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 リナリーの悪巧み21

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 リナリーはやってみたかった。



 魔王降臨。



 そして、カールに女と思われていなかった事を気にし、魔王の横に相応しい装いに身を包んでみたかった。



 ただ舞踏会に行くのではつまらない。せっかくなら皆の想像するような魔王とその后のように現れてみたくて、シバにも協力してもらった。



 思った以上に効果はあったようで、皆が息を呑んだのが分かった。



 不意にアランの声が聞こえた。



「美しい、、、」



 そんな言葉をアランから聞くとは思っても見なかった。



「聞くな。耳が汚れる。」



 皆に聞こえないようにシバが耳元で囁く。そして腰に手を回してリードをしてくれる。



 皆がこちらを見つめてくる。 



 男性とよく目が合う。

 美しく見えるように微笑みで目線に答えると頬を朱に染める。しかし次の瞬間青ざめて目をそらされてしまう。

 後ろを振り返ると、シバがにっこりと甘く微笑んでいる。



「リナリー。あまりその美しい笑みを振りまくな。焼いてしまう。」



 顔が一気に熱くなる。



 リナリーとシバはアランの前まで移動すると頭を下げた。



「第二王子殿下。婚約者様。この度はご婚約おめでとうございます。遅れてしまい申し訳ありません。」

「い、、、いや。その、本当にリナリーか?」



 リナリーはくすりと笑って首を傾げた。



「もう、私の顔をお忘れですか?」

「いや、そうではなく、あまりにも、、、美しく、、、、ひっ!」



 思わずアランがそう言ってリナリーに手を伸ばそうとした時、リナリーを後ろからシバは抱き締め、自分へ引き寄せた。



「アラン殿下。ご婚約おめでとうございます。婚約者殿も大変お美しいですね。」

「ま、、、、シバ殿。祝の言葉ありがとうございます。婚約者のクレアです。」

「クレアでございます。」



 うっとりと、シバに媚びるような目つきに、リナリーは目を細くし、にこやかに笑みを浮かべて言った。



「本当にお似合いですわ。(馬鹿そうで。)」



「い、いや。その。リナリーは暮らしはどうだ?」



 リナリーはシバを見上げ、そして笑みを浮かべるとアランを見つめていった。

「とても良くしていただいております。」

「そ、、そうか。」

「アラン殿には感謝してもしきれない。こんな素敵な人を私の妻に迎えられるのだ。これ程の幸せはない。」



 シバは当てつけるようにそう言うと、リナリーを見つめた。



「リナリー。アラン殿はお忙しい。国王陛下にご挨拶に行こう。」

「えぇ。」



 寄り添って歩いていく二人をアランは呆然と見送った。



 国王は挨拶に行くと、少しばかり気まずそうにしていたが、こちらの幸せ気な様子に安堵したようであった。



「リナリー。リナリーの父上はどちらに?」

「父ですか、、、えっと、あそこに。」

「挨拶に行こうか。」

「え、、、えぇ。」

 久しぶりの再開に、リナリーは思いの外、会い辛さを感じた。



「リナリーか。」

「お久しぶりでございます。」

「お初にお目にかかります。ガボット公爵。」



 ガボット公爵はシバに恭しげに頭を下げた。



「お初にお目にかかります。魔王陛下。」

「こちらから挨拶に伺えず申し訳ない。」

「いえ、、、リナリー。元気でやっているか。」

「、、、はい。」

「そうか。」



 リナリーは、小さく息を吐くと、父を見た。

「お父様。、、、どうしてだったのでしょうか。」



 何がとは言わず、そう尋ねるとガボット公爵は笑った。



「あれにはもったいない。それに、、、幸せだろう?」



 その言葉に、リナリーは息を呑んだ。



「シバ殿。」

「はい。」

「娘をよろしく頼みます。」

「大切にします。」



 多くは語らず、ガボット公爵は礼をすると立ち去った。



「良かったのか?」

「えぇ。、、、私の事を少なからず考えて下さっていた事が分かりましたので。」



 自分が思っていた以上に父は自分の事を思ってくれていたのだという事が短い会話で感じられた。

 それだけで満足だ。



「シバ様。ありがとうございます。」

「いや、義父上にお会い出来て良かった。」



 二人は寄り添い笑みを交わしあった。
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