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二十話
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シルビアンヌは学園に入学して一つ学んだ。
四人もの男性を侍らせている悪役令嬢には、女の子の可愛い友達は出来ない。
「はぁ・・・」
学園に入学すれば、恐らくはゲームのように皆がアリーに夢中になると考えていたのに、思いの外そうはならずにずっとシルビアンヌに四人はべったりなのである。
最初こそ、しばらくすればと我慢していたシルビアンヌであったが、ずっと一緒の学園で、ずっと四人と一緒というのは精神的に来るものがあった。
子どもの頃はまだ可愛らしかったから良かったが、今では皆がそれぞれ美しい男性であり、免疫をそれなりに着けて来ていたはずのシルビアンヌであっても、気を抜けばくらりとしそうなのである。
ダメよシルビアンヌ。彼らの恋愛対象は男性なのだから、貴方がもし彼らの美しさに惑わされてころりとでもいけば悪しき魔女シルビアンヌとしていつ仕立て上げられてもおかしくはない。
ゲームでは基本的に悪しき魔女シルビアンヌは、魔法を使ってアリーを酷い目にあわせたり、攻略対象者らの心を操ろうとしたりして、最終的には愛し合う二人の手によってその正体を暴かれ、処刑される。
そして最近になってシルビアンヌは一つの事に気が付いた。
この国には確かに魔女の伝承があり、それがきっと自分なのだという事。
ただ今の所シルビアンヌは魔法を使えるという事はなかったので、このままいけば、処刑されることもないだろうと父譲りの楽観性を持って過ごしていた。
そして、四人から離れて一人きりになりたくて、男女別の授業を気分がすぐれないと言ってさぼり、一人裏庭の森を歩いていた。
「はぁ~!久しぶりの日中の一人!最高だわ!」
思いきり伸びをして、森の中の空気を胸いっぱいに吸い込んだ時、不意に声が聞こえ、シルビアンヌは慌てて振り返った。
「え?・・・・」
けれど辺りには誰もおらず、シルビアンヌはきょろきょろとあたりを見回す。
だがまた声が聞こえる。
「こっちから?」
シルビアンヌは導かれるようにして森の中を歩き、そして次第に森は霧に包まれていく。
森の道はぬかるみはじめ、足を取られそうになりながらも進んで行くと目の前に大きな岩が五つそびえ立ち、そしてその中央に一つの紫色の水晶が輝いていた。
水晶の前へとシルビアンヌは進み、そして水晶を覗き込むとそこには美しい光がきらめいていた。
「綺麗。」
そっと手を伸ばして水晶に触れると、温かな何かがシルビアンヌの指先へと流れていく。
「不思議。私この場所を知らないのに、知っているみたい。」
温かなその光はシルビアンヌの指先から外へと出ると、星々が散らばる美しい夜空のようにきらめく。
『魔女に選ばれし少女シルビアンヌ。』
「え?」
シルビアンヌはその声に目を丸くすると、星々は煌めきながら声を紡ぐ。
『悪しきことに力を使えば悪しき魔女に、善きことに力を使えば善き魔女に。貴方はそれを選ぶ権利を持つ。』
その時になってやっとこれば魔女になる瞬間なのかと感じたシルビアンヌは、一歩後ろへと後ずさった。
「その力を・・拒否することは出来ないの?」
『この国には魔女の力は必要。もし貴方が力を拒否するならばこの国はいずれ亡びるだろう。魔女の魔力はこの国にとって必要不可欠なのです。』
そんな設定しらないぞとシルビアンヌは思いながら、そう言えばと思い出す。
ゲームのラスト、魔女が処刑されるのは王城の五つの岩の中央であり、そこで魔女は中央に置かれている紫色の水晶に力をすべて吸い取られ、そして消えてしまうのである。
嫌な汗が額から落ちる。
「悪しき魔女でも、善き魔女でも・・・それはいずれこの国の為に力を使いきらなければならないという事?」
『国には魔女の力が必要なのです。それ故に貴方はこの国に招かれた。魔女の力がなければ、国は亡びるのです。』
「私は?・・・・力を使い切って死ぬってこと?」
『そういう解釈も出来るでしょう。ただ善き魔女を選んだ場合、貴方が運命の番と共にあれば、選択肢を与えられます。』
どういう意味なのか、シルビアンヌは顔を歪ませたが、ふと思う。
何故ゲームの中の悪しき魔女シルビアンヌがあんなにも攻略対象者に執着し自分を愛すように画策しようとしたのか。それは、運命の番を探し求め、自分の生きる道を探していたからなのではないか。
頭の中で悪しき魔女シルビアンヌの言葉が反芻される。
『結局私は・・・ここで死ぬ運命なのね。貴方は幸せね、アリー。運命に出会えたのだもの。』
そう言って消えるシルビアンヌ。
悪しき魔女の死なのにもかかわらず、胸が痛くなったのを思い出す。
何故シルビアンヌが悪しき魔女になったのか、やっと今分かった気がした。
「・・・けど・・」
今のシルビアンヌは知っている。攻略対象者の誰ともシルビアンヌは運命ではないということを。だって、彼らの運命の相手はアリーだから。
シルビアンヌはぎゅっと拳を握ると決めた。
「私は、きっと運命の番を見つけて見せるわ。そして、生き残ってみせる。」
魔女の力が体に全て流れてくるのを感じながら、シルビアンヌは決意した。
四人もの男性を侍らせている悪役令嬢には、女の子の可愛い友達は出来ない。
「はぁ・・・」
学園に入学すれば、恐らくはゲームのように皆がアリーに夢中になると考えていたのに、思いの外そうはならずにずっとシルビアンヌに四人はべったりなのである。
最初こそ、しばらくすればと我慢していたシルビアンヌであったが、ずっと一緒の学園で、ずっと四人と一緒というのは精神的に来るものがあった。
子どもの頃はまだ可愛らしかったから良かったが、今では皆がそれぞれ美しい男性であり、免疫をそれなりに着けて来ていたはずのシルビアンヌであっても、気を抜けばくらりとしそうなのである。
ダメよシルビアンヌ。彼らの恋愛対象は男性なのだから、貴方がもし彼らの美しさに惑わされてころりとでもいけば悪しき魔女シルビアンヌとしていつ仕立て上げられてもおかしくはない。
ゲームでは基本的に悪しき魔女シルビアンヌは、魔法を使ってアリーを酷い目にあわせたり、攻略対象者らの心を操ろうとしたりして、最終的には愛し合う二人の手によってその正体を暴かれ、処刑される。
そして最近になってシルビアンヌは一つの事に気が付いた。
この国には確かに魔女の伝承があり、それがきっと自分なのだという事。
ただ今の所シルビアンヌは魔法を使えるという事はなかったので、このままいけば、処刑されることもないだろうと父譲りの楽観性を持って過ごしていた。
そして、四人から離れて一人きりになりたくて、男女別の授業を気分がすぐれないと言ってさぼり、一人裏庭の森を歩いていた。
「はぁ~!久しぶりの日中の一人!最高だわ!」
思いきり伸びをして、森の中の空気を胸いっぱいに吸い込んだ時、不意に声が聞こえ、シルビアンヌは慌てて振り返った。
「え?・・・・」
けれど辺りには誰もおらず、シルビアンヌはきょろきょろとあたりを見回す。
だがまた声が聞こえる。
「こっちから?」
シルビアンヌは導かれるようにして森の中を歩き、そして次第に森は霧に包まれていく。
森の道はぬかるみはじめ、足を取られそうになりながらも進んで行くと目の前に大きな岩が五つそびえ立ち、そしてその中央に一つの紫色の水晶が輝いていた。
水晶の前へとシルビアンヌは進み、そして水晶を覗き込むとそこには美しい光がきらめいていた。
「綺麗。」
そっと手を伸ばして水晶に触れると、温かな何かがシルビアンヌの指先へと流れていく。
「不思議。私この場所を知らないのに、知っているみたい。」
温かなその光はシルビアンヌの指先から外へと出ると、星々が散らばる美しい夜空のようにきらめく。
『魔女に選ばれし少女シルビアンヌ。』
「え?」
シルビアンヌはその声に目を丸くすると、星々は煌めきながら声を紡ぐ。
『悪しきことに力を使えば悪しき魔女に、善きことに力を使えば善き魔女に。貴方はそれを選ぶ権利を持つ。』
その時になってやっとこれば魔女になる瞬間なのかと感じたシルビアンヌは、一歩後ろへと後ずさった。
「その力を・・拒否することは出来ないの?」
『この国には魔女の力は必要。もし貴方が力を拒否するならばこの国はいずれ亡びるだろう。魔女の魔力はこの国にとって必要不可欠なのです。』
そんな設定しらないぞとシルビアンヌは思いながら、そう言えばと思い出す。
ゲームのラスト、魔女が処刑されるのは王城の五つの岩の中央であり、そこで魔女は中央に置かれている紫色の水晶に力をすべて吸い取られ、そして消えてしまうのである。
嫌な汗が額から落ちる。
「悪しき魔女でも、善き魔女でも・・・それはいずれこの国の為に力を使いきらなければならないという事?」
『国には魔女の力が必要なのです。それ故に貴方はこの国に招かれた。魔女の力がなければ、国は亡びるのです。』
「私は?・・・・力を使い切って死ぬってこと?」
『そういう解釈も出来るでしょう。ただ善き魔女を選んだ場合、貴方が運命の番と共にあれば、選択肢を与えられます。』
どういう意味なのか、シルビアンヌは顔を歪ませたが、ふと思う。
何故ゲームの中の悪しき魔女シルビアンヌがあんなにも攻略対象者に執着し自分を愛すように画策しようとしたのか。それは、運命の番を探し求め、自分の生きる道を探していたからなのではないか。
頭の中で悪しき魔女シルビアンヌの言葉が反芻される。
『結局私は・・・ここで死ぬ運命なのね。貴方は幸せね、アリー。運命に出会えたのだもの。』
そう言って消えるシルビアンヌ。
悪しき魔女の死なのにもかかわらず、胸が痛くなったのを思い出す。
何故シルビアンヌが悪しき魔女になったのか、やっと今分かった気がした。
「・・・けど・・」
今のシルビアンヌは知っている。攻略対象者の誰ともシルビアンヌは運命ではないということを。だって、彼らの運命の相手はアリーだから。
シルビアンヌはぎゅっと拳を握ると決めた。
「私は、きっと運命の番を見つけて見せるわ。そして、生き残ってみせる。」
魔女の力が体に全て流れてくるのを感じながら、シルビアンヌは決意した。
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