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九話

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 体が、痛む。

 瞼が重たくて、開けたくない。けれど、痛みで意識はどんどんとはっきりとし、苦悶の声が漏れてしまう。

「う・・・うぅ・・」

「起きたか。」

 瞼を開けると、鉄格子が見えた。そして鉄格子の向こう側には軍服姿の銀色の髪の男性の姿があり、こちらを楽しそうに見つめながら言った。

「おはよう。精霊の愛し子様。」

 体をなんとか起き上がらせ、鉄格子の中を見渡すと、そこは簡素な部屋となっていた。暗く、妖精が一人もいないことがこんなにも不安に思うなんて、考えもしなかった。

 ここはどこなのだろうかと考えていると、目の前の男性が丁寧に教えてくれた。

「ここは、フィガロ王国の隣国にあたるアシュタル国だ。アシュタル国は精霊の守護のない国だが、きっと精霊の愛し子様がここで暮らして下さったら、精霊の守護を受けられる。だから、どうか精霊の愛し子様にはこの国に住んでほしいのだ。」

 その言葉に、私は戸惑った。アシュタル国の事は知らないが、自分にはすでに夫がいるわけだし、はいそうですかと移住することはできないだろう。

「あの・・私はもう結婚しているんです。なので、フィガロ王国に返して下さい。」

「結婚?あぁ、精霊の愛し子様を国に縛り付ける為に夫を与えられたのか。大丈夫。我が国に来て下されば、男など何人でも貴方に献上しよう。」

「え?いえ、そういうわけではなくて・・・」

「フィガロ王国よりも良い待遇をお約束する。」

 私としては多分最初にこの国に招かれていたならば、ここにいたと思う。けれども私が最初に招かれたのはフィガロ王国であり、そして、今更夫となった四人の事を忘れる事なんてできるわけがない。

 二十九歳独身、孤独な私を、たとえ短い間とはいえとても大切にしてくれている四人である。そんな四人を裏切る事は、私には出来ない。

 まだ、その愛しているだとか、す、好きだとかいう言葉を伝えた事はないが、確実に、私の中にはそう言った感情が芽生えている。あれだけのイケメンに毎日優しくされたら、ころりと行かない方がおかしい。うん。多分。私がビッチというわけではないことを信じたい。

「ごめんなさい。私はフィガロ国にいたいんです。」

 その言葉に男性の顔色は悪くなると、大きく息をつき、私の入れられている牢の鍵を開けると中に入ってきた。

 突然なんだろうと、見上げていると、ゆっくりと男性が私の頬に手を伸ばし、触れてきた。

「では、体から落としていくことにしよう。大丈夫。俺は上手い。」

「え?何が?」

 きょとんとしていると、男性が少し驚いたように目を丸くした後に私の額にキスを落としてきたので、もう頭の中は大混乱である。

 え?今、ちゅってした?え?ちゅってした?!どうしよう!これって不貞行為というやつにあたるのだろうか。もしかしてイケメン達に怒られる?いや、怒られると言うか、もしかして私捨てられるんじゃなかろうか。

 そんなわけも分からない事を考えている間に、私はベッドへと押し倒されてスカートの中へと男性の手がするりと入ってくる。

 突然の展開に、頭の中は大混乱で、そして二十九歳独身、孤独な私は恐怖よりも恥ずかしさよりも先に、四人の夫たちにどう言い訳するべきかを頭の中で考えていた。

 不可抗力だ。そう。不可抗力だ。夫達にはしっかりと誠実に、不可抗力だったと言う一言で押し切ろうと思ったその時であった。

 爆発音が響いて聞こえた。

「え?」

 爆発音は連続して起こり、次々に人々の悲鳴が聞こえだす。

 男性も目を丸くし、身を固くしている。

 私は嫌な予感しかせず、とにかく男性に自分の上からどいてくれと早く言うべきだった。
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