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三話 ルカ

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 エレナは泣きながらルカにこれまでの話をすると、ルカは黙ってその話を聞いていた。そして、話し終えたエレナが泣きつかれて寝てしまったのを確認すると、馬車に公爵家に戻るように伝えた。

 元々この馬車はルカの知り合いの物であり、エレナが落ち着くまで町の中をぐるぐると走らせていたのである。

 エレナの気持ちはわかるが、突然公爵令嬢を他国へなど連れていけるわけもなく、ましてやエレナは王子の婚約者である。

 下手をすれば自分の首が飛んで終わるだろうとルカは思った。

 泣きつかれていてもエレナは美しい。先ほどまでカエルのような声で鳴きながらえぐえぐ言ってる姿すら可愛く見えるのだから自分は重傷だとルカは両手で顔を抑えながら大きくため息をついた。

 ただ先ほどエレナから聞いた話にはルカも驚いていた。

「……時が戻ったか……信じがたいが、エレナが嘘をつくとも、思えない……」

 これまでエレナはルカに対して一度たりとも嘘をついたことがない。

 社交界では様々な称賛を受けるエレナではあるが、ルカの前だと精神年齢がかなり下がる。

 それが可愛くも思える一方で、男として見られていないことにがっくりとしてしまう自分がいた。

 これまでは、エレナの恋を応援してもいた。

 一途に王子のことを想うエレナは可愛らしかった。けれど、今日のエレナは違った。

『もう冷めだぁぁぁぁ。首切られて、好きだなんて、思えないぃぃぃぃ』

「冷めた……のか」

 自分の口から洩れた言葉と、一瞬にやけてしまった口元に、ルカは自分の頬を手でたたくと気を引き締めた。

 エレナが辛い思いをしたというのに、それをよく思うなんてだめだと自分を律する。それと同時にルカは頭の中で先ほどの話を整理するとともに、今後どういう対応をしていくべきか思案する。

「もう、やだぁぁ」

 小さく寝言で呻くエレナの髪をやさしくなで、ルカは頬を伝って落ちるエレナの涙を指で拭った。

 何があったにしろ、エレナを守るのは自分の役目である。それを前の時間軸で自分が出来なかったというのであれば、今回は絶対にエレナを守らなければならない。

「大丈夫。俺が絶対に守る」

 エレナに好かれなくてもいい。

 自分が運命の相手でなくてもいい。

 それでも、幸せに笑っていてほしい。

 だからこそ、ルカは自分にできる限りの手を使ってエレナを守ってみせるとそう誓うのであった。


 
 

 
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