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二十話 ショーンという男
しおりを挟むショーンはヴィクターの言葉に視線を泳がせ、うなずくと言った。
「ならば、ヴィクター殿も一緒でいいので、話をさせてくれないか」
ヴィクターはどうする?と問うようにライカへと視線を向けた。
ライカはうなずき、侍女にお茶を入れてもらう。
ショーンはおずおずとした様子でヴィクターとライカの前のソファへと腰を下ろすと、視線を泳がせ、そして手をぐーぱーと開いたりして落ち着きがない。
お茶を焦った様子で飲んで、「あちっ」と、作法さえなっていない様子に、ライカはショーンとはこういう人だっただろうかと小首をかしげた。
身近にいた年の近い男性はショーンだけだった。
けれど今はヴィクターが傍にいる。だからなのだろうか。以前は輝いて見えたショーンが、頼りのない男性に思えてしまった。
「ショーンお義兄様……何のお話ですか?」
その言葉に、ショーンはびくりと肩を震わせると、ちらりとライカを見てからヴィクターに視線を移し、ヴィクターの睨みつけるような瞳に小さく「ヒッ」とみっともなく声を漏らした。
いったい何なのだろうかとライカが思っていると、ショーンは突然ソファから下り床の上に土下座をした。
「すまなかった!」
「え?」
ライカは突然のショーンの行動に驚いていると、ヴィクターが口を開いた。
「突然の訪問、突然の土下座、突然の謝罪。失礼だがショーン殿。貴殿はライカ嬢のことを甘く見ているのではないか。もしこれが誠意というならば、それは勘違いだ。ライカの両親がいる前でならまだわかるが、ライカにだけとは、なんという見下げた男だ」
辛らつな口調のヴィクターに、ショーンは少し顔をあげると言った。
「ぼ、僕は……ライカにひどいことをした。すまなかった。魔が差したんだ……ライカが可愛くて、ライカなら僕の全てを受け入れてくれると思って……」
魔が差した。
その言葉にライカは小さく息をのむと、口を開いた。
「お義兄様は……本当に私の心なんてどうでもいいのね」
「え? いや、そういうわけじゃ」
「魔が差したなんて、なんてひどい言葉かしら。私は貴方の魔に付き合ってあげる軽い女だと思われていたのでしょう?」
「え……いや、違う! ち」
「違わないでしょう? お義兄様はお姉様を選んだ。そして私は選ばれなかった。そして、お義兄様は私ならば手を出しても文句など言われないと思っていた。私の気持ちを利用しようとしたのね」
「あ……いや……だって、僕は長女のロザリーと結婚しなければ居場所がなくなるし、だから」
その言葉に、ヴィクターは眉間にしわを寄せ、殴りたくなる衝動をぐっと抑えた。
そんなヴィクターの気持ちを察して、ライカはヴィクターの手を握ると言った。
「もういいわ。私にはもう、ヴィクター様がいる。お義兄様、今までありがとうございました。申し訳ございませんが、今はお義兄様を許せるとは言えないの。私に許されなくても関係ないでしょう? ですから、もう帰ってくださいな」
「……ライカ……」
「ライカ嬢。俺が一発殴ってもいいか? 失礼だが、この男はクズだ」
「っひ!」
ライカはヴィクターの言葉にくすくすと笑うと首を横に振った。
「いいえ。ヴィクター様の手が心配ですから。それに……」
すっと目を細めるとショーンをライカは見つめて言った。
「私の身の潔白が証明されれば、ショーン様にもある程度の罰はあるでしょうから、ですから制裁を加える必要はございませんわ」
その言葉に、ショーンの顔色が青ざめていく。
「え? え? だって、え? なんで?」
現状の分かっていないショーンに、ライカは言った。
「あら、だって妻の妹に手を出そうとしたのですよ? しかもその妹は罪を擦り付けられて。そりゃあ何のお咎めもなしとはいかないでしょう?」
ショーンの顔は見る見るうちに血色が悪くなっていく。そんなショーンに大きくヴィクターはため息をつくと、立ち上がって扉を開けて言った。
「さぁ、もう話は終わりだ。俺にけり出されたくなけりゃ、自分で出て言ってくれ」
「っひぃぃ」
ショーンは慌てて立ち上がると、部屋から急いで出ていった。
ヴィクターはショーンが出た瞬間に扉を勢いよく閉め、そして頭をポリポリと掻くと、ライカの横に座りなおした。
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