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十五話 消えた真実の愛

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 胸がドキドキと高鳴り、ルカに抱きしめられていることに安心感を覚える自分が恥ずかしかった。

 気が付けばもうすでに、自分の心はルカに向いているのだと改めて認識させられる。

 地面に倒れたジョゼフは体を起き上がらせると、鼻血を出しながらルカを睨みつけた。

「何をする!」

「っは! 何をする? こっちのセリフだ。人様の婚約者に勝手に触れるな」

 ジョゼフは驚いたように私に視線を向けると声を荒げた。

「エレナの真実の愛は僕のものだ!」

 私はその言葉に、眉間にしわを寄せると怒鳴り声をあげた。

「もう貴方なんて愛していません!」

 その言葉に、ジョゼフは目が点になり、情けない小さな”え?”という声をあげた。

 私は、もう一度はっきりと告げる。

「首を切り落とされたという記憶があります。それなのに、何故未だに貴方を愛せるというのでしょう?」

「え? だって、だって、君は僕を……」

「えぇ。愛していましたわ。全力で。ですが、貴方は? 私のことを愛してくれましたか? 答えがいいえなのはわかっています。貴方が欲しいのは、自分の呪いを解いてくれる都合のいい女なのでしょう?」

「な……違う。僕は」

「違うなら何故私の首を切り落としたのです?」

 いつの間にか、私は泣いていた。

「私は貴方を慕っておりました。愛していました。ですが……貴方は違った」

「そんな、なんで」

 私はルカに寄り添い、そして言った。

「貴方に向けていた真実の愛は消え失せました。もう、ひとかけらも残ってはいないわ」

 その言葉にジョゼフはガタガタと震えだし、そして懇願するように言った。

「嘘だ、お願いだ……最後にもう一度キスしてくれ。きっと、まだ、僕を愛してくれているだろう?」

 私は持っていたハンカチでジョゼフの鼻血をぬぐうと、その唇に自分の唇を押し当て、そして一瞬で離れると、手で唇を拭った。

「ほら、貴方を愛してなどいない証明ができたでしょう?」

「エレナ!」

 ルカは自分のハンカチでエレナの口をごしごしと拭き、ジョゼフを睨みつけた。

 ジョゼフは上着のポケットから小さな手鏡を取り出すと、震えながら、そこに映る自分の姿を見て、全身の力が抜けたように項垂れた。

 呪いは消えることはなかった。

「そんな……僕は……じゃあ……呪いは……」

 ルカはその間に警備の騎士を呼び、そしてジョゼフを地下牢へと連れていくように伝えた。

 ジョゼフはうなだれ、騎士に引き摺られるように連れていかれた。

 かつてのような堂々とした姿は消え失せ、ジョゼフはうつろな瞳で、ぼそぼそと何かを呟いていた。

 私は、かつて愛した人が壊れた瞬間を見た気がして、何とも言えない気持ちになった。

「エレナ」

「え?」

 顔をあげると、ルカにキスされた。

「へ?」

 意味が分からず、混乱する私の後頭部をルカは抑えると、先ほどよりも長く、深く、また唇を重ねてくる。

「ふぇ……んぅ……」

 角度を変えて何度もついばむようにキスをされ、私の頭の中は大混乱である。

 やっと唇が解放されたという頃には、私は息も絶え絶えで、腰をルカに支えられていた。

「る、るかぁ?」

「お仕置き。続きは後で。はぁ……いったん屋敷に送っていく。それから後始末をするから。俺に任せてくれるか?」

 私は驚きながらもなんとかこくんとうなずくと、ルカが甘く微笑んだ。

「ん。もう俺以外とキスしたらだめだからな」

 私は、もう一回うなずくのがやっとだった。



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