10 / 16
十話 天国かもしれない
しおりを挟む
アーティスト王国へ渡るのにかなりの時間が要するのではないかと考えられていたが、荷物を最小限にしたことで迅速に移動を開始することが出来た。
ほとんどの使用人がついてきたのだが、あまり大人数になって目立ってはいけないと、時間と経路は分けて使用人は三つの班に分けて移動したらしい。
どんな手を使ったのか、アーティスト王国へと移住する話はとんとん拍子に進み、そして今、エレナはアーティスト王国の王都にある屋敷でゆっくりと紅茶を飲んでいた。
何というか、処刑台というものが遠ざかったからか、エレナはとにかく幸せな気持ちでいっぱいだった。
「ここは天国かもしれないわ」
そんな言葉を口にするたびに侍女たちはくすくすと笑う。
「たしかにお嬢様にとっては天国かもしれませんね」
「王子殿下の婚約者になってから、毎日が大忙しでしたものね。こんなにゆっくりとなさるお嬢様を見たのは何年ぶりでしょうか」
侍女たちの言葉に、たしかにそうだなと思い至る。
ジョゼフの婚約者になってからというもの、ジョゼフと一緒にお茶を飲んだり出かけたりする以外のゆっくりとした時間はほぼなかった。
それ以外の時間は勉強に費やされており、エレナが自由に過ごせる時間はほぼなかった。
こうなってみてやっと自分がどれだけジョゼフに縛られていたのかがエレナにはわかった。
「はぁぁぁ。こうやってゆっくり過ごせるって、幸せねぇ」
そんなことを呟いたエレナに、侍女たちは微笑みを浮かべると、少しいたずら気に口を開いた。
「ですが、ルカ様が第四王子殿下となった以上、あまりのんびりとはしていられませんわ」
「そうですねぇ。ふふふ。第四王子殿下の婚約者に正式になる日も近そうですものねぇ」
その言葉に、エレナは体をこわばらせると、頬を朱に染めると、ちびちびと紅茶を口に運んだ。
アーティスト王国にたどり着いた時、ルカからエレナは彼の素性を初めて明かされた。
ルカは自分の意思でアーティスト王国から出たのだという。
そして孤児として生きていたのだという。なんでもその当時、王位継承についてアーティスト王国ではもめていたらしく、兄らの争いに巻き込まれたくなどないと自分で判断し、国を出たとのことだった。
元々王族の暮らしを窮屈に思っていたようで、自由になったことが楽しかったとルカは呟いていた。
ルカは第四王子である証を持っており、アーティスト王国側にそれを見せることですぐに受け入れられた。今までルカの行方をアーティスト王国側も手を尽くして探していたようで、国王も王妃も泣いて喜んだという。
すでに王太子は第一王子で決定され、争っていた第二王子、第三王子はすでに王位継承権を放棄し、それぞれ王族から退き、公爵家の跡取りと辺境伯の跡取りとなったらしい。
もめたはもめたらしいが、ルカが残した王族同士が争うことがいかに不毛なことなのか書き綴った置手紙を読んで、兄達は頭を冷やしたらしい。
ある意味王位継承の諍いを諫めた功労者はルカであるともいえた。
まぁそんなこんなでルカは第四王子として認められたのはよかったのだが、問題はそこではなかった。
アーティスト王国についてからというもの、ルカから毎日のように花をもらい、そして愛の告白をされるようになったのである。
「ル……ルカったら、そんな素振り今までなかったのに……」
ごにょごにょと呟くエレナに、侍女たちは何とも言えない生暖かい微笑みを向けるのであった。
ほとんどの使用人がついてきたのだが、あまり大人数になって目立ってはいけないと、時間と経路は分けて使用人は三つの班に分けて移動したらしい。
どんな手を使ったのか、アーティスト王国へと移住する話はとんとん拍子に進み、そして今、エレナはアーティスト王国の王都にある屋敷でゆっくりと紅茶を飲んでいた。
何というか、処刑台というものが遠ざかったからか、エレナはとにかく幸せな気持ちでいっぱいだった。
「ここは天国かもしれないわ」
そんな言葉を口にするたびに侍女たちはくすくすと笑う。
「たしかにお嬢様にとっては天国かもしれませんね」
「王子殿下の婚約者になってから、毎日が大忙しでしたものね。こんなにゆっくりとなさるお嬢様を見たのは何年ぶりでしょうか」
侍女たちの言葉に、たしかにそうだなと思い至る。
ジョゼフの婚約者になってからというもの、ジョゼフと一緒にお茶を飲んだり出かけたりする以外のゆっくりとした時間はほぼなかった。
それ以外の時間は勉強に費やされており、エレナが自由に過ごせる時間はほぼなかった。
こうなってみてやっと自分がどれだけジョゼフに縛られていたのかがエレナにはわかった。
「はぁぁぁ。こうやってゆっくり過ごせるって、幸せねぇ」
そんなことを呟いたエレナに、侍女たちは微笑みを浮かべると、少しいたずら気に口を開いた。
「ですが、ルカ様が第四王子殿下となった以上、あまりのんびりとはしていられませんわ」
「そうですねぇ。ふふふ。第四王子殿下の婚約者に正式になる日も近そうですものねぇ」
その言葉に、エレナは体をこわばらせると、頬を朱に染めると、ちびちびと紅茶を口に運んだ。
アーティスト王国にたどり着いた時、ルカからエレナは彼の素性を初めて明かされた。
ルカは自分の意思でアーティスト王国から出たのだという。
そして孤児として生きていたのだという。なんでもその当時、王位継承についてアーティスト王国ではもめていたらしく、兄らの争いに巻き込まれたくなどないと自分で判断し、国を出たとのことだった。
元々王族の暮らしを窮屈に思っていたようで、自由になったことが楽しかったとルカは呟いていた。
ルカは第四王子である証を持っており、アーティスト王国側にそれを見せることですぐに受け入れられた。今までルカの行方をアーティスト王国側も手を尽くして探していたようで、国王も王妃も泣いて喜んだという。
すでに王太子は第一王子で決定され、争っていた第二王子、第三王子はすでに王位継承権を放棄し、それぞれ王族から退き、公爵家の跡取りと辺境伯の跡取りとなったらしい。
もめたはもめたらしいが、ルカが残した王族同士が争うことがいかに不毛なことなのか書き綴った置手紙を読んで、兄達は頭を冷やしたらしい。
ある意味王位継承の諍いを諫めた功労者はルカであるともいえた。
まぁそんなこんなでルカは第四王子として認められたのはよかったのだが、問題はそこではなかった。
アーティスト王国についてからというもの、ルカから毎日のように花をもらい、そして愛の告白をされるようになったのである。
「ル……ルカったら、そんな素振り今までなかったのに……」
ごにょごにょと呟くエレナに、侍女たちは何とも言えない生暖かい微笑みを向けるのであった。
115
お気に入りに追加
3,101
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる