上 下
35 / 44

王家からの招待状編 八話

しおりを挟む

 王宮から領地へと帰る日、エヴァンとミラの元へ別れの挨拶にとラクトは訪れた。

 どうやら国王ともう一度話をしたらしく、ラクトの婚約者は十四歳に決定することにしたとのことであった。それは普通の貴族の令息令嬢の基本的な婚約適齢期といわれている年であるから、もしラクトの婚約者の座を狙い、それが叶わなかったとしても、他の婚約者が見つかるようにとの配慮である。

「お二人には、今回の一件に協力していただきありがとうございました。」

 爽やかな笑顔を浮かべるラクトに、ミラは微笑むと言った。

「こちらこそ、殿下の言葉により王都での噂を払拭することが出来ました。ありがとうございました。」

 エヴァンが今回の一件を断らなかった理由がミラの言葉にある。

 ラクトはエヴァンとミラに今回の件を頼む際に、見返りとして王都でのミラの噂の払拭を約束していた。辺境から頻繁には出てこない二人ではあるが、やはり王都の貴族との関係は大切であるから、ミラの悪い噂は出来るならば払拭したいところであった。

 それを王太子となったラクトの力を借りて行える事は光栄なことであった。

「いえ、ミラ夫人のような素敵な方が正当な評価を得るのは当然の事ですから。」

 エヴァンもミラの肩に手を置くと、ラクトに礼を伝える。

「その件については、俺からも感謝申し上げます。妻を悪く言われるのは、辛いものがあったので。」

「はは。アンシェスター殿は素晴らしい夫なのですね。本当に二人はお似合いです。」

 ラクトはそう言うと、にっこりとほほ笑みを浮かべて言った。

「あぁ、そう言えば最後に一つ。」

 二人が小首をかしげると、ラクトは楽しげな口調で言った。

「昨日の舞踏会にて、招待状を持たないミラ夫人のご両親が押しかけてきた一件がありましたが、しっかりと誠心誠意対応しましたのでご安心下さい。」

「は?」

 ミラが顔を青ざめさせると、ラクトは楽しそうに言った。

「本当に、ミラ夫人から話を聞いていた通りに、愉快な方達でした。舞踏会が終わるまで客室で待っていただき、私が直々にお話をし、ミラ夫人とアンシェスター殿がいかに素晴らしいかを話しておいて差し上げました。」

「それは・・・身内がまことに申し訳ございません。」

 動揺するミラに、ラクトは首を横に振った。

「ミラ夫人が謝る事ではありません。そもそも、招待状がないのに来る方がおかしいのです。その事についても言及し、お二人には今後、このような事がないように釘を刺しておきました。もし、また何かあれば、必ず力になります。ですから、言ってくださいね。」
 
 ラクトの言葉に、ミラとエヴァンは再度礼を伝え、そして馬車に乗って領地へと帰る時間がやってきた。

 そして最後の最後に、馬車に手を振りながらラクトが爆弾を落とす。

「お元気で!次にお会いできる時には、ご令嬢のヘレン嬢にも会えることを楽しみにしています!」

 現段階では婚約者の第一候補となっているのはエスタ家の令嬢である。故にその言葉は冗談だったのだろうが、エヴァンは悪魔ばりに低い声で返事を返した。

「ご冗談を。いくら殿下であっても・・・あまり軽口をいうものではありませんよ。」

 ラクトはその様子にけらけらと笑って手を振るものだから、肝が据わっている。

 傍に控えていた従者らは顔を青くして震えているのに、ラクトだけは本当に楽しそうである。

「そうですね!冗談は控えるようにします。ではお気をつけて!」

「殿下もお元気で!」

 次に会えるとしたならばいつになることだろうかと、ミラとエヴァンは苦笑を浮かべたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

二人目の夫ができるので

杉本凪咲
恋愛
辺境伯令嬢に生を受けた私は、公爵家の彼と結婚をした。 しかし彼は私を裏切り、他の女性と関係を持つ。 完全に愛が無くなった私は……

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...