14 / 36
十四話
しおりを挟む
シルビアンヌは、しずかにため息をついた。
どうしてなんですの?どうして、こうなったのですの?
目の前にいるのは、王子に侯爵令息に公爵令息?いや、今は令嬢の格好であるが。
「どうしたんだい?シルビアンヌ嬢。僕の手土産のお茶は気に入らないかな?」
優しげな微笑を向けられたシルビアンヌは、ラルフに向かって笑みを張り付けると首を横に振った。
「いいえ。とても美味しいです。果物のお茶なんですね。甘いのに、苦みもあって、何だか不思議な感覚です。」
「本当だよなぁ。俺は少し苦手な味かもしれない。」
舌を行儀悪くぺろりと出すギデオンに、王子は苦笑し、その横に座る令嬢の格好をしたジルは優雅な姿勢でお茶を口に運ぶとふふふっと笑った。
「確かにギデオンは苦手かもしれないね。私は好きだけれど。」
三人ともとても楽しそうであるが、シルビアンヌは納得がいかなかった。
何故こうなったのか。
それは一か月ほど前に時は遡る。
シルビアンヌの元に、一通の手紙が届いた。
王家の印の推されたその手紙にはラルフ王子、ギデオン、ジルの三人がシルビアンヌの公爵家へと遊びに来たいと言う内容の物であり、シルビアンヌの父はかなり手紙の内容に驚いていた。
どういうことかと尋ねられたシルビアンヌは、自身も訳が分からないままに、父に言ったのだ。
「それぞれ最近できたお友達です。」
それ以外にどう言ったらいいのかが分からなかった。
父はじっとシルビアンヌの瞳を見た後に、大きくため息をついてから言った。
「シルビアンヌ。君が色々な事を調べたり、しでかしたりしている事は把握しているけれど・・とりあえず手に負えなくなった時にはすぐに言いなさい。」
「・・・・はい。」
さすが我が父であると、内心思った。楽天家なくせに、仕事は出来る男である。
そしてあれよあれよと日々は流れ、今日はシルビアンヌの家にて、押しかけお茶会が開かれていたのである。
なごやかなムードで始まったそのお茶会で、シルビアンヌはそっと視線をアリアへと移すと、アリアはいつも通りに侍女として傍に控えている。
はぁ、ここに座っているのがヒロインちゃんならば逆ハーの場面と言えるのに。まぁお兄様はいらっしゃらないけれど。
ここにヒロインちゃんが座っていたならば、なんて可愛らしいのかしら。
ちょっとアリアを横に座らせて妄想しようかしらなんて事をシルビアンヌが考えていると、すっと冷たい視線がアリアからもたらされ、シルビアンヌはすっと背筋を伸ばすと邪念を消した。
何故ばれるのか。未だに分からない。
「それでね、シルビアンヌ嬢。今日僕達が来たのには訳があるんだ。」
ラルフの言葉にシルビアンヌはお茶を飲んでいた手を止めると、顔を上げた。
三人の視線がシルビアンヌに集まっており、シルビアンヌは一体何を言われるのかと内心びくびくとしていた。
「そんなに怖がるなよ。別に取って食いはしねーよ。」
「そうそう。ほらお菓子食べながらで良いから。」
机に並ぶのは、我が家が準備した彩り豊かなお菓子達。その中には三人の持ってきた手土産も入っており、シルビアンヌは進めてくれるのならば遠慮せずにと、クッキーを手に取ると口へと運んだ。
甘い。
美味しい。
ふわっと可愛らしく微笑みを浮かべるシルビアンヌに、三人の表情は固まる。
常日頃はどちらかというと美しいと言う言葉の似あうシルビアンヌだが、お菓子を食べる姿はどこぞの絵本から飛び出してきた妖精なのではないかと思うほどに可愛らしい。
世に言うギャップ萌えというやつなのかもしれない。
食べ方は丁寧で令嬢らしいのに、口が小さいからなのか、もっそもっそと食べる姿は小動物のようである。
しばらくの間、本当は食べながら会話をしようと思っていた三人は、じっと静かにシルビアンヌが食べる姿を見入っていた。
つい、シルビアンヌが食べ終わるたびに次の菓子を進めてしまう。
「こっちは俺からの手土産の菓子だ。美味しいぞ。」
「あぁ、私の手土産のケーキだって美味しいですよ?」
シルビアンヌは進められてしまえば、瞳を輝かせて菓子に手を伸ばし口へと運ぶ。
甘い味が広がっていくと、シルビアンヌは思った。
あれ?今日はお菓子食べ放題のご褒美デーだったのかしら?ふむ。それなら王子達が来るのも別にいいかもしれませんわ。
アリアはシルビアンヌの考えていそうなことが手に取るようにわかり、小さくお茶のお代わりを注ぎながらため息をついた。
どうしてなんですの?どうして、こうなったのですの?
目の前にいるのは、王子に侯爵令息に公爵令息?いや、今は令嬢の格好であるが。
「どうしたんだい?シルビアンヌ嬢。僕の手土産のお茶は気に入らないかな?」
優しげな微笑を向けられたシルビアンヌは、ラルフに向かって笑みを張り付けると首を横に振った。
「いいえ。とても美味しいです。果物のお茶なんですね。甘いのに、苦みもあって、何だか不思議な感覚です。」
「本当だよなぁ。俺は少し苦手な味かもしれない。」
舌を行儀悪くぺろりと出すギデオンに、王子は苦笑し、その横に座る令嬢の格好をしたジルは優雅な姿勢でお茶を口に運ぶとふふふっと笑った。
「確かにギデオンは苦手かもしれないね。私は好きだけれど。」
三人ともとても楽しそうであるが、シルビアンヌは納得がいかなかった。
何故こうなったのか。
それは一か月ほど前に時は遡る。
シルビアンヌの元に、一通の手紙が届いた。
王家の印の推されたその手紙にはラルフ王子、ギデオン、ジルの三人がシルビアンヌの公爵家へと遊びに来たいと言う内容の物であり、シルビアンヌの父はかなり手紙の内容に驚いていた。
どういうことかと尋ねられたシルビアンヌは、自身も訳が分からないままに、父に言ったのだ。
「それぞれ最近できたお友達です。」
それ以外にどう言ったらいいのかが分からなかった。
父はじっとシルビアンヌの瞳を見た後に、大きくため息をついてから言った。
「シルビアンヌ。君が色々な事を調べたり、しでかしたりしている事は把握しているけれど・・とりあえず手に負えなくなった時にはすぐに言いなさい。」
「・・・・はい。」
さすが我が父であると、内心思った。楽天家なくせに、仕事は出来る男である。
そしてあれよあれよと日々は流れ、今日はシルビアンヌの家にて、押しかけお茶会が開かれていたのである。
なごやかなムードで始まったそのお茶会で、シルビアンヌはそっと視線をアリアへと移すと、アリアはいつも通りに侍女として傍に控えている。
はぁ、ここに座っているのがヒロインちゃんならば逆ハーの場面と言えるのに。まぁお兄様はいらっしゃらないけれど。
ここにヒロインちゃんが座っていたならば、なんて可愛らしいのかしら。
ちょっとアリアを横に座らせて妄想しようかしらなんて事をシルビアンヌが考えていると、すっと冷たい視線がアリアからもたらされ、シルビアンヌはすっと背筋を伸ばすと邪念を消した。
何故ばれるのか。未だに分からない。
「それでね、シルビアンヌ嬢。今日僕達が来たのには訳があるんだ。」
ラルフの言葉にシルビアンヌはお茶を飲んでいた手を止めると、顔を上げた。
三人の視線がシルビアンヌに集まっており、シルビアンヌは一体何を言われるのかと内心びくびくとしていた。
「そんなに怖がるなよ。別に取って食いはしねーよ。」
「そうそう。ほらお菓子食べながらで良いから。」
机に並ぶのは、我が家が準備した彩り豊かなお菓子達。その中には三人の持ってきた手土産も入っており、シルビアンヌは進めてくれるのならば遠慮せずにと、クッキーを手に取ると口へと運んだ。
甘い。
美味しい。
ふわっと可愛らしく微笑みを浮かべるシルビアンヌに、三人の表情は固まる。
常日頃はどちらかというと美しいと言う言葉の似あうシルビアンヌだが、お菓子を食べる姿はどこぞの絵本から飛び出してきた妖精なのではないかと思うほどに可愛らしい。
世に言うギャップ萌えというやつなのかもしれない。
食べ方は丁寧で令嬢らしいのに、口が小さいからなのか、もっそもっそと食べる姿は小動物のようである。
しばらくの間、本当は食べながら会話をしようと思っていた三人は、じっと静かにシルビアンヌが食べる姿を見入っていた。
つい、シルビアンヌが食べ終わるたびに次の菓子を進めてしまう。
「こっちは俺からの手土産の菓子だ。美味しいぞ。」
「あぁ、私の手土産のケーキだって美味しいですよ?」
シルビアンヌは進められてしまえば、瞳を輝かせて菓子に手を伸ばし口へと運ぶ。
甘い味が広がっていくと、シルビアンヌは思った。
あれ?今日はお菓子食べ放題のご褒美デーだったのかしら?ふむ。それなら王子達が来るのも別にいいかもしれませんわ。
アリアはシルビアンヌの考えていそうなことが手に取るようにわかり、小さくお茶のお代わりを注ぎながらため息をついた。
21
お気に入りに追加
1,825
あなたにおすすめの小説
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

気がつけばピンクでした
七地潮
恋愛
いつも通りの日常生活の中、ふと思い出したのは前世の記憶。
そして転生した自分は…ピンクでした。
そんな絶対にざまぁされる系ヒロインに転生したなんて、絶対嫌なアンジーが、どうにかするお話し。
小説家になろうでもアップしています
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる