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七話 疲れはてたエレナ

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 ジョゼフが何とか帰り、エレナは全力を使いきったとばかりにベッドの上へと沈んでいた。

「つ、つかれたわ」

 屋敷の中は未だにあわただしく、着実にこの国から出ていく準備が整えられていく。ジョゼフはそんなこととは思ってもみないだろう。

 エレナはベッドの上で寝がえりを打つと、静かに考える。

 本当にいいのだろうか。

 家族を巻き込んで、ジョゼフから逃げてもいいのだろうかと思うが、その瞬間に首を撥ねられた瞬間の感覚が蘇り、全身が震えだす。

 怖い。

 痛い。

 悔しい。

 様々な感情が押し寄せ、エレナは思わず自分自身を抱きしめながら叫んだ。

「ルカ! ルカ! 来て! お願い!」

 扉の外で控えていたルカは、その声に驚いて部屋へと入ると、ベッドの上でがたがたと震えるエレナに駆け寄った。

「どうした? 大丈夫か?」

「だ、だめ。今更怖い。怖くなって……か、家族を巻き込んでもいいのかしら? でも、怖くて……」

 震えるエレナをルカは思わず抱きしめると、その背中をゆっくりとさすった。

「大丈夫だ。大丈夫。絶対に俺が守る。だから心配するな」

「る、ルカ。るかぁぁぁ」

 涙をあふれさせるエレナを、力いっぱいにルカは抱きしめ、しがみついてくるエレナの姿に、どれほど怖い思いをしたのだろうかと唇を噛んだ。

 心優しいエレナを、傷つけたジョゼフがルカには許せなかった。

 けれどそれ以上に、エレナを一度死なせてしまった自分自身も許せなかった。

「すまない……俺が、お前を助けられなかったから……」

 その言葉にエレナは驚いたように顔をあげると首を横に振った。

「ちが、違うの。ルカは……国の外にいたから、だから……それに、私を助けに、急いで戻ってこようとしてくれて……でも、でも……」

 ぎゅっとルカの服をエレナは掴み、そして涙でぼろぼろになった顔でルカに向かって言った。

「会えなかった……だから、今度は、今度は一緒にいて」

 その言葉にルカはもう一度エレナを抱きしめるとうなずいた。

 幼い頃からルカの気持ちは変わらない。エレナ以外の人を見たことなどない。けれど、その気持ちをこれまで伝えたことはない。

 ジョゼフのことをエレナが好きだったからだ。

 エレナの幸せの邪魔など、ルカはしたいとは思わなかった。自分の気持ちが報われなくても、エレナが幸せならそれでよかったのだ。

 エレナにとって自分が兄のような存在であることは分かっている。

 けれど、これ以上我慢をするつもりはない。

 ジョゼフがエレナを幸せにしないのならば、もう、誰にも譲る気はない。

「好きだ……エレナ」

「え?」

 ルカの言葉に、エレナは目を丸くした。




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