3 / 14
三話 王宮での舞踏会
しおりを挟む
私の暮らすヒスラリア王国では、十歳になると貴族の子は王宮での舞踏会に参加するようになる。その為に今は王都にある別邸に滞在している。
基本的に生活は伯爵家の領地で送っていたのだが、十歳の舞踏会に参加した次の年度から、王立学園に貴族の子は進学することが定められている。来年度からは兄と共に王都で暮らし、学園に通うことになるのだ。
アベルを探すのは、学園に通いだし、自由に動ける時間が増えてからの方がいいだろう。そう思い、今は我慢をしている。
朝から体を磨き上げられ、そして、今日の為に用意された白色をベースとした蝶の刺繍が施されたドレスを着る。ふわりと柔らかなそのドレスを着て、侍女が化粧の準備をしている間に鏡の前でくるりと踊った。
「可愛い。」
くるりと回ると、ふわりとスカートが開く。まるで花のようで、可愛らしい。
前世では、戦いばかりの毎日であり、このように着飾る事はなかった。だからといってそうした可愛い物に興味がなかったわけではなく、むしろ、キラキラした物やふわふわした可愛らしい物が大好きだった。
ただ、前世の自分には似合わないと思い、戦いが終わった後も身に着けることはなかった。いや、それはただの言い訳で、見せる相手がいないのに、着飾る気になれなかったというのが正直なところだ。
どうせ着飾るならば、アベルに見て欲しかった。
少しだけ感傷的な気分になったが、侍女に椅子に座らされ、顔にはうっすらと化粧を施されていくと、それも晴れていく。
鏡に映る自分の顔は、傷一つない。
最終決戦の前までに、かなりの傷を負っていた自分の顔が、陶器のようにつるつるな事が、ちょっとだけ嬉しい。
ただ、私の容姿は普通とは異なっている。
両親とは全く違う毛色を持ち、その瞳は、片方ずつ色が異なる。曾祖母にあたる人が自分と同じ髪色をしていたというから先祖返りだろうと両親は言っていた。ただ、それは違う。この髪色と片方の瞳は、前世と同じだった。
髪は薄桃色のふわりとした髪をしている。そして瞳は、左目は前世と同じ澄んだエメラルド。そして魔獣に潰された右目は、ルビーよりも深い赤色となっていた。まるで呪いのようだなと思いながら、小さくため息をついた。
様々な髪色と瞳の色を持った者が多いヒスラリア王国だが、それでもオッドアイというものは珍しく、この瞳のせいで私が嫌な思いをするのではないかと、私の両親とお兄様は心配している。
ただ、人から嫌がらせを受けたり、悪口を言われることは慣れているので不必要な心配である。
「お嬢様・・なんて可愛らしいのでしょうか。」
「本当に、天使とはお嬢様の事を示しているに違いありません!」
「可愛らしいです。あぁ、本当に可愛らしいです。」
私の侍女達は語彙力が乏しいらしく、私の事を着飾ってはよく同じセリフを口にする。私はお世辞だと分かってはいても、そんな言葉が嬉しい。
前世では、私にそんなことを言ってくれるのは仲間達だけだった。仲間達に会う前まで、散々魔物だ、化物だ、なんてことばかり言われていたのでお世辞だとは分かっている。それでも、優しいウソで褒められることが心地よかった。
「ありがとう。」
ちゃんと笑えているだろうか。
「きゃー!お嬢様可愛いです!」
「天使がいるわ!」
「はぁはぁ・・可愛い通り越してます。」
侍女達がとても喜んでくれて、お世辞でも可愛いと言ってくれる。それがとても嬉しかった。
その後、お父様にもお母様にも、もちろんお兄様にもとても可愛い天使だと言ってもらえて、私はなんて幸せな場所に転生できたのだろうかと嬉しく思った。
そして願わくは、アベルも幸せな場所に生まれていますようにと心の中で祈った。
馬車に乗って向かった王城は、久しぶりに見たけれども、以前見た時よりも大きく感じた。やはり体が小さくなった分大きく感じるのだろう。
「綺麗・・」
馬車を下りて城までの道のりを歩くと、光が溢れていた。王城の城には、激減していたはずの妖精達が光を纏って飛び交っていた。
ここまで妖精達も戻ってきたのかと、嬉しく思っていると、妖精達が私を見つけてクルリと空を舞い懐かしげに挨拶をしてくれる。
『おかえり。』
『帰ってきたんだね。』
『また遊んでね。』
妖精は普通の人々には見えない。それにしても、転生してもすぐに気づくなんてすごいなぁと思いながら両親について歩いていく。
そして舞踏会場に入り、私は驚いた。
そこはまるで、美しい煌びやかな花畑のようだった。魔法使い達によって空中には光と美しい花々が飛ばされ、そして、音楽家達によって聞き心地の良いメロディーが紡がれる。
貴族とはこのように美しい場所で舞踏会を開くのだなと、内心驚きながら会場を歩く。
前世では関わることのない場所だったので新鮮であった。
会場の中を歩いていると、顔の知っている者達も中にはいる。騎士達や、魔獣討伐の為に協力してくれた貴族達。そしてファンファーレと共に現れた、現国王エヴァン・リース・ヒスラリア。かつてはちびっ子だった彼だが、昨年前国王より王位を賜ったとのこと。
前国王は、魔獣の討伐やらその後の処理やらでかなりげっそりとしていたから、息子に王位を譲ってきっと今頃隠居生活を楽しんでいる事だろう。
「・・懐かしいな・・」
ちびっ子エヴァンが、この十年で立派になったものだと、感慨深く思う。祝いの言葉を口にする彼を見つめていると、不意に、目があった気がした。
けれど、挨拶の終わりと共に、視線は外れる。
挨拶をしたいけれど、今はただの伯爵令嬢と言う身である。これからは遠目に見守っていこうと思う。
会場は煌びやかな音楽に包まれ、エヴァンが今年の十歳の貴族令嬢の中から一人、ダンスの相手を選ぶ。これはランダムに選ばれるものであり、十歳の令嬢にとっては、一番の楽しみの時であった。
誰を選ぶのだろうか。会場にいる令嬢達は頬を赤く染めて、どうか自分が選ばれますようにと祈っている。自分も昔は、王子様に憧れを持っていたなと、子どもの時の気持ちをふと思い出す。
その時であった。
「レディ。どうか私と踊っていただけますか?」
かつてはちびっ子だったエヴァンが、今では立派な青年となって自分の目の前にいる。
私は、ちびっ子エヴァンは、苦手だったダンスを克服したのだろうかと心の中でにやにやと笑いながら、表面上では微笑を浮かべて、美しく、スカートをつまみ礼をした。
基本的に生活は伯爵家の領地で送っていたのだが、十歳の舞踏会に参加した次の年度から、王立学園に貴族の子は進学することが定められている。来年度からは兄と共に王都で暮らし、学園に通うことになるのだ。
アベルを探すのは、学園に通いだし、自由に動ける時間が増えてからの方がいいだろう。そう思い、今は我慢をしている。
朝から体を磨き上げられ、そして、今日の為に用意された白色をベースとした蝶の刺繍が施されたドレスを着る。ふわりと柔らかなそのドレスを着て、侍女が化粧の準備をしている間に鏡の前でくるりと踊った。
「可愛い。」
くるりと回ると、ふわりとスカートが開く。まるで花のようで、可愛らしい。
前世では、戦いばかりの毎日であり、このように着飾る事はなかった。だからといってそうした可愛い物に興味がなかったわけではなく、むしろ、キラキラした物やふわふわした可愛らしい物が大好きだった。
ただ、前世の自分には似合わないと思い、戦いが終わった後も身に着けることはなかった。いや、それはただの言い訳で、見せる相手がいないのに、着飾る気になれなかったというのが正直なところだ。
どうせ着飾るならば、アベルに見て欲しかった。
少しだけ感傷的な気分になったが、侍女に椅子に座らされ、顔にはうっすらと化粧を施されていくと、それも晴れていく。
鏡に映る自分の顔は、傷一つない。
最終決戦の前までに、かなりの傷を負っていた自分の顔が、陶器のようにつるつるな事が、ちょっとだけ嬉しい。
ただ、私の容姿は普通とは異なっている。
両親とは全く違う毛色を持ち、その瞳は、片方ずつ色が異なる。曾祖母にあたる人が自分と同じ髪色をしていたというから先祖返りだろうと両親は言っていた。ただ、それは違う。この髪色と片方の瞳は、前世と同じだった。
髪は薄桃色のふわりとした髪をしている。そして瞳は、左目は前世と同じ澄んだエメラルド。そして魔獣に潰された右目は、ルビーよりも深い赤色となっていた。まるで呪いのようだなと思いながら、小さくため息をついた。
様々な髪色と瞳の色を持った者が多いヒスラリア王国だが、それでもオッドアイというものは珍しく、この瞳のせいで私が嫌な思いをするのではないかと、私の両親とお兄様は心配している。
ただ、人から嫌がらせを受けたり、悪口を言われることは慣れているので不必要な心配である。
「お嬢様・・なんて可愛らしいのでしょうか。」
「本当に、天使とはお嬢様の事を示しているに違いありません!」
「可愛らしいです。あぁ、本当に可愛らしいです。」
私の侍女達は語彙力が乏しいらしく、私の事を着飾ってはよく同じセリフを口にする。私はお世辞だと分かってはいても、そんな言葉が嬉しい。
前世では、私にそんなことを言ってくれるのは仲間達だけだった。仲間達に会う前まで、散々魔物だ、化物だ、なんてことばかり言われていたのでお世辞だとは分かっている。それでも、優しいウソで褒められることが心地よかった。
「ありがとう。」
ちゃんと笑えているだろうか。
「きゃー!お嬢様可愛いです!」
「天使がいるわ!」
「はぁはぁ・・可愛い通り越してます。」
侍女達がとても喜んでくれて、お世辞でも可愛いと言ってくれる。それがとても嬉しかった。
その後、お父様にもお母様にも、もちろんお兄様にもとても可愛い天使だと言ってもらえて、私はなんて幸せな場所に転生できたのだろうかと嬉しく思った。
そして願わくは、アベルも幸せな場所に生まれていますようにと心の中で祈った。
馬車に乗って向かった王城は、久しぶりに見たけれども、以前見た時よりも大きく感じた。やはり体が小さくなった分大きく感じるのだろう。
「綺麗・・」
馬車を下りて城までの道のりを歩くと、光が溢れていた。王城の城には、激減していたはずの妖精達が光を纏って飛び交っていた。
ここまで妖精達も戻ってきたのかと、嬉しく思っていると、妖精達が私を見つけてクルリと空を舞い懐かしげに挨拶をしてくれる。
『おかえり。』
『帰ってきたんだね。』
『また遊んでね。』
妖精は普通の人々には見えない。それにしても、転生してもすぐに気づくなんてすごいなぁと思いながら両親について歩いていく。
そして舞踏会場に入り、私は驚いた。
そこはまるで、美しい煌びやかな花畑のようだった。魔法使い達によって空中には光と美しい花々が飛ばされ、そして、音楽家達によって聞き心地の良いメロディーが紡がれる。
貴族とはこのように美しい場所で舞踏会を開くのだなと、内心驚きながら会場を歩く。
前世では関わることのない場所だったので新鮮であった。
会場の中を歩いていると、顔の知っている者達も中にはいる。騎士達や、魔獣討伐の為に協力してくれた貴族達。そしてファンファーレと共に現れた、現国王エヴァン・リース・ヒスラリア。かつてはちびっ子だった彼だが、昨年前国王より王位を賜ったとのこと。
前国王は、魔獣の討伐やらその後の処理やらでかなりげっそりとしていたから、息子に王位を譲ってきっと今頃隠居生活を楽しんでいる事だろう。
「・・懐かしいな・・」
ちびっ子エヴァンが、この十年で立派になったものだと、感慨深く思う。祝いの言葉を口にする彼を見つめていると、不意に、目があった気がした。
けれど、挨拶の終わりと共に、視線は外れる。
挨拶をしたいけれど、今はただの伯爵令嬢と言う身である。これからは遠目に見守っていこうと思う。
会場は煌びやかな音楽に包まれ、エヴァンが今年の十歳の貴族令嬢の中から一人、ダンスの相手を選ぶ。これはランダムに選ばれるものであり、十歳の令嬢にとっては、一番の楽しみの時であった。
誰を選ぶのだろうか。会場にいる令嬢達は頬を赤く染めて、どうか自分が選ばれますようにと祈っている。自分も昔は、王子様に憧れを持っていたなと、子どもの時の気持ちをふと思い出す。
その時であった。
「レディ。どうか私と踊っていただけますか?」
かつてはちびっ子だったエヴァンが、今では立派な青年となって自分の目の前にいる。
私は、ちびっ子エヴァンは、苦手だったダンスを克服したのだろうかと心の中でにやにやと笑いながら、表面上では微笑を浮かべて、美しく、スカートをつまみ礼をした。
1
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
【完結】ただの悪役令嬢ですが、大国の皇子を拾いました。〜お嬢様は、実は皇子な使用人に執着される〜
曽根原ツタ
恋愛
「――あなたに拾っていただけたことは、俺の人生の中で何よりも幸運でした」
(私は、とんでもない拾いものをしてしまったのね。この人は、大国の皇子様で、ゲームの攻略対象。そして私は……私は――ただの悪役令嬢)
そこは、運命で結ばれた男女の身体に、対になる紋章が浮かぶという伝説がある乙女ゲームの世界。
悪役令嬢ジェナー・エイデンは、ゲームをプレイしていた前世の記憶を思い出していた。屋敷の使用人として彼女に仕えている元孤児の青年ギルフォードは――ゲームの攻略対象の1人。その上、大国テーレの皇帝の隠し子だった。
いつの日にか、ギルフォードにはヒロインとの運命の印が現れる。ジェナーは、ギルフォードに思いを寄せつつも、未来に現れる本物のヒロインと彼の幸せを願い身を引くつもりだった。しかし、次第に運命の紋章にまつわる本当の真実が明らかになっていき……?
★使用人(実は皇子様)× お嬢様(悪役令嬢)の一筋縄ではいかない純愛ストーリーです。
小説家になろう様でも公開中
1月4日 HOTランキング1位ありがとうございます。
(完結保証 )
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。
ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる