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こんにちは魔王様6
しおりを挟む心臓がドキドキと鳴って煩い。
自分が魔王様に嫁ぐという事は分かっていた。ただ、本当には解っていなかった。
なんとなく、婚約破棄をされ、思惑を知り、これも運命ねーなんてのほほんと思っていた自分が恨めしい。
いや、結婚だ。
しかも、あの美丈夫の魔王と。
しかもやたらと甘い言葉を吐いてくる。
なんなのだこれは。
なんなのだこの感情は。
あの馬鹿で愚鈍な第二王子も見た目はまぁ良かった。だが、自分がこんな感情を抱いた事はない。
心臓が煩い。
だが、このまま逃げていては駄目だ。
リナリーは意を決して、ベットから起き上がりベルでアンを呼んだ。
アンに挨拶をすませ、身支度を整えるとしっかりとした声で、自分を奮い立たけるように言った。
「魔王様にお会いしたいわ。アン、取り次いでくださる?」
アンは待っていましたとばかりに頷いた。
そして、時は来た。
シバからはすぐに了解との連絡を受け、庭でお茶会をする事となった。
心臓が煩い。
何故って?
魔王様がこちらをとても柔らかな笑みで見つめてくるからです。
「あ、あの、魔王様。」
「シバだ。」
リナリーは言われ意味が分からず首を傾げた。
「夫婦になるのに、名前を呼んではくれないのか?」
心臓が、爆発しそうです。
何でしょうかこのフェロモン。私の心臓を爆発させるつもりでしょうか。
「せ、、政略結婚ではないですか。ですから、、」
するとしゅん、、、と魔王様は捨てられた子犬のような眼差しを向けてきました。
これは、なんと、攻撃力が凄いです。
「たしかにそうだが、魔族とは、政略結婚でも愛情を求めてしまうのだ。互いに愛し合いたいと思うのは駄目だろうか。名前で呼んでくれるだけで、俺の気持ちは救われる。、、だが、やはりこんな見た目では、リナリーは恐ろしいだろうか?」
リナリーは爆発しそうな心臓を抑えつつ、最後の言葉が気になり尋ねた。
「こんな見た目?」
「あぁ、魔族はほとんどのものが黒髪に黒目だ。だが俺は魔力の強さ故に目が赤いだろう。これは禍々しい。自分でも分かっている。」
リナリーはじっとシバの赤い紅の瞳を見つめた。
ルビーのように美しく澄んだ瞳だ。恐ろしくは感じない。
「いえ、あの大変美しい瞳かと思います。」
その言葉にシバは息を呑むと、ふっと吐き、嬉しそうに目を細めた。
「ならば、シバと呼んでくれないか?」
「し、、、シバ様。」
その瞬間、大量の花吹雪が空から舞い落ちてきた。それは大変美しく、リナリーは空を見上げながら声を上げた。
「シバ様!綺麗ですね!なんて美しいのかしら!」
光を反射しながら舞う花弁は、虹色に輝く。
しかし、シバにはそれらは目に映らない。
目に映るのは、嬉しそうに笑うリナリーの姿だけである。
リナリーは少し気持ちが落ち着いてくると、はしゃいでしまった自分が恥ずかしくなってきた。淑女の鏡と先日言われたばかりなのに、これでは魔王様に幻滅されてしまう。
ん?
ここで、リナリーは自分の心にふと気付いた。
幻滅されたくないのか?
何故?
政略結婚だ。しかも自分は生贄の様なもの。
この数週間だけでも、魔族とは自分が思い描いていた者達ではなかったと分かった。
皆親切で、愛に溢れている。
人間の国では常に息苦しかったのに、ここでは自由を感じる。
あれ?
「私は、、、今幸せなんだわ。」
リナリーは小さく呟き、シバを見つめた。
こちらを変わらず見つめる瞳から、愛情を感じる。
自分は、この人に幻滅されたくないのだ。
愛情を感じ、幸せなのだ。
私は、、、、この人を、、、、
リナリーは、目の前に置かれた紅茶を一口飲むと、ふぅと息を吐いた。
顔が次第に赤く染まっていく。
ただ、不意に気になった。
この人は言った。
『魔族とは、政略結婚でも愛情を求めてしまうのだ。互いに愛し合いたいと思うのは駄目だろうか。』
政略結婚の相手でも、、ということは自分でなくてもいいのではないだろうか。
そう考えると、お腹の中から冷え込むように身体が寒くなってきた。
「リナリー?顔色が悪い。大丈夫か?」
リナリーは顔を上げ、シバを見つめた。
心配して下さる。暖かな愛情を感じる。けれどこれは私でなくても向けられた物だ。
「ごめんなさい。少し気分がすぐれませんの。」
「気が付かなくてすまない。無理をしたのだろう。部屋に行こう。」
シバはそう言うとリナリーを大切な宝物を扱うかのような優しい手つきで抱き上げ、歩き始めた。
リナリーは驚いたものの、その優しさが嬉しくてそっとシバの首に手を回すと、その身を預け、顔をシバの胸に埋めた。
あぁ、私はこの人に自分を見てほしいのだ。
政略結婚の相手ではなくても、自分を見てほしいのだ。
リナリーは瞳から溢れる涙をとめることが出来なかった。
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