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八話 動揺

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 見る見るうちにルカの顔が真っ赤に染まっていくのをエレナはじっと見つめていた。

 今まで見たことのないルカの表情の変化に、エレナは視線を泳がせたのちに小首をかしげ、そしてもう一度まじまじとルカを見た。

「やめろ。そんな目で見るな」

「え? だって」

 ルカはエレナの頭をわしわしと撫でまわすと大きく息をついてから立ち上がり、そして言った。

「とにかく、今回は絶対に俺がお前を守るから。心配するな。手筈が整い次第この国を出るぞ」

「え? えぇーっと……」

 驚きすぎて涙が止まったエレナに、ルカはふっと笑うと言った。

「別に、今すぐに返事はしなくていい。お前にとって俺が兄のような存在だってことは理解している」

「あ、え、えっと」

「涙が止まったならいい。じゃあ俺は今後のことについて話をつけてくるから、お前は寝ていろ」

 ルカはそういうとひらひらと手を振って部屋から出て行ってしまった。

 呆然とルカの出ていった扉を見つめていたエレナは、ベッドのへとそのまま後ろに倒れ、そして天井を見つめると近くにあった枕をぎゅっと抱きしめた。

「え? え? え?」

 先ほどのルカの言葉が頭の中をぐるぐると回るのをエレナは感じ、枕に顔を埋めると悶絶した。

 あのルカが自分のことを好き? あの、ルカが?

 突然のこと過ぎてエレナは理解が出来ないでいた。


 その頃、ルカはというと自室に一度戻ると大きく息を吐いてうずくまっていた。

 言ってしまった。やってしまった。

 傷心のエレナに付け入るなんて真似は卑怯だとはわかっていても、それでももう自分を抑えられなかった。

 好きだ。諦めようと何度も思ったが、無理だ。もう、我慢できない。

 たとえ卑怯だと言われようと、エレナをもう他の誰にもやるつもりなどない。

 けれどそのためにはやらなければならないことが山積みである。それに、ルカとしてはエレナを傷つけた者をそのまま放置する気もなかった。

「エレナを傷つけておいて、ただで済むと思うな」

 実のところ、ルカは自身の出自については覚えていた。ただ、国に戻ったところで自分の居場所などないと考えていたから、この国でエレナの傍にいたのだ。

 だから誰にも言ったことがなかった。

 けれどおそらくエレナが体験したという前の時間で、自分はその権力を手にする必要があると判断してエレナの傍を離れたのだろう。

 急がなくてはならない。

「遠慮など、もうしない」

 ルカはそう呟くと立ち上がり、気を引き締めて自室を出た。




 
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