5 / 21
五話 私にヒーローはいない
しおりを挟む
王宮の庭は、色とりどりの花が美しく咲きほこるが、中でも王家の有する黄金色の薔薇はこの世の物とも思えぬほどに輝き、美しく咲きほこる。
そんな薔薇の咲きほこる庭にて、ルナとアーロは向かい合って紅茶を飲んでいた。
目の前には様々な種類の菓子が並べられ、紅茶は一級品であり煎れた瞬間に香りが広がる。
素晴らしいお茶会の席ではあるが、ルナは緊張のあまり味がしなかった。
「普通にしゃべってかまわん。サイラスは、いつもああか?」
今まで無言だったアーロからの突然の質問に、ルナはこれは婚約破棄に協力してもらえるチャンスなのではないかと気づいた。
けれど調整が難しい。
あくまでも王家に非がないように、言い回しを気を付けなければならない。
「ありがとうございます。サイラス様は……自由な方ですので。ですが、御心を引き留められない私が悪いのです」
そう言った途端、アーロの眉間に深くシワがより、ルナは気分を害したかと慌てながら言葉を並べ立てていく。
「私はこう、体に凹凸がある方ではありませんし、サイラス様の好きな青い瞳でも銀色の美しい髪でもありませんし、サイラス様は綺麗な方が好きですから! ですから、私がいけないのです!」
アーロは怒らせたら怖い相手である。それは乙女ゲームの中でも描かれていた。だからこそ怒らせてはいけないと思って言葉を並べたが、どんどんとアーロの機嫌は悪くなっていく。
「……サイラスがそう言ったのか?」
「え? いえ、あの、分かります。サイラス様は……好みのはっきりとされている方ですから」
言っていて辛くなってきたルナである。
そんな相手が婚約者だなんて、何て現実は残酷なのであろうか。
アーロは大きくため息をついた時であった。庭の反対側を人影が通り、ルナは視線を向けた。
「あ」
「ん?」
ルナの視線の先へとアーロも視線を向ける。
そこには銀色のフードを深々と被った人がおり、ルナは立ち上がるとその場で頭を下げる。
「叔父上!」
その途端にアーロの表情は今まで見た事が無いほどに輝く。
ルナはその光景をちらりと横目で見て驚いていた。
クールなキャラのはずが今では叔父に向かって今にも駆け寄っていきそうな、尻尾をブンブンと振る犬のようである。
「アーロ。それに……サイラスの婚約者殿かな?」
アーロの叔父であり、現国王の年の離れた異母弟であるイーサン・オール・ライネジルは今年で25歳となる。
今にも駆け寄ってきそうなアーロのその姿に自らイーサンは歩み寄って来た。
銀色のフードをかぶる理由としては、イーサンの髪色と瞳が王族のそれとは違うからである。
イーサンの母は異国の姫君であった。金色の瞳と髪の美女であったから、生まれる子どもも王族の色が間違いなく出るだろうと皆が思っていた。
しかし、産まれたのは黒目黒髪のイーサンであった。
王族なのにもかかわずその容姿に、皆が不吉だと言い、そしてイーサンは生まれながらにして孤独な王子となったのである。
現在も黒目黒髪を隠すようにフードを深くかぶり、王宮外へはめったに出ることはない。
「はい。ルナ・ムーンと申します」
美しく一礼をしたルナは顔を上げる。
イーサンと目が合い、思わず顔がにやけてしまう。
やはり、さすがは乙女ゲームのヒーロー達である。
アーロもイーサンも見目が麗しくて目の保養になる。何故自分はサイラスの婚約者なのかとため息がつきたくなるほどである。
「……サイラスは?」
その言葉に、ルナとアーロはぴしりと動きを止める。
その様子にイーサンは首を傾げた。
「?……どうしたんだい?」
ルナは静かに微笑むと言った。
「体調が悪いそうです。今は部屋でおやすみになられていて、第一王子殿下が私を不憫に思い付き合って下さったのです」
その言葉にアーロは何かを言おうと口を開くが、そのまま閉じる。
二人の様子をイーサンが訝しんだ時であった。突風が吹き、イーサンのフードが落ちる。
「っひ」
後ろへと控えていた若い侍女が慌てて口を覆い、頭を下げた。
イーサンはその様子にため息をついてフードをかぶり直そうとしたが、ルナの一言に手を止めた。
「ふふ。今日の風はいたずらっ子ですね」
そんな薔薇の咲きほこる庭にて、ルナとアーロは向かい合って紅茶を飲んでいた。
目の前には様々な種類の菓子が並べられ、紅茶は一級品であり煎れた瞬間に香りが広がる。
素晴らしいお茶会の席ではあるが、ルナは緊張のあまり味がしなかった。
「普通にしゃべってかまわん。サイラスは、いつもああか?」
今まで無言だったアーロからの突然の質問に、ルナはこれは婚約破棄に協力してもらえるチャンスなのではないかと気づいた。
けれど調整が難しい。
あくまでも王家に非がないように、言い回しを気を付けなければならない。
「ありがとうございます。サイラス様は……自由な方ですので。ですが、御心を引き留められない私が悪いのです」
そう言った途端、アーロの眉間に深くシワがより、ルナは気分を害したかと慌てながら言葉を並べ立てていく。
「私はこう、体に凹凸がある方ではありませんし、サイラス様の好きな青い瞳でも銀色の美しい髪でもありませんし、サイラス様は綺麗な方が好きですから! ですから、私がいけないのです!」
アーロは怒らせたら怖い相手である。それは乙女ゲームの中でも描かれていた。だからこそ怒らせてはいけないと思って言葉を並べたが、どんどんとアーロの機嫌は悪くなっていく。
「……サイラスがそう言ったのか?」
「え? いえ、あの、分かります。サイラス様は……好みのはっきりとされている方ですから」
言っていて辛くなってきたルナである。
そんな相手が婚約者だなんて、何て現実は残酷なのであろうか。
アーロは大きくため息をついた時であった。庭の反対側を人影が通り、ルナは視線を向けた。
「あ」
「ん?」
ルナの視線の先へとアーロも視線を向ける。
そこには銀色のフードを深々と被った人がおり、ルナは立ち上がるとその場で頭を下げる。
「叔父上!」
その途端にアーロの表情は今まで見た事が無いほどに輝く。
ルナはその光景をちらりと横目で見て驚いていた。
クールなキャラのはずが今では叔父に向かって今にも駆け寄っていきそうな、尻尾をブンブンと振る犬のようである。
「アーロ。それに……サイラスの婚約者殿かな?」
アーロの叔父であり、現国王の年の離れた異母弟であるイーサン・オール・ライネジルは今年で25歳となる。
今にも駆け寄ってきそうなアーロのその姿に自らイーサンは歩み寄って来た。
銀色のフードをかぶる理由としては、イーサンの髪色と瞳が王族のそれとは違うからである。
イーサンの母は異国の姫君であった。金色の瞳と髪の美女であったから、生まれる子どもも王族の色が間違いなく出るだろうと皆が思っていた。
しかし、産まれたのは黒目黒髪のイーサンであった。
王族なのにもかかわずその容姿に、皆が不吉だと言い、そしてイーサンは生まれながらにして孤独な王子となったのである。
現在も黒目黒髪を隠すようにフードを深くかぶり、王宮外へはめったに出ることはない。
「はい。ルナ・ムーンと申します」
美しく一礼をしたルナは顔を上げる。
イーサンと目が合い、思わず顔がにやけてしまう。
やはり、さすがは乙女ゲームのヒーロー達である。
アーロもイーサンも見目が麗しくて目の保養になる。何故自分はサイラスの婚約者なのかとため息がつきたくなるほどである。
「……サイラスは?」
その言葉に、ルナとアーロはぴしりと動きを止める。
その様子にイーサンは首を傾げた。
「?……どうしたんだい?」
ルナは静かに微笑むと言った。
「体調が悪いそうです。今は部屋でおやすみになられていて、第一王子殿下が私を不憫に思い付き合って下さったのです」
その言葉にアーロは何かを言おうと口を開くが、そのまま閉じる。
二人の様子をイーサンが訝しんだ時であった。突風が吹き、イーサンのフードが落ちる。
「っひ」
後ろへと控えていた若い侍女が慌てて口を覆い、頭を下げた。
イーサンはその様子にため息をついてフードをかぶり直そうとしたが、ルナの一言に手を止めた。
「ふふ。今日の風はいたずらっ子ですね」
20
お気に入りに追加
2,329
あなたにおすすめの小説
婚約者が突然「悪役令嬢の私は身を引きますので、どうかヒロインと幸せになって下さい」なんて言い出したけれど、絶対に逃がさない
水谷繭
恋愛
王国の第三王子の僕には、フェリシア・レーンバリという世界一可愛い婚約者がいる。
しかし、フェリシアは突然「私との婚約を破棄していただけませんか」「悪役令嬢の私は身を引きますので、どうかヒロインと幸せになって下さい」なんて言い出した。
彼女の話によると、ここは乙女ゲームの世界で、僕はこれから転校してくるクリスティーナという少女に恋をして、最後にはフェリシアに婚約破棄をつきつけるらしい。
全くわけがわからない。というか僕が好きなのも結婚したいのもフェリシアだけだ。
彼女がこんなことを言いだしたのは、僕が愛情をちゃんと伝えていなかったせいに違いない。反省した僕は彼女の心を取り戻すべく動き出した。
◇表紙画像はノーコピーライトガール様のフリーイラストからお借りしました
◆2021/3/23完結
◆小説家になろうにも掲載しております
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
婚約破棄、国外追放。もうダメかと思いましたが、逃げた先の国の王子と関係が進みました。
冬吹せいら
恋愛
伯爵令嬢――リラ・カルメ―は有りもしない噂を流され婚約破棄されてしまった。
さらには国外追放までされてしまうが、逃げた先の国でのとある出来事をきっかけに、王子と親密な関係になる。
王子の提案で国に戻り――自分を国から追い出した公爵家、さらにはその仲間たちを倒し、国を平和にすることを誓うのだった。
【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。
まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。
私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。
お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。
けれど、彼に言われましたの。
「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」
そうですか。男に二言はありませんね?
読んでいただけたら嬉しいです。
第三王子の「運命の相手」は追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした
冬野月子
恋愛
「運命の相手を見つけたので婚約解消したい」
突然突拍子もないことを言い出した第三王子。その言葉に動揺する家族。
何故なら十年前に兄である王太子がそう言って元婚約者を捨て、子爵令嬢と結婚したから。
そして第三王子の『運命の相手』を見て彼らは絶句する。
――彼女は追放され、死んだ元婚約者にそっくりだったのだ。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。
桧山 紗綺
恋愛
子爵家の長男として生まれた主人公は幼い頃から家を出て、いずれ婿入りする男爵家で育てられた。婚約者とも穏やかで良好な関係を築いている。
それが綻んだのは学園へ入学して二年目のこと。
「婚約を破棄するわ」
ある日突然婚約者から婚約の解消を告げられる。婚約者の隣には別の男子生徒。
しかもすでに双方の親の間で話は済み婚約は解消されていると。
理解が追いつく前に婚約者は立ち去っていった。
一つ年下の婚約者とは学園に入学してから手紙のやり取りのみで、それでも休暇には帰って一緒に過ごした。
婚約者も入学してきた今年は去年の反省から友人付き合いを抑え自分を優先してほしいと言った婚約者と二人で過ごす時間を多く取るようにしていたのに。
それが段々減ってきたかと思えばそういうことかと乾いた笑いが落ちる。
恋のような熱烈な想いはなくとも、将来共に歩む相手、長い時間共に暮らした家族として大切に思っていたのに……。
そう思っていたのは自分だけで、『いらない』の一言で切り捨てられる存在だったのだ。
いずれ男爵家を継ぐからと男爵が学費を出して通わせてもらっていた学園。
来期からはそうでないと気づき青褪める。
婚約解消に伴う慰謝料で残り一年通えないか、両親に援助を得られないかと相談するが幼い頃から離れて育った主人公に家族は冷淡で――。
絶望する主人公を救ったのは学園で得た友人だった。
◇◇
幼い頃からの婚約者やその家から捨てられ、さらに実家の家族からも疎まれていたことを知り絶望する主人公が、友人やその家族に助けられて前に進んだり、贋金事件を追ったり可愛らしいヒロインとの切ない恋に身を焦がしたりするお話です。
基本は男性主人公の視点でお話が進みます。
◇◇
第16回恋愛小説大賞にエントリーしてました。
呼んでくださる方、応援してくださる方、感想なども皆様ありがとうございます。とても励まされます!
本編完結しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
ようやく番外編の更新をはじめました。お待たせしました!
◆番外編も更新終わりました、見てくださった皆様ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる