義姉に彼氏なんてできなければいいなと思う俺

かのん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

義姉に彼氏なんてできなければいいなと思う俺

しおりを挟む

 ぴったりと閉めておいたはずのカーテンが勢い良く開けられる音が聞こえ、まぶしい日差しが顔に直撃して、うっと俺は布団を頭からかぶった。

 朝のこの時間、温かな布団の中でまどろむ時間が最高なのに誰が邪魔するのだ。

 母さん? いや、母さんは出張でいないはず。そう思った俺はハッとして、部屋に入って来たであろう人物に心当たりをつけた。

「こーら。ほら、布団から出て?」

 ベッドがぎしっと音を立てるのを感じて、俺はちらりと顔を布団から出すと、そこにはエプロンをつけた今年義姉となった美弥さんがいた。

 さらさらの黒髪を耳にかけ、こちらを見つめる美弥さんは嬉しそうに微笑みを浮かべると俺に向かって手を伸ばしてくる。

「ふふ。かわいー。寝ぐせ?」

 細い指が俺の寝ぐせに伸びる。そして頭を優しく撫でられた。

「朝ごはん準備してあるよ? 一緒に食べよう?」

 首を傾げられてそう言われ、俺は、ごくりと息を呑んでからこくこくとうなずいた。

「わ、分かった……準備したら下に行くから」

「うん。じゃあ急いでね?」

「……うん」

 美弥さんの背中を見送った俺は、布団の中で大きく深呼吸を繰り返してから自分を必死に落ちつける。

 理性との戦いである。

 今年の春、俺の母さんと美弥さんのお義父さんが結婚して一緒に暮らすようになったのだけれど、今は二人で出張中でありこの家には俺と美弥さんだけであった。

 はっきり言って、美弥さんは美人だ。

 目鼻立ちはくっきりとしているし、小柄で、スタイルもいい。

 そして何より、優しい。

 最初は義姉が出来ると聞いて、どんな人だろうかと不安と期待とであったが、美弥さんは、本当に、なんていうか……。

 俺は頭を振った。

 だめだ。これ以上考えると下に行くのが遅くなってしまう。

 急いで制服に着替えてから、俺は階段を降りると、洗面所で顔を洗い、美弥さんの待つ食卓へと向かった。

 一瞬鏡の前で前髪の寝ぐせを治そうかと思ったけれど、なんだか名残惜しくてそのままにした。

「おはよう。さ、食べようか」

「はい。あの、ありがとうございます。明日は俺が作るんで」

「え? ふふふ。じゃあ明日、楽しみにしているね?」

 可愛い。

 う……。俺は美弥さんにばれないように深呼吸をしてから、朝食を食べ始めたのだけれど、美弥さんが準備してくれたのは食パンに目玉焼きとベーコン。

 今まで朝にサラダなんて食べなかったけれど、美弥さんが健康のためにとおすすめしてくるので我慢して食べるようになった。

 美弥さんはぺろりと食べ終えると、コーヒーを飲みながら俺のことを楽しそうに見つめてくる。

「……なんすか?」

 見られていると食べずらくてそう言うと、美弥さんはコーヒーを一口飲みながら言った。

「何か、こうやって朝のんびりと過ごせるって幸せでしょ? 匠君と一緒に暮らせて幸せだなぁって思ってさ」

 うっと、口の中にあったパンを詰まらせてしまいそうになる。

 今までは基本的に空いた時間はスマホ見ながら食事もしていたし、大抵食事も一人であった。

 けれど美弥さんと一緒に暮らすようになってから、食事中はこうやって話すようになった。

 この時間が自分自身でもちょっと特別な時間だってことは認識していたから、美弥さんもそう思っていてくれたってことが、なんだかむず痒い。

「俺は……べつに」

「そう? ふふ。私は幸せだよ?」

「……ほ、ほら、仕事は!?」

 美弥さんは楽しそうに微笑む。

「私はリモートだから。ふふふ。リモート最高。こうやって匠君と過ごせるしね。あー。匠君が帰ってくるまで仕事かぁぁ」

 残念そうに言う美弥さんが、可愛い何てこと、本人には絶対に言えない。

 再起にっしょにいるのが当たり前になりすぎて、彼氏が出来たら絶対に泣く。

「でも、匠君に彼女が出来たら私泣くなー」

「え!?」

 自分の心を読まれたのかと思った。

 美弥さんは大きくため息をついた。

「彼女なんて作んないでよ~。私がいるからぁ~」

「う……まぁ……はい」

「へ?」

 美弥さんと俺は顔を見合わせて、そのまま二人とも顔を赤くしていく。

 この空気はダメだ。

 俺は慌てて朝食を口に詰め込むと水で流し込み、カバンを持った。

「い、行ってきます!」

「い、いってらっしゃい!」

 玄関をバタバタと準備をして出た俺は、走って学校へ向かう。

「何やってんだよ俺はぁぁぁあ!」

 家に帰るのが、朝から嫌になった。
 
 それに。美弥さんずっと彼氏なんて作らないで家にいてくれたらいいのになんてことを思っている自分が気持ち悪い。

「あああああああ!」

 早く大人になりたい。

 大人になったら、美弥さんに堂々と正面から一緒にいようって言えるのにと俺はそんな言い訳を考えたのだった。

しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

ぱら
2023.01.18 ぱら

再起にっしょに←最近一緒にですか?
(੭ ᐕ)?

綺麗なお義姉は好きですか?(CM)
を思い出した。(*´艸`*)

解除
みりあむ
2023.01.17 みりあむ

匠君は高校生かな?
可愛い♡

美弥さん、リモートワークってことは社会人ですよね。

年上の美人がお義姉さんになって同居…うわー色々大変そう( *´艸`)

解除
みりあむ
2023.01.17 みりあむ

承認不要です

俺の母さんと美弥さんのお義父さんが結婚…
   ↓
お父さん?


再起にっしょにいるの…
  ↓
最近いっしょにいる…?

でしょうか?

解除

あなたにおすすめの小説

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

私は恋をしている。

はるきりょう
恋愛
私は、旦那様に恋をしている。 あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。 私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします

リオール
恋愛
私には妹が一人いる。 みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。 それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。 妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。 いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。 ──ついでにアレもあげるわね。 ===== ※ギャグはありません ※全6話

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。