11 / 41
十話 町へのお出かけ
しおりを挟む
城の馬車というものは豪華絢爛なものから、一見地味に見えても、内装はかなり凝った作りになっているものまでさまざまなものがある。
そんな馬車の一つ。
外装はかなりシックに作られているが、内装はこれでもかというくらいにクッションが敷き詰められ、座り心地抜群の馬車にアリシアはセオと共に乗っている。
セオは白いシャツに紺色のベスト、黒のズボンと軽装であり、アリシアもまた白いシャツに花柄のスカートといった華美になりすぎない格好をしている。
ただ、どれほど軽装をしようともセオの美しさを隠せるわけはなく、アリシアはさりげなくちらりとセオを見るたびにその神々しい姿に感嘆の息をつきそうになるのをぐっと我慢する。
いつもはかっちりと閉めているボタンが、今日は二番目まで開いており、そこからのぞく鎖骨がなんとも色っぽい。
ー眼福だわ。なんでこの世界にはカメラがないのかしら。
二人が馬車に乗っている理由はもちろんある。
決して二人の関係が急に発展してデートと言うわけではない。
馬車が止まると、セオは先に馬車を降りてアリシアへと手を差し出す。
エスコートをされそうになっているという事実に、アリシアの心とは裏腹に眉間にしっかりとしわが寄る。
はたから見ればかなり不服そうに見えるであろうが、アリシアは必死に自分の中にあふれるよこしまな感情を押し殺している最中なのである。
ーこれはただの、エスコートよ。手をつなぐのに、邪まな意図をもってはいけないわ。精神統一よ。煩悩よ私の中から去るのよ!
「では行こうか」
「はい」
セオもはあまり感情が表に出るわけではないため、二人とも終始無表情である。
そんな様子を少し遠めに騎士と従者は心配そうに、二人の初デートを見守っている。
二人にとっては初デートなるものではないのだが、城に使える者たちにとっては、デートである。
男女がでかければデートである。
生暖かい瞳で見守られているとも知らずに二人は、町中を歩いていく。
「今日は噴水広場から回ってみようと思っている。ハンカチは持ってきているか?」
「はい。もちろんでございます」
そう答えるとアリシアは小さな肩掛けカバンの中にぎっしりと詰められたハンカチをセオへと開けて見せる。
セオはうなずくと、アリシアの歩調に合わせながら噴水広場へと向かって歩き始めた。
そんな優しい気づかいにアリシアは内心で、こんなにもいい男なのにヒロイン様は何故選んでくれなかったのだとハンカチをかみたくなる。
「アリシア……君にはここがどのように見える?」
「え?」
セオの言葉に、アリシアは噴水広場の方へと視線を移す。
そして言葉を失った。
噴水の水が、恐ろしい色をしているのである。
けれど、それに全く気にしていないように人々は噴水の前で待ち合わせたり、その噴水の水を触ってったりしている。
アリシアは思わず口を開け広げたまま、眉間にぐっとしわを寄せて言った。
「水路に問題があるのですか?! これは、あまりにひどいですわ」
セオはその言葉に満足げにうなずき、そして無表情が和らぐと言った。
「アリシア。君は本当に素晴らしい目をもっているようだ」
その言葉にアリシアは小首をかしげるのであった。
★★★★
たくさんの感想ありがとうございます!
いつも励みにさせていただいております。
作者は生活面にてなかなか時間がとれず、感想を返すことが難しい状況にあります。なので、返すこともあれば、返せないこともありますので、大変心苦しくはあるのですが、理解していただけるとありがたいです。
また、誤字脱字にての報告についてです。
大変ありがたいのですが、【作者がへっぽこ】なため、たまにどこに誤字脱字があるのか見つけられずに、右往左往して、結局見つけられていないことがあります。本当にすみません。
確認できたものは、訂正するようにしていますが、時間的な問題にて、次話を書くことを優先する場合もあります。
心苦しくはあるのですが、豆腐メンタルな作者をご理解いただけるとありがたいです。
よろしくお願いいたします。
作者 かのん
そんな馬車の一つ。
外装はかなりシックに作られているが、内装はこれでもかというくらいにクッションが敷き詰められ、座り心地抜群の馬車にアリシアはセオと共に乗っている。
セオは白いシャツに紺色のベスト、黒のズボンと軽装であり、アリシアもまた白いシャツに花柄のスカートといった華美になりすぎない格好をしている。
ただ、どれほど軽装をしようともセオの美しさを隠せるわけはなく、アリシアはさりげなくちらりとセオを見るたびにその神々しい姿に感嘆の息をつきそうになるのをぐっと我慢する。
いつもはかっちりと閉めているボタンが、今日は二番目まで開いており、そこからのぞく鎖骨がなんとも色っぽい。
ー眼福だわ。なんでこの世界にはカメラがないのかしら。
二人が馬車に乗っている理由はもちろんある。
決して二人の関係が急に発展してデートと言うわけではない。
馬車が止まると、セオは先に馬車を降りてアリシアへと手を差し出す。
エスコートをされそうになっているという事実に、アリシアの心とは裏腹に眉間にしっかりとしわが寄る。
はたから見ればかなり不服そうに見えるであろうが、アリシアは必死に自分の中にあふれるよこしまな感情を押し殺している最中なのである。
ーこれはただの、エスコートよ。手をつなぐのに、邪まな意図をもってはいけないわ。精神統一よ。煩悩よ私の中から去るのよ!
「では行こうか」
「はい」
セオもはあまり感情が表に出るわけではないため、二人とも終始無表情である。
そんな様子を少し遠めに騎士と従者は心配そうに、二人の初デートを見守っている。
二人にとっては初デートなるものではないのだが、城に使える者たちにとっては、デートである。
男女がでかければデートである。
生暖かい瞳で見守られているとも知らずに二人は、町中を歩いていく。
「今日は噴水広場から回ってみようと思っている。ハンカチは持ってきているか?」
「はい。もちろんでございます」
そう答えるとアリシアは小さな肩掛けカバンの中にぎっしりと詰められたハンカチをセオへと開けて見せる。
セオはうなずくと、アリシアの歩調に合わせながら噴水広場へと向かって歩き始めた。
そんな優しい気づかいにアリシアは内心で、こんなにもいい男なのにヒロイン様は何故選んでくれなかったのだとハンカチをかみたくなる。
「アリシア……君にはここがどのように見える?」
「え?」
セオの言葉に、アリシアは噴水広場の方へと視線を移す。
そして言葉を失った。
噴水の水が、恐ろしい色をしているのである。
けれど、それに全く気にしていないように人々は噴水の前で待ち合わせたり、その噴水の水を触ってったりしている。
アリシアは思わず口を開け広げたまま、眉間にぐっとしわを寄せて言った。
「水路に問題があるのですか?! これは、あまりにひどいですわ」
セオはその言葉に満足げにうなずき、そして無表情が和らぐと言った。
「アリシア。君は本当に素晴らしい目をもっているようだ」
その言葉にアリシアは小首をかしげるのであった。
★★★★
たくさんの感想ありがとうございます!
いつも励みにさせていただいております。
作者は生活面にてなかなか時間がとれず、感想を返すことが難しい状況にあります。なので、返すこともあれば、返せないこともありますので、大変心苦しくはあるのですが、理解していただけるとありがたいです。
また、誤字脱字にての報告についてです。
大変ありがたいのですが、【作者がへっぽこ】なため、たまにどこに誤字脱字があるのか見つけられずに、右往左往して、結局見つけられていないことがあります。本当にすみません。
確認できたものは、訂正するようにしていますが、時間的な問題にて、次話を書くことを優先する場合もあります。
心苦しくはあるのですが、豆腐メンタルな作者をご理解いただけるとありがたいです。
よろしくお願いいたします。
作者 かのん
21
お気に入りに追加
3,440
あなたにおすすめの小説
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~
ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】
転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。
侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。
婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。
目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。
卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。
○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。
○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる