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王家からの招待状編 八話
しおりを挟む王宮から領地へと帰る日、エヴァンとミラの元へ別れの挨拶にとラクトは訪れた。
どうやら国王ともう一度話をしたらしく、ラクトの婚約者は十四歳に決定することにしたとのことであった。それは普通の貴族の令息令嬢の基本的な婚約適齢期といわれている年であるから、もしラクトの婚約者の座を狙い、それが叶わなかったとしても、他の婚約者が見つかるようにとの配慮である。
「お二人には、今回の一件に協力していただきありがとうございました。」
爽やかな笑顔を浮かべるラクトに、ミラは微笑むと言った。
「こちらこそ、殿下の言葉により王都での噂を払拭することが出来ました。ありがとうございました。」
エヴァンが今回の一件を断らなかった理由がミラの言葉にある。
ラクトはエヴァンとミラに今回の件を頼む際に、見返りとして王都でのミラの噂の払拭を約束していた。辺境から頻繁には出てこない二人ではあるが、やはり王都の貴族との関係は大切であるから、ミラの悪い噂は出来るならば払拭したいところであった。
それを王太子となったラクトの力を借りて行える事は光栄なことであった。
「いえ、ミラ夫人のような素敵な方が正当な評価を得るのは当然の事ですから。」
エヴァンもミラの肩に手を置くと、ラクトに礼を伝える。
「その件については、俺からも感謝申し上げます。妻を悪く言われるのは、辛いものがあったので。」
「はは。アンシェスター殿は素晴らしい夫なのですね。本当に二人はお似合いです。」
ラクトはそう言うと、にっこりとほほ笑みを浮かべて言った。
「あぁ、そう言えば最後に一つ。」
二人が小首をかしげると、ラクトは楽しげな口調で言った。
「昨日の舞踏会にて、招待状を持たないミラ夫人のご両親が押しかけてきた一件がありましたが、しっかりと誠心誠意対応しましたのでご安心下さい。」
「は?」
ミラが顔を青ざめさせると、ラクトは楽しそうに言った。
「本当に、ミラ夫人から話を聞いていた通りに、愉快な方達でした。舞踏会が終わるまで客室で待っていただき、私が直々にお話をし、ミラ夫人とアンシェスター殿がいかに素晴らしいかを話しておいて差し上げました。」
「それは・・・身内がまことに申し訳ございません。」
動揺するミラに、ラクトは首を横に振った。
「ミラ夫人が謝る事ではありません。そもそも、招待状がないのに来る方がおかしいのです。その事についても言及し、お二人には今後、このような事がないように釘を刺しておきました。もし、また何かあれば、必ず力になります。ですから、言ってくださいね。」
ラクトの言葉に、ミラとエヴァンは再度礼を伝え、そして馬車に乗って領地へと帰る時間がやってきた。
そして最後の最後に、馬車に手を振りながらラクトが爆弾を落とす。
「お元気で!次にお会いできる時には、ご令嬢のヘレン嬢にも会えることを楽しみにしています!」
現段階では婚約者の第一候補となっているのはエスタ家の令嬢である。故にその言葉は冗談だったのだろうが、エヴァンは悪魔ばりに低い声で返事を返した。
「ご冗談を。いくら殿下であっても・・・あまり軽口をいうものではありませんよ。」
ラクトはその様子にけらけらと笑って手を振るものだから、肝が据わっている。
傍に控えていた従者らは顔を青くして震えているのに、ラクトだけは本当に楽しそうである。
「そうですね!冗談は控えるようにします。ではお気をつけて!」
「殿下もお元気で!」
次に会えるとしたならばいつになることだろうかと、ミラとエヴァンは苦笑を浮かべたのであった。
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