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第六十九話

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 頭がずきずきと痛み、目の奥が重たく感じる。

 アマリーは朦朧とする中、ゆっくりとどうにか瞼を開けた。

「あぁ、起きたか。」

 目の前にいる男性を見た時、アマリーは瞬きを何度か繰り返した。

 体を起こそうとするが、上手く起き上がることが出来ない。

「そのままで。私の名はジン。キミとは会ってみたかったんだ。会えて良かった。」

 頭がうまく回らないが、それでも見知らぬ男に話しかけられて焦りは感じていた。

 ここがどこなのか、何が起こったのかがさっぱり分からない。

 覚えているのは、豪雨と、それと、、、。

「る、、、ルルド、、様は、、、。」

「あー。土砂に巻き込まれたようだ。今、捜索隊が動いている。」

 その言葉に、アマリーは目を見開くと無理やり体を起き上がらせた。

 しかし、ジンに抑えられ、ベッドにまた横にさせられてしまう。

「無理はしない方がいい。それよりも、私と話をしよう。」

「え?」

 ジンは笑みを深めると、ゆっくりとした口調で言った。

「キミと私とでは因縁があってね。キミからしてみれば何の事かと思われるんだろうがね。」

 アマリーは眉間にしわを寄せるとどうにか意識をはっきりさせようと瞼をぎゅっと閉じてから開いた。

「ジン、、、、その名前、、、。」

「おや、気づいたかな?」

「まさか。」

 アマリーは目を見開いた。

「フィニア国の、、、まさか、、、国王陛下でしょうか?」

 驚くアマリーに、ジンは満足げに頷いた。

「あぁ。そうだとも。」

 アマリーは心臓が急に音を立てて鳴りだしたのを感じた。

 何故ここに国王がいるのかが理解が出来ない。だが、寝ているこの格好では不敬である。そう思い体を起き上がらせようとしたがそれは遠慮されてしまう。

「話は寝ながらで出来るだろう?」

「えぇっと、、、私は、、、構いませんが、申し訳ありません。」

「いや、いいんだ。さて、まずは、そうだなぁ。エミリアーデの事は知っているね?」

「え?えぇ、、、存じ上げております。確か、、、国王陛下の妹君でしょうか。」

「そうなんだ。それがねぇ、あの子、こっちに帰って来いというのに、帰らないと言うんだ。どうしてだろうかねぇ?私としては、妹が不憫でならないんだ。ハッキリ言って、そちらの対応が悪いから妹が追い詰められたのだろう?出来れば妹は連れ帰りたいし、国同士の諍いの種にもなりえるのにと思うんだが。」

 アマリーは必死に頭を働かせて答えた。

「差し出がましいようですが、エミリアーデ様はこちらの国に輿入れをしており、いくらそちらが主張しようともそちらへ帰る事は難しいかと存じます。」

「それが諍いの種になるとしてもかい?」

「種にはならないかと。どちらかと言えば、フィニア国がエミリアーデ様と画策したと、取られてもいいのですよ?ですがハンス陛下はそうはなさらなかった。その意味はお分かりになるでしょう?」

 ジンは肩をすくめると頷いた。

「では二つ目。レイスタン領でまがい物が見つかったという事で、こちらに来たとの事であったが、因縁でもつけようというのかい?」

 アマリーはどうにか必死に笑みを浮かべると首を横に振った。

「滅相もありません。ただ、まがい物らしきものが出た事は事実であり、それ故に、何故このようになったのか原因は突き止めなければなりません。」

「つまり、こちらに非があると?」

「いいえ。まがい物が、どこで、本物と入れ替わったかは分かっていませんから、フィニア国でそうなったのだと言われないために、あえて訪問したのです。」

 なるほど、上手い事を言うと思いながらジンは笑みを浮かべた。

「では、こちらに非があった場合は?」

「正していただけるよう努力していただければ。友好国であるフィニア国とは今後も末永くお付き合いしていきたいとハンス陛下もおっしゃっておりました。」

「ほうほう。ではもう一つ。キミにとってダルフェニア国とはどんな国だ?」

 その質問にアマリーは少し考えると、小さく頷いて言った。

「大国でありながらも、それに慢心せず向上心を持った国であると考えます。ですがそれはフィニア国も同様であると思います。互いに高めあい、良い国の付き合いが出来れば、さらに国は栄えていくでしょう。」

 そこまで言ったところでジンは両手を上げると大きくため息をついた。

「降参だ。何とも正論をぶつけてくる令嬢だな。」

「フィニア国国王陛下のご意向に沿えたのであれば光栄でございます。」

 ジンはため息をつくと、片眉を上げて言った。

「どこまで感づいている?」

「私は何も。ただ、アレンド国で使われた薬をまた使われるとは思いませんでしたわ。」

「なるほど、お見通しと言うわけか。」

 にやりと笑みを浮かべたジンは、アマリーに小瓶を差し出した。

「これを飲めば楽になるだろうよ。さぁ、私を信じることが出来るか?」

 面白そうに笑いながらそう言ったジンの手から、アマリーは小瓶を受け取るとすぐに嚥下した。

 その様子に一瞬で面白くなさそうにジンは顔を歪める。

「少しは躊躇わないか?」

「ふふ。ここで尻込みをしてはいらぬ疑いを生むやもしれませんから。」

「食えない女だ。だが、その度胸に免じて、その友好国とやらでいてやろう。」

「光栄にございます。そちらの国の証拠などございませんから、、、どうか、そのままでいて下さいませ。」

 さりげなく嫌味を言うと、ジンは爽やかに微笑んだ。

「何の事だろうか?」

 あくまでも今までの事など何もなかったかのような言いように、アマリーはため息をつきたくなった。

 だが、藪は突かない方がいいであろう。

 たとえどんなに裏で暗躍していたとしても、証拠がない以上は仕方がない。

 それに、国とは大きければ大きくなるほどに水面下で色々な駆け引きがあるものである。

 これからハンスやルルドはそうした駆け引きに挑んでいかなければならないのである。

 アマリーは折角調べに来たが、きっと証拠は何一つ残っていないのだろうなと小さく息をついた。

 エミリアーデの事もあるので、邪魔をしてきた自分が命があるだけでも儲け物であろう。

「あの、ルルド様は?」

「先ほど言っただろう?今捜索している。」

「え。」

 ジンは真剣な表情で言った。

「今回については本当に事故だぞ。アマリーをこちらへ連れてくるようには命じたが、地滑りは予測できなかった。」

 アマリーの顔から一気に血の気が引いていく。

「じゃあ、ルルド様は本当に、、、。」

「捜索中だ。」

 アマリーは最後に見たルルドの姿が頭を過ったのであった。


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