生まれ変わった魔法使い 

かのん

文字の大きさ
上 下
5 / 14

五話 出会い

しおりを挟む
 お兄様と一緒に一曲踊った後、両親は他の貴族と、お兄様はご友人と話があるということで、心配されながらも一人になった。

 きっと一人で動けるタイミングは今しかないだろう。

 私は静かに王城の中庭を歩いていく。

 十年ぶりである。まぁ、ルティとしての記憶が戻ったのはつい最近なので仕方がないが、仲間達にはずいぶんと寂しい思いをさせてしまった。

「皆・・久しぶり。」

 英雄として眠っている仲間達。きっと、彼らの本当の姿を知るのは私だけ。

 墓石を前にすると、ついあの時に心が引っ張られそうになる。

 一人、また、一人。

 大切な仲間を失う苦しみは、心が少しずつ砕けていくようだった。

 そして、アベルを失って、私の心は、一度砕け散ってしまったのだと思う。伝えたい言葉が、本当はあった。けれど、結局最後まで言えなかった。

 墓石に触れると、ひやりとした感触が伝わってくる。

 あぁ、誰一人として、この墓の下には眠っていないというのに。

 アベルの事も結局連れて帰って来てあげられなかった。地面が砕け、アベルの体は、あの不毛の地へと飲み込まれてしまった。

 その時の事を想いだし、涙がにじんでくる。

 結局、私は自分だけしか救えなかった。

「・・・え?」

 涙がこぼれた時、その頬にハンカチがあてられ、驚き顔を上げた。

 そこには、少年がいた。

 頭から黒いローブを被り、目元しか見えない、少年。

 私を心配するように、そっと涙をハンカチで拭いながらこちらを伺うように小首をかしげる。

 赤い瞳にじっと見つめられ、心臓が煩いくらいに鳴る。

「・・・貴方は・・・いっ・・・!」

 右目が急に痛みだし、目を抑えると、少年は脇腹押さえて苦しげに息を吐いていた。その様子を見て驚きながら、手を伸ばすと、少年は荒く呼吸を繰り返し、手から逃れるように後ろへと飛び、そして背を向けると走り去って行ってしまった。

「あ・・・・べる?・・・」

 目元しか見えなかった。その瞳だって、アベルの澄んだ青色とは違い、赤色だった。

 けれど、胸が、痛い。

 手を伸ばすけれど、すでに彼の背中は見えなくなっており、手は宙を掴む。

 右目の痛みは薄れ、先ほどの痛みはまるで嘘だったかのように消え去る。夢だったのではないかと思うが、地面に落ちていたハンカチが、夢ではなかったのだと告げる。

 ハンカチを拾い上げそれをぎゅっと握りしめた。

 心臓がドクドクと脈打つ。懐かしい感覚と、喜び、突然の事への動揺。そして、彼だと思うのに体が拒絶するかのように震えだす。

「何・・・これ・・・」

 震えは止まらず、思わずその場に座り込んでしまう。

 地面の冷たさが、頭の中を冷静にしていく。

 どういうことなのか意味が分からず、震えていると、騎士が私の姿を見つけて駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?・・どうしてこんなところに・・・失礼ですが、抱きかかえてもかまいませんか?医務室へお連れします。」

「は・・はい・・」

 抱きかかえられ、そのまま医務室へと運ばれる。

 その後は家族が迎えに来て、そして屋敷へと帰る事となった。

 情報が欲しいと思った。あのフードの少年が何者なのかをとにかく知りたい。けれど、屋敷に帰ってからは両親と兄がつきっきりで看病をしてくれるおかげで、ベッドから一歩も出れないでいた。

「ルティシア・・大丈夫かい?」

「きっと陛下と踊って気疲れしてしまったのよぉ。大丈夫?ルティ。」

「あぁ、ルティ。大丈夫?変わってあげられるものなら、変わってあげたい。」

「あ、あの、お父様、お母様、お兄様。その・・・私は大丈夫です。お医者様も疲れたのだろうと言っていたではないですか。」

 このやりとりも何度目であろうかと、ルティは思う。けれど、瞳を潤ませて自分を心配してくれる家族がいることが嬉しくて、涙が滲む。

 家族というものは、こんなにも温かいのだな。

 自分の額を、優しく撫でてくれる母。心配そうに見守ってくれる父。そして温かな手で、私の手をぎゅっと握ってくれる兄。

 これが、家族か。

 前世で欲しいと願っていたものが、今世では当たり前のようにここにある。

「お父様、お母様、お兄様。大好き。」

 そう言うと、三人は私をぎゅっと抱きしめてくれた。それがとても心地良かった。


 


 

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

処理中です...