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王家からの招待状編 二話

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 王都へと着いたミラとエヴァンが向かった先は、王宮の南側にある、客人をもてなすための離宮、鳳凰宮殿であった。鳳凰宮殿は赤を基調として作られている宮殿であり、その美しさと豪華さは、客人皆の目を引くものである。

 そんな離宮の一等上等な部屋へと案内されたミラとエヴァンは、その後、国王ヴィクターから呼び出され、王宮の客室へと足を向けた。

 王太子発表の舞踏会が開かれるのは三日後であり、それまでは時間に余裕がある。

 王宮は祝い事であるからか美しい花々がいつも以上に飾られていた。

 客室にはすでに国王ヴィクターとその息子ラクト第一王子もソファに座っており、部屋へと案内され中に入った二人は頭を下げた。

 すると、そんな二人にヴィクターは笑みを向けると、エヴァンが挨拶をする間もなくしゃべり始めた。

「固い挨拶はいい。さぁ、こちらへ座れ。エヴァン、ミラ、久しぶりだな。」

 エヴァンはその言葉にミラに視線で座ろうと促し、ヴィクターとラクトの前へと二人は腰掛けた。

「陛下、殿下、お久しぶりでございます。」

 エヴァンの言葉にミラも頭を下げ、ヴィクターは頷いた。

「結婚式以来だな。時間とは過ぎるのが早いものだ。もう、我が子が王太子となる時がきた。なぁ、ラクト。」

 ヴィクターに呼び掛けられたラクトは、金髪碧眼と、国王によく似ている。けれど雰囲気は王妃似らしく、やわらかく、どこか可愛らしい印象を人には与える。

「はい。お二人にも祝いに来てもらい、とても嬉しく思っています。」

 微笑を向けられた二人は笑みを返した。

「王太子となる祝いの場に参加でき、こちらこそ嬉しく思います。」

「招待いただき本当にありがとうございます。」

 四人はしばらくの間他愛ない会話をした後に、ヴィクターが口を開いた。

「ラクト、私はエヴァンとしばらく話がある。ミラに庭を案内してあげなさい。」

 その言葉に、エヴァンは眉間にしわを寄せる。

「・・陛下?」

 ヴィクターはにっこりと笑い、そしてラクトに言った。

「しっかり、案内するのだぞ。」

 ラクトは頷き席を立つと、ミラに手を差し出した。

「アンシェスター夫人。どうぞこちらです。」

「は、はい。エヴァン様、行ってまいります。」

「・・・気を付けて。」

 エヴァンは目を細めるとヴィクターに視線を向けるが、ヴィクターは笑み崩さぬままにひらひらと二人に向かって手を振った。

 ミラはラクトにエスコートされて中庭へと出ると、ラクトは庭を丁寧に紹介してくれた。

 第一王子として礼儀正しく、所作も美しい姿に自身の子との差に苦笑を浮かべてしまう。

「どうしました?」

 ラクトはミラの様子を疑問に思い尋ねると、ミラは微笑み答えた。

「いえ、殿下があまりにもしっかりとなさっているものですから、我が子らにも見習わせたいなと思ったのです。」

 その言葉にラクトはじっとミラを見つめると更に尋ねた。

「アンシェスター夫人は・・・幸せですか?」

 突然の問いかけに、ミラはきょとんと小首を傾げた。




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