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五話 招かれざる客
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アレクサンダーが竜の庭を訪れてからすでに二か月が経とうとしていた。あれから竜達に宝物の中でどれが一番気に入っているか聞いて回ったりもしてみたが、今のところどれもこれも、はずればかりである。暗黒竜に至っては、何度話を振って見ても、話を聞いてもいない。いつもうっつらうっつらと眠たそうにしている。
メルルは暗黒竜に頼まれたからと言って竜の世話の合間にアレクサンダーの世話を、アレクサンダーがいくら断ってもやいていた。
一緒に風呂に入れられそうになったり、一緒に寝ようと布団の中に押し込まれたり、アレクサンダーはその都度真っ赤になりながら逃げ回る事になるのだが、それをメルルは楽しみはじめ、アレクサンダーは毎回泣きそうになる。
「メルル。あのな、俺は男なの。いいかい?男はね、狼なんだからそんなことしちゃいけません!」
何が楽しくて竜の宝物にひたすらちゅっちゅっとキスしなければならないのかと思いながら、ひたすらに宝物にキスし続けながら、それを眺めるメルルにお説教を続ける。
「良く分からないの。それってなんのたとえなの?人間は、狼にはならないのでしょう?」
「そうだよ!ならないよ!でもね、狼のように、そう、狼のようにガオーってなるのだよ。」
体で狼のように構えて真似をしながらそう言うと、メルルは肩をすくめる。
「何それ?それは男だけなるの?」
「そう!って・・いや、そういう女の人も・・いないことも・・ない・・けど。」
「なら、私もガオーってなるの?アレクサンダーもなるの?」
アレクサンダーは両手で顔を覆うと首を横に振る降ると振った。
「ならないです。多分、ならないはずです。」
何故か敬語を使い始めるアレクサンダーに、メルルはクスクスと笑い声を上げる。
「ならいいじゃない!ふふ。でも、なる時は教えてね?」
もし狼になる日が来た時には、アレクサンダーはメルルに殴られるかもしれない。勇者だけれども、女の子には勝てそうにない。
「はぁ・・メルル。俺はね、女の人には弱いんだ。だからあんまりいじめないでくれ。」
「あら、それ以外だったら強いの?」
「もちろん。負けた事はないよ。」
アレクサンダーがにっこりと笑ってそう言った時であった。
竜達の咆哮が聞こえ、メルルは慌てて立ち上がると綿毛の上に勢いよく飛び乗った。その瞬間風が起こり、メルルを上空の穴へと飛ばす。
何度見ても仕組みが分からないと思いながら、アレクサンダーもその後ろからメルルを追った。
洞穴の外へと出ると、いつもは広がる青空に雷雲がかかり、竜達が一か所に集まって、空に渦巻いている。
「何だっ!?どうした?!」
「これはっ!?アレクサンダー!走るわよ!」
メルルは花の咲きほこる草原を駆け抜け、竜達が集まっている方向へと急ぐ。アレクサンダーは後ろから駆けて行きながら、上空を飛び、炎を吐く竜達の争いに目を奪われた。
竜達の中央に何かがいる。
「あれは・・まさか魔獣か!?」
大きな翼を持った赤黒い三つ目の魔獣が、耳をつんざくような雄叫びを上げながら竜達に襲い掛かっている。
メルルは暗黒竜の姿を見つけると駆け寄った。
「暗黒竜様!どうしたの!?」
暗黒竜は警戒するように鼻から燻る煙を出しながら、メルルに言った。
「魔獣だ。どうやら竜を喰らって力をつけようと飛んできたようだよ。」
メルルはその言葉に青ざめると、暗黒竜の鱗に震える手を乗せて尋ねた。
「だ、大丈夫よね?」
今まで大きな争いが起こったことはない。何かがあったとしても、暗黒竜がいれば最終的に全てが丸く収まっていた。
この竜の庭で一番強いのは暗黒竜だ。だから暗黒竜さえ大丈夫だと言えば、メルルの心配は消えるはずだった。
暗黒竜は不安げなメルルの姿をみて優しげな瞳を向けると、次にアレクサンダーの方へと視線を変えた。
真っ直ぐにアレクサンダーを見つめる。そして静かに言った。
「メルルを頼むよ。人間の我が子よ。お前を見つけた時から、メルルをお前に託すと決めていた。」
アレクサンダーは一瞬驚いたように目を開くが、すぐに大きく頷いた。
「分かった。」
「え?どういう意味?暗黒竜様?!」
メルルは暗黒竜とアレクサンダーを見て、焦った様子である。そんなメルルの顔に暗黒竜は顔を寄せてキスをすると、アレクサンダーに言った。
「その子は我らが大切に育ててきた愛しい子だ。傷つければ首が飛ぶと思えよ。」
「命にかけて、守ると誓おう。」
「助けてやったかいがある。」
暗黒竜はそう言うと大きく翼を広げた。翼が風を生み、メルルの髪は突風になびく。
「暗黒竜様!?」
「メルル。幸せにおなり。」
「暗黒竜様!!!」
一瞬にして暗黒竜は上空へと舞い上がる。それを呆然と見つめるメルルの腕をアレクサンダーは掴むと言った。
「メルル!しっかりしろ。逃げるぞ!」
「嫌、嫌、嫌!」
メルルはアレクサンダーの腕を振り払うと、竜達に少しでも近づこうと草原を駆けだした。
「メルル!」
アレクサンダーはメルルを追いかけるが、魔獣が飛ばす火の玉がメルルの方向へと飛んでくるのが見える。
「メルル!」
アレクサンダーはメルルの背を押して、近くの泉へとそのまま一緒に飛び込んだ。
メルルは暗黒竜に頼まれたからと言って竜の世話の合間にアレクサンダーの世話を、アレクサンダーがいくら断ってもやいていた。
一緒に風呂に入れられそうになったり、一緒に寝ようと布団の中に押し込まれたり、アレクサンダーはその都度真っ赤になりながら逃げ回る事になるのだが、それをメルルは楽しみはじめ、アレクサンダーは毎回泣きそうになる。
「メルル。あのな、俺は男なの。いいかい?男はね、狼なんだからそんなことしちゃいけません!」
何が楽しくて竜の宝物にひたすらちゅっちゅっとキスしなければならないのかと思いながら、ひたすらに宝物にキスし続けながら、それを眺めるメルルにお説教を続ける。
「良く分からないの。それってなんのたとえなの?人間は、狼にはならないのでしょう?」
「そうだよ!ならないよ!でもね、狼のように、そう、狼のようにガオーってなるのだよ。」
体で狼のように構えて真似をしながらそう言うと、メルルは肩をすくめる。
「何それ?それは男だけなるの?」
「そう!って・・いや、そういう女の人も・・いないことも・・ない・・けど。」
「なら、私もガオーってなるの?アレクサンダーもなるの?」
アレクサンダーは両手で顔を覆うと首を横に振る降ると振った。
「ならないです。多分、ならないはずです。」
何故か敬語を使い始めるアレクサンダーに、メルルはクスクスと笑い声を上げる。
「ならいいじゃない!ふふ。でも、なる時は教えてね?」
もし狼になる日が来た時には、アレクサンダーはメルルに殴られるかもしれない。勇者だけれども、女の子には勝てそうにない。
「はぁ・・メルル。俺はね、女の人には弱いんだ。だからあんまりいじめないでくれ。」
「あら、それ以外だったら強いの?」
「もちろん。負けた事はないよ。」
アレクサンダーがにっこりと笑ってそう言った時であった。
竜達の咆哮が聞こえ、メルルは慌てて立ち上がると綿毛の上に勢いよく飛び乗った。その瞬間風が起こり、メルルを上空の穴へと飛ばす。
何度見ても仕組みが分からないと思いながら、アレクサンダーもその後ろからメルルを追った。
洞穴の外へと出ると、いつもは広がる青空に雷雲がかかり、竜達が一か所に集まって、空に渦巻いている。
「何だっ!?どうした?!」
「これはっ!?アレクサンダー!走るわよ!」
メルルは花の咲きほこる草原を駆け抜け、竜達が集まっている方向へと急ぐ。アレクサンダーは後ろから駆けて行きながら、上空を飛び、炎を吐く竜達の争いに目を奪われた。
竜達の中央に何かがいる。
「あれは・・まさか魔獣か!?」
大きな翼を持った赤黒い三つ目の魔獣が、耳をつんざくような雄叫びを上げながら竜達に襲い掛かっている。
メルルは暗黒竜の姿を見つけると駆け寄った。
「暗黒竜様!どうしたの!?」
暗黒竜は警戒するように鼻から燻る煙を出しながら、メルルに言った。
「魔獣だ。どうやら竜を喰らって力をつけようと飛んできたようだよ。」
メルルはその言葉に青ざめると、暗黒竜の鱗に震える手を乗せて尋ねた。
「だ、大丈夫よね?」
今まで大きな争いが起こったことはない。何かがあったとしても、暗黒竜がいれば最終的に全てが丸く収まっていた。
この竜の庭で一番強いのは暗黒竜だ。だから暗黒竜さえ大丈夫だと言えば、メルルの心配は消えるはずだった。
暗黒竜は不安げなメルルの姿をみて優しげな瞳を向けると、次にアレクサンダーの方へと視線を変えた。
真っ直ぐにアレクサンダーを見つめる。そして静かに言った。
「メルルを頼むよ。人間の我が子よ。お前を見つけた時から、メルルをお前に託すと決めていた。」
アレクサンダーは一瞬驚いたように目を開くが、すぐに大きく頷いた。
「分かった。」
「え?どういう意味?暗黒竜様?!」
メルルは暗黒竜とアレクサンダーを見て、焦った様子である。そんなメルルの顔に暗黒竜は顔を寄せてキスをすると、アレクサンダーに言った。
「その子は我らが大切に育ててきた愛しい子だ。傷つければ首が飛ぶと思えよ。」
「命にかけて、守ると誓おう。」
「助けてやったかいがある。」
暗黒竜はそう言うと大きく翼を広げた。翼が風を生み、メルルの髪は突風になびく。
「暗黒竜様!?」
「メルル。幸せにおなり。」
「暗黒竜様!!!」
一瞬にして暗黒竜は上空へと舞い上がる。それを呆然と見つめるメルルの腕をアレクサンダーは掴むと言った。
「メルル!しっかりしろ。逃げるぞ!」
「嫌、嫌、嫌!」
メルルはアレクサンダーの腕を振り払うと、竜達に少しでも近づこうと草原を駆けだした。
「メルル!」
アレクサンダーはメルルを追いかけるが、魔獣が飛ばす火の玉がメルルの方向へと飛んでくるのが見える。
「メルル!」
アレクサンダーはメルルの背を押して、近くの泉へとそのまま一緒に飛び込んだ。
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