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十四話 めり込む拳
しおりを挟む仮面をつけていても、それがジョゼフであることが私にはわかった。
「ジョゼフ様……」
ジョゼフは私に歩み寄ると、優しい声で言った。
「何故、僕から逃げたんだい?」
その言葉に、私はとにかく時間を稼げばルカが来てくれると思い、笑顔をどうにか顔に張り付けると答えた。
「ジョゼフ様、私が何故逃げたのだと思います?」
質問に質問で返すと、ジョゼフは顎に手を当てて少し考えると、小首をかしげた。
「分からないな。だって、君は僕を愛している。なのに、どうして逃げる必要がある? 僕たちは真実の愛を分かち合い、これから生きていく定めだというのに」
「愛?……愛ですか?」
私の首を、あっさりと切り落とすことに賛同した貴方が、私に愛を乞おうというのか?
胸のあたりがキリキリと痛み、目の前にいるジョゼフに怒りを覚える。
「君が僕を愛していないなら、呪いは解けないはずだ。僕はね、知っているんだよ。僕の呪いを解いてくれたのは君だ。あの嘘つき女ではない」
その言葉に、私はジョゼフが前の時間軸のことを覚えているのではないかと思った。そして確信が欲しいと、私はゆっくりと口を開く。
「どうして私が呪いを解いたと? 何故確信をもっているのです?」
「それは……」
「今回は、私の首を切り落とさないのですか?」
直接的なその言葉に、ジョゼフの目が見開かれ、そして視線を泳がせたのちに、なるほどと小さく呟いた。
「そうか……君も覚えているのか?」
その言葉に、やはりジョゼフも覚えているのだと私は思い、唇を噛んだ。
「よく、首を切り落とした女に愛を乞えますね?」
「違うんだ。あの時は、君ではないと、あの女が僕をだましたんだ! 君が僕の運命の相手だと知っていたら」
「知っていたら首を切り落とさなかった? ふふふ。切り落としておいて、よくそんなことが言えますね」
「エレナ……お願いだ。僕には君しかいない。これを見てくれ」
ジョゼフは仮面を外すと、呪いを夜風にさらした。
私はその姿に驚いてしまう。
「呪いが……戻ったのですか?」
「そうだ……前の時には、こんなに早くなかったのに。お願いだ。君しかいないんだ。僕には、僕に真実の愛をもたらしてくれるのは君しかいないんだ!」
そういうとジョゼフは私の腕を引っ張り、私を抱きしめた。
背筋が一気に冷めていく。ぞわぞわとした嫌悪感が私を満たし、私は恐怖で体がすくむ。
「呪いを解いてくれ。さぁ、キスを」
「っひ!」
ジョゼフの顔が近づいてくる。けれど、次の瞬間、ジョゼフの顔面に拳がめり込んでいくのが、スローモーションで見えた。
「え?」
「ぐふっ!」
ジョゼフは顔面を拳で殴りつけられ、体が地面にたたきつけられた。
「俺のエレナに触るな」
ルカが冷ややかな視線でジョゼフを睨みつけ、私の体を抱きしめた。
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