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五話 出会い
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お兄様と一緒に一曲踊った後、両親は他の貴族と、お兄様はご友人と話があるということで、心配されながらも一人になった。
きっと一人で動けるタイミングは今しかないだろう。
私は静かに王城の中庭を歩いていく。
十年ぶりである。まぁ、ルティとしての記憶が戻ったのはつい最近なので仕方がないが、仲間達にはずいぶんと寂しい思いをさせてしまった。
「皆・・久しぶり。」
英雄として眠っている仲間達。きっと、彼らの本当の姿を知るのは私だけ。
墓石を前にすると、ついあの時に心が引っ張られそうになる。
一人、また、一人。
大切な仲間を失う苦しみは、心が少しずつ砕けていくようだった。
そして、アベルを失って、私の心は、一度砕け散ってしまったのだと思う。伝えたい言葉が、本当はあった。けれど、結局最後まで言えなかった。
墓石に触れると、ひやりとした感触が伝わってくる。
あぁ、誰一人として、この墓の下には眠っていないというのに。
アベルの事も結局連れて帰って来てあげられなかった。地面が砕け、アベルの体は、あの不毛の地へと飲み込まれてしまった。
その時の事を想いだし、涙がにじんでくる。
結局、私は自分だけしか救えなかった。
「・・・え?」
涙がこぼれた時、その頬にハンカチがあてられ、驚き顔を上げた。
そこには、少年がいた。
頭から黒いローブを被り、目元しか見えない、少年。
私を心配するように、そっと涙をハンカチで拭いながらこちらを伺うように小首をかしげる。
赤い瞳にじっと見つめられ、心臓が煩いくらいに鳴る。
「・・・貴方は・・・いっ・・・!」
右目が急に痛みだし、目を抑えると、少年は脇腹押さえて苦しげに息を吐いていた。その様子を見て驚きながら、手を伸ばすと、少年は荒く呼吸を繰り返し、手から逃れるように後ろへと飛び、そして背を向けると走り去って行ってしまった。
「あ・・・・べる?・・・」
目元しか見えなかった。その瞳だって、アベルの澄んだ青色とは違い、赤色だった。
けれど、胸が、痛い。
手を伸ばすけれど、すでに彼の背中は見えなくなっており、手は宙を掴む。
右目の痛みは薄れ、先ほどの痛みはまるで嘘だったかのように消え去る。夢だったのではないかと思うが、地面に落ちていたハンカチが、夢ではなかったのだと告げる。
ハンカチを拾い上げそれをぎゅっと握りしめた。
心臓がドクドクと脈打つ。懐かしい感覚と、喜び、突然の事への動揺。そして、彼だと思うのに体が拒絶するかのように震えだす。
「何・・・これ・・・」
震えは止まらず、思わずその場に座り込んでしまう。
地面の冷たさが、頭の中を冷静にしていく。
どういうことなのか意味が分からず、震えていると、騎士が私の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?・・どうしてこんなところに・・・失礼ですが、抱きかかえてもかまいませんか?医務室へお連れします。」
「は・・はい・・」
抱きかかえられ、そのまま医務室へと運ばれる。
その後は家族が迎えに来て、そして屋敷へと帰る事となった。
情報が欲しいと思った。あのフードの少年が何者なのかをとにかく知りたい。けれど、屋敷に帰ってからは両親と兄がつきっきりで看病をしてくれるおかげで、ベッドから一歩も出れないでいた。
「ルティシア・・大丈夫かい?」
「きっと陛下と踊って気疲れしてしまったのよぉ。大丈夫?ルティ。」
「あぁ、ルティ。大丈夫?変わってあげられるものなら、変わってあげたい。」
「あ、あの、お父様、お母様、お兄様。その・・・私は大丈夫です。お医者様も疲れたのだろうと言っていたではないですか。」
このやりとりも何度目であろうかと、ルティは思う。けれど、瞳を潤ませて自分を心配してくれる家族がいることが嬉しくて、涙が滲む。
家族というものは、こんなにも温かいのだな。
自分の額を、優しく撫でてくれる母。心配そうに見守ってくれる父。そして温かな手で、私の手をぎゅっと握ってくれる兄。
これが、家族か。
前世で欲しいと願っていたものが、今世では当たり前のようにここにある。
「お父様、お母様、お兄様。大好き。」
そう言うと、三人は私をぎゅっと抱きしめてくれた。それがとても心地良かった。
きっと一人で動けるタイミングは今しかないだろう。
私は静かに王城の中庭を歩いていく。
十年ぶりである。まぁ、ルティとしての記憶が戻ったのはつい最近なので仕方がないが、仲間達にはずいぶんと寂しい思いをさせてしまった。
「皆・・久しぶり。」
英雄として眠っている仲間達。きっと、彼らの本当の姿を知るのは私だけ。
墓石を前にすると、ついあの時に心が引っ張られそうになる。
一人、また、一人。
大切な仲間を失う苦しみは、心が少しずつ砕けていくようだった。
そして、アベルを失って、私の心は、一度砕け散ってしまったのだと思う。伝えたい言葉が、本当はあった。けれど、結局最後まで言えなかった。
墓石に触れると、ひやりとした感触が伝わってくる。
あぁ、誰一人として、この墓の下には眠っていないというのに。
アベルの事も結局連れて帰って来てあげられなかった。地面が砕け、アベルの体は、あの不毛の地へと飲み込まれてしまった。
その時の事を想いだし、涙がにじんでくる。
結局、私は自分だけしか救えなかった。
「・・・え?」
涙がこぼれた時、その頬にハンカチがあてられ、驚き顔を上げた。
そこには、少年がいた。
頭から黒いローブを被り、目元しか見えない、少年。
私を心配するように、そっと涙をハンカチで拭いながらこちらを伺うように小首をかしげる。
赤い瞳にじっと見つめられ、心臓が煩いくらいに鳴る。
「・・・貴方は・・・いっ・・・!」
右目が急に痛みだし、目を抑えると、少年は脇腹押さえて苦しげに息を吐いていた。その様子を見て驚きながら、手を伸ばすと、少年は荒く呼吸を繰り返し、手から逃れるように後ろへと飛び、そして背を向けると走り去って行ってしまった。
「あ・・・・べる?・・・」
目元しか見えなかった。その瞳だって、アベルの澄んだ青色とは違い、赤色だった。
けれど、胸が、痛い。
手を伸ばすけれど、すでに彼の背中は見えなくなっており、手は宙を掴む。
右目の痛みは薄れ、先ほどの痛みはまるで嘘だったかのように消え去る。夢だったのではないかと思うが、地面に落ちていたハンカチが、夢ではなかったのだと告げる。
ハンカチを拾い上げそれをぎゅっと握りしめた。
心臓がドクドクと脈打つ。懐かしい感覚と、喜び、突然の事への動揺。そして、彼だと思うのに体が拒絶するかのように震えだす。
「何・・・これ・・・」
震えは止まらず、思わずその場に座り込んでしまう。
地面の冷たさが、頭の中を冷静にしていく。
どういうことなのか意味が分からず、震えていると、騎士が私の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?・・どうしてこんなところに・・・失礼ですが、抱きかかえてもかまいませんか?医務室へお連れします。」
「は・・はい・・」
抱きかかえられ、そのまま医務室へと運ばれる。
その後は家族が迎えに来て、そして屋敷へと帰る事となった。
情報が欲しいと思った。あのフードの少年が何者なのかをとにかく知りたい。けれど、屋敷に帰ってからは両親と兄がつきっきりで看病をしてくれるおかげで、ベッドから一歩も出れないでいた。
「ルティシア・・大丈夫かい?」
「きっと陛下と踊って気疲れしてしまったのよぉ。大丈夫?ルティ。」
「あぁ、ルティ。大丈夫?変わってあげられるものなら、変わってあげたい。」
「あ、あの、お父様、お母様、お兄様。その・・・私は大丈夫です。お医者様も疲れたのだろうと言っていたではないですか。」
このやりとりも何度目であろうかと、ルティは思う。けれど、瞳を潤ませて自分を心配してくれる家族がいることが嬉しくて、涙が滲む。
家族というものは、こんなにも温かいのだな。
自分の額を、優しく撫でてくれる母。心配そうに見守ってくれる父。そして温かな手で、私の手をぎゅっと握ってくれる兄。
これが、家族か。
前世で欲しいと願っていたものが、今世では当たり前のようにここにある。
「お父様、お母様、お兄様。大好き。」
そう言うと、三人は私をぎゅっと抱きしめてくれた。それがとても心地良かった。
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