔女シルビアンヌなのだろうかと思った。
幼い頃はBLの世界へと転生したことに浮かれ、悪役令嬢であっても攻略対象者のトラウマを取り除いておけば大丈夫だなんて楽観的なことしか考えていなかった。
自分の死が間近に迫ってきて、やっと実感する。
死にたくない。
シルビアンヌはその夜、眠りに落ちるまで延々と泣き続けた。
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