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十話

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 ギデオンの一件からしばらくの間、シルビアンヌはダニエルに自分も狩りで頑張ったのにシルビアンヌは全く褒めてくれなかったと付きまとわれ、げっそりとしていた。

「シルビアンヌ様。大丈夫ですか?」

 息も絶え絶えで、やっと解放されたシルビアンヌはアリアのお茶を一口飲んで大きくため息をついた。

「大丈夫よ。それに・・・そろそろやらなくちゃいけない事もあるし。」

「やらなくちゃいけないこと?ですか?」

 一番厄介な相手と会わなければならない。

 シルビアンヌがさらに大きなため息をついた時であった。

 エリア商会の会長であるロトが到着したと他の侍女から知らせを受け、シルビアンヌは気合を入れると立ち上がった。

「アリア。ついに最後の相手とご対面よ。」

「最後の相手?ですか?」

「ええ!」

 貴方のもしかしたら未来の伴侶となるかもしれない、最後の相手よ!とはシルビアンヌは言わなかった。

 ただし、この最後の相手はあまりシルビアンヌ的にはお勧めできない。

 客室へと移動したシルビアンヌはエリア商会の会長ロトと傍に控えている一人の小柄な少女に挨拶をすると、先日のオレル侯爵家のお化粧大会での皆の評判を伝えた。

「本当にありがとうございます。お嬢様が紹介して下さった次の日から飛ぶように品物が売れ、好調でございます。」

 嬉しそうなロトに、シルビアンヌは笑顔で頷き返し、そして楽しそうに口を開いた。

「エリア商会の品々は本当に素晴らしいわ。それでぜひ、この商品の開発者の方にもお会いしてみたいのだけれど、ダメかしら?」

 ロトはその言葉に表情を変えることなく当たり障りのない言葉を述べる。

「それはそれはありがたいお話なのですが、実の所開発者のやつはとても気難しい人間でしてね、なので、お嬢様にお会いして粗相があるといけませんので。」

「あら、私そんな事は気にしないわ。」

 子どもらしく無邪気にそう言ったシルビアンヌは、視線を少女に向けると言った。

「こんなに可愛らしい男の子が開発者なんて、素晴らしい事じゃない。お名前を教えていただけないかしら?」

 ロトと少女、いや少年の瞳が大きく見開かれ、警戒する視線に変わる。

「お嬢様。何を言っているのです。この子は、私の姪っ子でしてね。」

「あら、会長は天涯孤独の身で、親戚はいらっしゃらないのではないの?別に嘘をつかなくても大丈夫よ。全て調べてあることですから。」

 ロトの瞳が険しくなり、シルビアンヌをじっと見つめる。

「・・お嬢様。何がおっしゃりたいのですか?」

 シルビアンヌは可愛らしく微笑みを浮かべると、小首を傾げて言った。

「あら、そんな怖いお顔をしないでくださいな。悪いお話ではなくってよ?」

 先ほどまでの和やかな雰囲気は一転し、静かな、沈黙が訪れる。

 シルビアンヌはあえてゆっくりとアリアの入れたお茶を一口飲むと、ふぅっと息を吐いて言った。

「リスターシェ公爵が妻、アメリ・リスターシェ様。あぁ、元々はアメリ姫様ですわね。現王の妹君であらせられますから。彼女を探していらっしゃるのでしょう?ジル・リスターシェ様。」

 名前を呼ばれた事に驚いたのか、ジルは目を丸くして立ちあがると、シルビアンヌをじっと見つめている。

 ロトは険しい表情のままシルビアンヌの動向を見つめているようであった。

 シルビアンヌは、もう一口紅茶を飲むと、ジルに言った。

「私、彼女がどこにいるのか存じておりますわよ。」

「なっ!?ほ、本当にでございますか!?」

「本当に!?」

 ロトとジルは驚いたように声を上げ、シルビアンヌはティーカップを机にコトリと置いた。

「ええ。とりあえず、どうか落ち着いてお座りくださいませ。」

 ジルは頷くと椅子に座り直し、ロトはじっとシルビアンヌの口が開くのを待っている。

 シルビアンヌは、笑みを消すと、静かに口を開いた。


 

 



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