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第九話

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 突然激しく雨が降り始め、雷鳴が轟く。

 風は嵐のように吹き荒れていた。

 ルルティアはそんな様子に笑みを漏らさないように努めながら、先程までは熱かったお茶が冷えていたことや一瞬にして汚れもなく乾いた事。そして周りの様子から察して、落ち着きを取り戻した。

 シルビアはルルティアにかけたお茶が乾いた事に気付かず顔を真っ赤にして憤っている。

「貴方、何様なのかしら?大層なご忠告どうもありがとう。でも、ウィリアム様の婚約者は私なのよ!婚約者面はやめてちょうだい!」

 その言葉に、ルルティアは自分の胸に痛みが走らなかったことに驚いた。

 あれほどまでに愛した人を奪われて悲しんだというのに。

 自分は薄情だろうかと思った時、シルビアが言った。

「ウィリアム様は私の物なのよ。いい?」

 侯爵令嬢として、どうした教育を受けてきたのであろうか。

 そう、思った時に違和感を覚えた。

 いつもシルビアが近くを通ると鼻についた香水の香りが今日はしない。 

「シルビア様、香水を変えたのですか?」

「え?・・・えぇ。は、話を逸らさないでちょうだい。」

 いつもシルビアの香水の匂いを嗅ぐと気分が悪くなったので良かったと思った時、以前ウィリアムからも同じ匂いがしたことを思い出す。

「ウィリアム様とお揃いの香りだったのに、よろしかったのですか。」

「え?そ、れは。お揃いというわけでは。」

「そうなのですか?」

「あの香水はお父様が着けろって言うから仕方なかったのよ。」

「あぁ、セラフォード侯爵家はたしか香水の生産も盛んでしたね。」

「えぇ。でも最近は匂いがきついから、私もあまり着けたくはないのだけれど・・あ、でもウィリアム様はね、好きなのよ!この匂いを嗅いでいると癒されると言うもの!」

 にこにこと自慢げにそうシルビアは言うと、鞄から一つの小瓶を取り出した。

「可愛いでしょ?この小瓶のデザインの原案は私が考えたのよ!!ふふ。貴方と違って私には才能もあるの!」

 その時であった。

 大きな雷が庭の木に落ちて炎が上がった。

「きやぁぁぁ!何?!雷?もう!この屋敷に着いてから何て言う天気なのかしら?」

「それならばさっさと帰ったらどうかな?」

「え?」

 シルビアは突然現れたフィリップに目を丸くすると、目に見えて動揺していた。

 おそらくはルルティアしかいないと思ったからこそ令嬢らしからぬ無礼な振る舞いで現れたのであろう。

 フィリップはルルティアを庇うようにして立ち、その背に守られながらルルティアはフィリップに尋ねた。

「もうよろしいのですか?何か、聞き出したいことがあったのでは?だから、出てこなかったのですよね?」

 全てばれていたことにフィリップは驚いた顔で振り替えると、ばつが悪そうに顔を歪めてルルティアに言った。

「違うんだ。キミを囮に使ったわけではない。」

「分かっております。でも、何かしらを探ってらっしゃったんでしょう?」

「あぁ。」

 シュンとした様子にルルティアは可愛らしいなぁと笑みを浮かべながらいった。

「大丈夫です。精霊様のお力で私に守護がかけられていることも感じておりました。ですから、気にしないでくださいませ。」

「ルルティア。」

 ほっとした様子のフィリップに、シルビアは痺れを切らして口を開いた。

「突然の訪問申し訳ございません。ただ、私はどあしてもルルティア様にお伝えしたいことがあって。」

 フィリップは笑みを消すと、シルビアに冷たい視線を向けた。

「話をするつもりはない。さっさとお帰りを願おう。」

「そっ、そんな。あの、お待ちになって下さいませ。何か勘違いをされておりませんか?」

 すがりつくようなシルビアの手をフィリップは避けるように身を引くと、指をパチンと鳴らした。

 その瞬間にシルビアは姿を消した。

 ルルティアは驚くと、フィリップの服の袖を引いた。

「フィリップお兄様!シルビア様は?」

「ん?家に送り返しただけだよ。もう。本当にルルティアは良い子すぎるよ。詳しく話をするから一度座ろうか?」

「は、はい。」

 ルルティアは何故かすぐ隣で手をニギニギとされながら、フィリップの話を待つのであった。

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