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三話 王宮での舞踏会
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私の暮らすヒスラリア王国では、十歳になると貴族の子は王宮での舞踏会に参加するようになる。その為に今は王都にある別邸に滞在している。
基本的に生活は伯爵家の領地で送っていたのだが、十歳の舞踏会に参加した次の年度から、王立学園に貴族の子は進学することが定められている。来年度からは兄と共に王都で暮らし、学園に通うことになるのだ。
アベルを探すのは、学園に通いだし、自由に動ける時間が増えてからの方がいいだろう。そう思い、今は我慢をしている。
朝から体を磨き上げられ、そして、今日の為に用意された白色をベースとした蝶の刺繍が施されたドレスを着る。ふわりと柔らかなそのドレスを着て、侍女が化粧の準備をしている間に鏡の前でくるりと踊った。
「可愛い。」
くるりと回ると、ふわりとスカートが開く。まるで花のようで、可愛らしい。
前世では、戦いばかりの毎日であり、このように着飾る事はなかった。だからといってそうした可愛い物に興味がなかったわけではなく、むしろ、キラキラした物やふわふわした可愛らしい物が大好きだった。
ただ、前世の自分には似合わないと思い、戦いが終わった後も身に着けることはなかった。いや、それはただの言い訳で、見せる相手がいないのに、着飾る気になれなかったというのが正直なところだ。
どうせ着飾るならば、アベルに見て欲しかった。
少しだけ感傷的な気分になったが、侍女に椅子に座らされ、顔にはうっすらと化粧を施されていくと、それも晴れていく。
鏡に映る自分の顔は、傷一つない。
最終決戦の前までに、かなりの傷を負っていた自分の顔が、陶器のようにつるつるな事が、ちょっとだけ嬉しい。
ただ、私の容姿は普通とは異なっている。
両親とは全く違う毛色を持ち、その瞳は、片方ずつ色が異なる。曾祖母にあたる人が自分と同じ髪色をしていたというから先祖返りだろうと両親は言っていた。ただ、それは違う。この髪色と片方の瞳は、前世と同じだった。
髪は薄桃色のふわりとした髪をしている。そして瞳は、左目は前世と同じ澄んだエメラルド。そして魔獣に潰された右目は、ルビーよりも深い赤色となっていた。まるで呪いのようだなと思いながら、小さくため息をついた。
様々な髪色と瞳の色を持った者が多いヒスラリア王国だが、それでもオッドアイというものは珍しく、この瞳のせいで私が嫌な思いをするのではないかと、私の両親とお兄様は心配している。
ただ、人から嫌がらせを受けたり、悪口を言われることは慣れているので不必要な心配である。
「お嬢様・・なんて可愛らしいのでしょうか。」
「本当に、天使とはお嬢様の事を示しているに違いありません!」
「可愛らしいです。あぁ、本当に可愛らしいです。」
私の侍女達は語彙力が乏しいらしく、私の事を着飾ってはよく同じセリフを口にする。私はお世辞だと分かってはいても、そんな言葉が嬉しい。
前世では、私にそんなことを言ってくれるのは仲間達だけだった。仲間達に会う前まで、散々魔物だ、化物だ、なんてことばかり言われていたのでお世辞だとは分かっている。それでも、優しいウソで褒められることが心地よかった。
「ありがとう。」
ちゃんと笑えているだろうか。
「きゃー!お嬢様可愛いです!」
「天使がいるわ!」
「はぁはぁ・・可愛い通り越してます。」
侍女達がとても喜んでくれて、お世辞でも可愛いと言ってくれる。それがとても嬉しかった。
その後、お父様にもお母様にも、もちろんお兄様にもとても可愛い天使だと言ってもらえて、私はなんて幸せな場所に転生できたのだろうかと嬉しく思った。
そして願わくは、アベルも幸せな場所に生まれていますようにと心の中で祈った。
馬車に乗って向かった王城は、久しぶりに見たけれども、以前見た時よりも大きく感じた。やはり体が小さくなった分大きく感じるのだろう。
「綺麗・・」
馬車を下りて城までの道のりを歩くと、光が溢れていた。王城の城には、激減していたはずの妖精達が光を纏って飛び交っていた。
ここまで妖精達も戻ってきたのかと、嬉しく思っていると、妖精達が私を見つけてクルリと空を舞い懐かしげに挨拶をしてくれる。
『おかえり。』
『帰ってきたんだね。』
『また遊んでね。』
妖精は普通の人々には見えない。それにしても、転生してもすぐに気づくなんてすごいなぁと思いながら両親について歩いていく。
そして舞踏会場に入り、私は驚いた。
そこはまるで、美しい煌びやかな花畑のようだった。魔法使い達によって空中には光と美しい花々が飛ばされ、そして、音楽家達によって聞き心地の良いメロディーが紡がれる。
貴族とはこのように美しい場所で舞踏会を開くのだなと、内心驚きながら会場を歩く。
前世では関わることのない場所だったので新鮮であった。
会場の中を歩いていると、顔の知っている者達も中にはいる。騎士達や、魔獣討伐の為に協力してくれた貴族達。そしてファンファーレと共に現れた、現国王エヴァン・リース・ヒスラリア。かつてはちびっ子だった彼だが、昨年前国王より王位を賜ったとのこと。
前国王は、魔獣の討伐やらその後の処理やらでかなりげっそりとしていたから、息子に王位を譲ってきっと今頃隠居生活を楽しんでいる事だろう。
「・・懐かしいな・・」
ちびっ子エヴァンが、この十年で立派になったものだと、感慨深く思う。祝いの言葉を口にする彼を見つめていると、不意に、目があった気がした。
けれど、挨拶の終わりと共に、視線は外れる。
挨拶をしたいけれど、今はただの伯爵令嬢と言う身である。これからは遠目に見守っていこうと思う。
会場は煌びやかな音楽に包まれ、エヴァンが今年の十歳の貴族令嬢の中から一人、ダンスの相手を選ぶ。これはランダムに選ばれるものであり、十歳の令嬢にとっては、一番の楽しみの時であった。
誰を選ぶのだろうか。会場にいる令嬢達は頬を赤く染めて、どうか自分が選ばれますようにと祈っている。自分も昔は、王子様に憧れを持っていたなと、子どもの時の気持ちをふと思い出す。
その時であった。
「レディ。どうか私と踊っていただけますか?」
かつてはちびっ子だったエヴァンが、今では立派な青年となって自分の目の前にいる。
私は、ちびっ子エヴァンは、苦手だったダンスを克服したのだろうかと心の中でにやにやと笑いながら、表面上では微笑を浮かべて、美しく、スカートをつまみ礼をした。
基本的に生活は伯爵家の領地で送っていたのだが、十歳の舞踏会に参加した次の年度から、王立学園に貴族の子は進学することが定められている。来年度からは兄と共に王都で暮らし、学園に通うことになるのだ。
アベルを探すのは、学園に通いだし、自由に動ける時間が増えてからの方がいいだろう。そう思い、今は我慢をしている。
朝から体を磨き上げられ、そして、今日の為に用意された白色をベースとした蝶の刺繍が施されたドレスを着る。ふわりと柔らかなそのドレスを着て、侍女が化粧の準備をしている間に鏡の前でくるりと踊った。
「可愛い。」
くるりと回ると、ふわりとスカートが開く。まるで花のようで、可愛らしい。
前世では、戦いばかりの毎日であり、このように着飾る事はなかった。だからといってそうした可愛い物に興味がなかったわけではなく、むしろ、キラキラした物やふわふわした可愛らしい物が大好きだった。
ただ、前世の自分には似合わないと思い、戦いが終わった後も身に着けることはなかった。いや、それはただの言い訳で、見せる相手がいないのに、着飾る気になれなかったというのが正直なところだ。
どうせ着飾るならば、アベルに見て欲しかった。
少しだけ感傷的な気分になったが、侍女に椅子に座らされ、顔にはうっすらと化粧を施されていくと、それも晴れていく。
鏡に映る自分の顔は、傷一つない。
最終決戦の前までに、かなりの傷を負っていた自分の顔が、陶器のようにつるつるな事が、ちょっとだけ嬉しい。
ただ、私の容姿は普通とは異なっている。
両親とは全く違う毛色を持ち、その瞳は、片方ずつ色が異なる。曾祖母にあたる人が自分と同じ髪色をしていたというから先祖返りだろうと両親は言っていた。ただ、それは違う。この髪色と片方の瞳は、前世と同じだった。
髪は薄桃色のふわりとした髪をしている。そして瞳は、左目は前世と同じ澄んだエメラルド。そして魔獣に潰された右目は、ルビーよりも深い赤色となっていた。まるで呪いのようだなと思いながら、小さくため息をついた。
様々な髪色と瞳の色を持った者が多いヒスラリア王国だが、それでもオッドアイというものは珍しく、この瞳のせいで私が嫌な思いをするのではないかと、私の両親とお兄様は心配している。
ただ、人から嫌がらせを受けたり、悪口を言われることは慣れているので不必要な心配である。
「お嬢様・・なんて可愛らしいのでしょうか。」
「本当に、天使とはお嬢様の事を示しているに違いありません!」
「可愛らしいです。あぁ、本当に可愛らしいです。」
私の侍女達は語彙力が乏しいらしく、私の事を着飾ってはよく同じセリフを口にする。私はお世辞だと分かってはいても、そんな言葉が嬉しい。
前世では、私にそんなことを言ってくれるのは仲間達だけだった。仲間達に会う前まで、散々魔物だ、化物だ、なんてことばかり言われていたのでお世辞だとは分かっている。それでも、優しいウソで褒められることが心地よかった。
「ありがとう。」
ちゃんと笑えているだろうか。
「きゃー!お嬢様可愛いです!」
「天使がいるわ!」
「はぁはぁ・・可愛い通り越してます。」
侍女達がとても喜んでくれて、お世辞でも可愛いと言ってくれる。それがとても嬉しかった。
その後、お父様にもお母様にも、もちろんお兄様にもとても可愛い天使だと言ってもらえて、私はなんて幸せな場所に転生できたのだろうかと嬉しく思った。
そして願わくは、アベルも幸せな場所に生まれていますようにと心の中で祈った。
馬車に乗って向かった王城は、久しぶりに見たけれども、以前見た時よりも大きく感じた。やはり体が小さくなった分大きく感じるのだろう。
「綺麗・・」
馬車を下りて城までの道のりを歩くと、光が溢れていた。王城の城には、激減していたはずの妖精達が光を纏って飛び交っていた。
ここまで妖精達も戻ってきたのかと、嬉しく思っていると、妖精達が私を見つけてクルリと空を舞い懐かしげに挨拶をしてくれる。
『おかえり。』
『帰ってきたんだね。』
『また遊んでね。』
妖精は普通の人々には見えない。それにしても、転生してもすぐに気づくなんてすごいなぁと思いながら両親について歩いていく。
そして舞踏会場に入り、私は驚いた。
そこはまるで、美しい煌びやかな花畑のようだった。魔法使い達によって空中には光と美しい花々が飛ばされ、そして、音楽家達によって聞き心地の良いメロディーが紡がれる。
貴族とはこのように美しい場所で舞踏会を開くのだなと、内心驚きながら会場を歩く。
前世では関わることのない場所だったので新鮮であった。
会場の中を歩いていると、顔の知っている者達も中にはいる。騎士達や、魔獣討伐の為に協力してくれた貴族達。そしてファンファーレと共に現れた、現国王エヴァン・リース・ヒスラリア。かつてはちびっ子だった彼だが、昨年前国王より王位を賜ったとのこと。
前国王は、魔獣の討伐やらその後の処理やらでかなりげっそりとしていたから、息子に王位を譲ってきっと今頃隠居生活を楽しんでいる事だろう。
「・・懐かしいな・・」
ちびっ子エヴァンが、この十年で立派になったものだと、感慨深く思う。祝いの言葉を口にする彼を見つめていると、不意に、目があった気がした。
けれど、挨拶の終わりと共に、視線は外れる。
挨拶をしたいけれど、今はただの伯爵令嬢と言う身である。これからは遠目に見守っていこうと思う。
会場は煌びやかな音楽に包まれ、エヴァンが今年の十歳の貴族令嬢の中から一人、ダンスの相手を選ぶ。これはランダムに選ばれるものであり、十歳の令嬢にとっては、一番の楽しみの時であった。
誰を選ぶのだろうか。会場にいる令嬢達は頬を赤く染めて、どうか自分が選ばれますようにと祈っている。自分も昔は、王子様に憧れを持っていたなと、子どもの時の気持ちをふと思い出す。
その時であった。
「レディ。どうか私と踊っていただけますか?」
かつてはちびっ子だったエヴァンが、今では立派な青年となって自分の目の前にいる。
私は、ちびっ子エヴァンは、苦手だったダンスを克服したのだろうかと心の中でにやにやと笑いながら、表面上では微笑を浮かべて、美しく、スカートをつまみ礼をした。
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