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義姉に彼氏なんてできなければいいなと思う俺
しおりを挟むぴったりと閉めておいたはずのカーテンが勢い良く開けられる音が聞こえ、まぶしい日差しが顔に直撃して、うっと俺は布団を頭からかぶった。
朝のこの時間、温かな布団の中でまどろむ時間が最高なのに誰が邪魔するのだ。
母さん? いや、母さんは出張でいないはず。そう思った俺はハッとして、部屋に入って来たであろう人物に心当たりをつけた。
「こーら。ほら、布団から出て?」
ベッドがぎしっと音を立てるのを感じて、俺はちらりと顔を布団から出すと、そこにはエプロンをつけた今年義姉となった美弥さんがいた。
さらさらの黒髪を耳にかけ、こちらを見つめる美弥さんは嬉しそうに微笑みを浮かべると俺に向かって手を伸ばしてくる。
「ふふ。かわいー。寝ぐせ?」
細い指が俺の寝ぐせに伸びる。そして頭を優しく撫でられた。
「朝ごはん準備してあるよ? 一緒に食べよう?」
首を傾げられてそう言われ、俺は、ごくりと息を呑んでからこくこくとうなずいた。
「わ、分かった……準備したら下に行くから」
「うん。じゃあ急いでね?」
「……うん」
美弥さんの背中を見送った俺は、布団の中で大きく深呼吸を繰り返してから自分を必死に落ちつける。
理性との戦いである。
今年の春、俺の母さんと美弥さんのお義父さんが結婚して一緒に暮らすようになったのだけれど、今は二人で出張中でありこの家には俺と美弥さんだけであった。
はっきり言って、美弥さんは美人だ。
目鼻立ちはくっきりとしているし、小柄で、スタイルもいい。
そして何より、優しい。
最初は義姉が出来ると聞いて、どんな人だろうかと不安と期待とであったが、美弥さんは、本当に、なんていうか……。
俺は頭を振った。
だめだ。これ以上考えると下に行くのが遅くなってしまう。
急いで制服に着替えてから、俺は階段を降りると、洗面所で顔を洗い、美弥さんの待つ食卓へと向かった。
一瞬鏡の前で前髪の寝ぐせを治そうかと思ったけれど、なんだか名残惜しくてそのままにした。
「おはよう。さ、食べようか」
「はい。あの、ありがとうございます。明日は俺が作るんで」
「え? ふふふ。じゃあ明日、楽しみにしているね?」
可愛い。
う……。俺は美弥さんにばれないように深呼吸をしてから、朝食を食べ始めたのだけれど、美弥さんが準備してくれたのは食パンに目玉焼きとベーコン。
今まで朝にサラダなんて食べなかったけれど、美弥さんが健康のためにとおすすめしてくるので我慢して食べるようになった。
美弥さんはぺろりと食べ終えると、コーヒーを飲みながら俺のことを楽しそうに見つめてくる。
「……なんすか?」
見られていると食べずらくてそう言うと、美弥さんはコーヒーを一口飲みながら言った。
「何か、こうやって朝のんびりと過ごせるって幸せでしょ? 匠君と一緒に暮らせて幸せだなぁって思ってさ」
うっと、口の中にあったパンを詰まらせてしまいそうになる。
今までは基本的に空いた時間はスマホ見ながら食事もしていたし、大抵食事も一人であった。
けれど美弥さんと一緒に暮らすようになってから、食事中はこうやって話すようになった。
この時間が自分自身でもちょっと特別な時間だってことは認識していたから、美弥さんもそう思っていてくれたってことが、なんだかむず痒い。
「俺は……べつに」
「そう? ふふ。私は幸せだよ?」
「……ほ、ほら、仕事は!?」
美弥さんは楽しそうに微笑む。
「私はリモートだから。ふふふ。リモート最高。こうやって匠君と過ごせるしね。あー。匠君が帰ってくるまで仕事かぁぁ」
残念そうに言う美弥さんが、可愛い何てこと、本人には絶対に言えない。
再起にっしょにいるのが当たり前になりすぎて、彼氏が出来たら絶対に泣く。
「でも、匠君に彼女が出来たら私泣くなー」
「え!?」
自分の心を読まれたのかと思った。
美弥さんは大きくため息をついた。
「彼女なんて作んないでよ~。私がいるからぁ~」
「う……まぁ……はい」
「へ?」
美弥さんと俺は顔を見合わせて、そのまま二人とも顔を赤くしていく。
この空気はダメだ。
俺は慌てて朝食を口に詰め込むと水で流し込み、カバンを持った。
「い、行ってきます!」
「い、いってらっしゃい!」
玄関をバタバタと準備をして出た俺は、走って学校へ向かう。
「何やってんだよ俺はぁぁぁあ!」
家に帰るのが、朝から嫌になった。
それに。美弥さんずっと彼氏なんて作らないで家にいてくれたらいいのになんてことを思っている自分が気持ち悪い。
「あああああああ!」
早く大人になりたい。
大人になったら、美弥さんに堂々と正面から一緒にいようって言えるのにと俺はそんな言い訳を考えたのだった。
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