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第六話

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 ルルティアが朝起きて、洋服はどうしようかと悩んでいると、メイドたちにドレスクロークいっぱいにドレスが詰め込まれているのを見せられて呆然とした。

 そしてあれよあれよという間に準備をされ、そして朝食を済ませると、にこにこと嬉しそうなフィリップと一緒に馬車に乗せられた。

「ルルティア。そのドレスとても似合っているよ。」

「あ、ありがとうございます。フィリップお兄様。」

 そう言いながらも、ルルティアはフィリップの装いを見て少しばかり驚いていた。

 明らかに自分の今日のドレスと会せた色合いになっており、これでは婚約者のようだとドキリと心臓がなってしまう。

 フィリップにはそんなつもりがないであろうことは分かっているのだが、こうもよくしてもらうと何故なのだろうかと不安に思う。

 何か、裏があるのではないか。

 いや、お兄様に限ってはないとルルティアは思い、フィリップを見つめると言った。

「お兄様。その・・・こんなによくしていただいても・・・私は何も返せません。」

「ルルティア。はぁ。キミは私がそんなに小さな男だと思っているのかい?」

「え?」

「可愛いルルティアの為ならば、私はなんでもするよ。ふふ。大丈夫。兄上にも許可はとってあるし、キミのご両親にだって了解はとってある。あ、一応言っておくけれどエヴィアン伯爵との婚約はもちろん白紙となっているからね。伯爵も分かっている。キミは、婚約を解消したばかりなんだから少しゆっくりをしていいんだよ。」

 にこにこと話をするフィリップに、ルルティアは驚きながらも首を傾げてしまう。

「本当に・・・両親は許して下さったのですか?」

「当たり前だろう?私もしばらくは休んでいいと言われているから、一緒にせっかくだから伸び伸びとしよう。ほら、ルルティアはこれまで頑張ってきたんだから、ご褒美だよ。」

 嬉しそうにそう言うフィリップに、ルルティアはほっとしながらも、笑みを返した。

 フィリップが楽しそうに話す事が、ルルティアも嬉しい。

「ふふ。お兄様。ありがとうございます。」

「こちらこそ。ルルティア今日は街へと遊びに行こう。いいだろう?」

「はい。」

 馬車の中でもフィリップは五年間の空白を埋めるように色々な事を話してくれた。それはどれもルルティアを笑顔にする話ばかりで、こんなにも楽しい外出はいつぶりだろうかとルルティアの心は温かくなった。

「さあ、いこうルルティア。」

 おそらく街には事前に連絡が通してあるのであろう。警備もしっかりされており、ルルティアとフィリップの入る店には人がいない。

 その為、ルルティアは人の目線を気にすることなく、店を見て回る事が出来た。

「ルルティア、これ可愛いよ。キミに似合いそうだな。」

 可愛らしいその桃色の花の髪留めに、ルルティアも瞳を輝かせた。

「本当ですね!あ・・・でも、青色ではないから・・・・あっ。」

 ルルティアは、自分の口を塞ぎ、そしてしょんぼりとすると首を横に振った。

 ウィリアムの瞳の色を身に着ける習慣が身についてしまっており、つい髪留めも青色ではないからと手を引きそうになった。

 もうそんな事をする必要はないのに。

 フィリップはそんなルルティアの髪の毛にそっと髪留めをつけると言った。

「ルルティア。ほら似合っているよ。良かったね。これからは何色でも、どんな飾りでも、キミの好きな物を身に着けられる。」

 その言葉にルルティアは目を丸くすると、少し考え、そして反芻するように小さく呟くと、頷いた。

「そう。ですね。」

「そうだよ。ほら、こっちもルルティアに似合いそうだよ。」

「あ、綺麗ですねぇ。」

「うん。ほら、こっちも可愛い。ルルティアは可愛いから何でも似合って困るねぇ。」

 嬉しそうにそう呟くフィリップに、ルルティアはクスクスと笑い声を漏らした。

「お兄様ったら、昔から私に甘すぎませんか?」

「そうかな?うーん。だって、私はルルティアよりも可愛らしい女性を知らないよ?」

「え?そんなわけないじゃないですか。私なんて・・そんなに大層なものではありません。」

「ん?んー。ルルティアがもしそう思ったとしても、私の一番はルルティアだから。それでいいだろう?さぁ、ルルティア。今日行くところはもっとあるよ。さぁ楽しもう。」

「はい。」

 ルルティアはフィリップの言葉に苦笑を浮かべると、昔からこの人は本当に自分に甘いと思いながら、今はこの甘さに浸っていたいと思うのであった。


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