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第五十二話

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 アマリーは精神統一をして、そして静かな心で剣を振るう。

 その剣技は美しく、朝の光をキラキラと反射して輝いていた。

 けれど、アマリーの心には時折邪心が現れ、剣が乱れる。

「恋、ですなぁ。」

 セバスの言葉に、アマリーは思いきり転びそうになった。

「セバス!何を言っているの?!」

「ふふ。恋とは偉大ですなぁ。この間までちびっ子だったアマリー様が恋をして、剣にそれが現れるとは、この老いぼれはアマリー様の成長が嬉しゅうございます。」

 その言葉にアマリーは顔を真っ赤にした。

「もう。セバスってば、からかわないでちょうだい。そう言えば、いくら言ってもハンス陛下が貴方の事を剣帝って言うのよ。もう面倒だから訂正はしていないけれど。」

 セバスはにこりと笑みを深めると言った。

「そんな時代もございましたなぁ。」

「え?ウソ。本当なの?」

「わしらの時代はまだ殺伐とした時代でしたのでなぁ、たくさんの事があった。じゃが、この手に残ったのはむなしさだけですぞ。」

 セバスは空を見上げると、雲の流れを見つめながらそう言い、アマリーはそんなセバスを見つめた。

「セバス。」

 哀愁を漂わせるセバスに、アマリーは言った。

「ウソおっしゃい。あなた、この間六番目の娘に男の子が生まれたって言っていたわよね。残ったのはむなしさだけって、絶対嘘よね。」

 セバスは視線をすっとずらした。

 そんなセバスにアマリーは苦笑を浮かべまた剣を振る。

 セバスは微笑んだ。

 争いの中で剣を振るい、功績を立てるたびに皆が自分を褒め称えた。

 勲章をもらい、人を斬って、また勲章をもらい、生きるとは、死ぬとはどういう事なのか分からなくなった時があった。

 そんな時に、行くあてのない赤子を拾った。

 泣きわめき、生きたいと叫ぶ姿に心が震え、それからセバスはたくさんの子を育てた。

 金ならあった。

 けれど、赤子とは金でどうにかなるものではなく、必死に子育てをした。

 子が育つと、セバスの手伝いをその子はし、他の子も慈しんでくれるようになった。

 人の命は繋がっていくのだと、人を斬り、生を絶つことしかできなかった自分が子を育てたことで気づくことが出来た。

 そして、アマリーと出会った時に、悟った。

 あぁ、自分は人を斬る為に剣を極める運命であったわけではなかったのだ。この子に剣の美しさ、技、動き、精神を伝えるためにこそあったのだと思った。

 剣帝などとたいそうな呼び名で自分を呼ぶものがいるが、自分はそんなたいそうな人間ではない。

 ただ、剣の技を楽しむ、ただの老人だ。

「どれ、アマリーよ。打ち合いでもするか?」

「いいわね。負けないわよ。」

 平和はいい。

 そう考えれば、自分の苦悩した日々も報われると言うものだ。
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