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二話 逃走中
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ぐすぐすと鼻水をすすりながら、エレナは大きなカバンを膝の上にのせて、そして一人の騎士の洋服をぎゅっと掴んだままえぐえぐと泣き続けていた。
「えぐっ。えぐっ。うっぅぅ。ぐえぇぇぇ」
「カエルが百匹以上つぶれたような泣き方をするのはやめてくれ。そしてそろそろいったい何があったのか理由を説明してくれ」
エレナが一緒に馬車に乗っていた相手は、エレナの護衛騎士であり五歳年上のルカであった。ルカは元々は孤児であったがエレナが町で迷子になった時に助けてくれたことから公爵家に拾われ、騎士として育っていた。
そして実のところ、エレナが捕らえられる数日前に隣国アーティスト王国の王族の血がルカには流れていることが判明しアーティスト王国へと行ってしまったのだ。
エレナが牢獄に入れられた時頃に、正式にアーティスト王国の第四王子として迎えられることが決まったとエレナにも知らされた。ただ、牢獄に入れられていたので家族に会えてよかったと伝えることも出来なかった。
ルカは、エレナの状況を知りエレナは絶対にそのような非道なことはやっていないと抗議してくれたが、抗議虚しくエレナは処刑されたのだ。
ルカは幼い頃からずっとエレナの味方をしていてくれた。
だからこそエレナが大きなバック一杯に宝石や金貨を詰め込んで、ルカの腕を掴んで無理やり馬車に乗せ、アーティスト王国へと向かおうとしていても逃げようとはしない。
公爵家の使用人たちは、ルカが一緒だから大丈夫だろうと、どこか可哀そうなものを見るような目でルカを見つめていた。
常軌を逸した行動をしている自分から逃げないでくれるなんてなんとルカは優しいのだろうかとエレナは思いながら、ルカから手渡されたハンカチで涙を拭いて言った。
「お願いだから……お願いだからたずげで」
ぐずぐずと泣きながらそういうと、一瞬ルカは怒りを宿したような色に瞳を変えると言った。
「まさか、王子殿下に無体なことでもされたのか?」
エレナは首を横に振った。
「むしろじたのは私」
「は?」
私はまたぼたぼたと涙を流しながらルカに言った。
「キスじだら……呪いがとげで……それで、ジョゼフ様は知らない女と抱き合って……わだし、処刑された」
「は?」
「ふえぇぇぇっぇぇっ」
涙がひたすらに零れ落ちていく。
ルカは大きくため息をつくと、私の頭をやさしく何も言わずにぽんぽんとなでてくれた。
会いたかった。
死ぬ前にルカに、これまでありがとうと伝えたかった。
でも、会えた今、一緒に逃げてくれとしか言えない。
「もう首切られるのはいやだよぉぉぉぉぉ」
子どものように泣きわめく私の頭を、優しくなで続けられるルカは、相当いい男だと、私は泣きながら思った。
「えぐっ。えぐっ。うっぅぅ。ぐえぇぇぇ」
「カエルが百匹以上つぶれたような泣き方をするのはやめてくれ。そしてそろそろいったい何があったのか理由を説明してくれ」
エレナが一緒に馬車に乗っていた相手は、エレナの護衛騎士であり五歳年上のルカであった。ルカは元々は孤児であったがエレナが町で迷子になった時に助けてくれたことから公爵家に拾われ、騎士として育っていた。
そして実のところ、エレナが捕らえられる数日前に隣国アーティスト王国の王族の血がルカには流れていることが判明しアーティスト王国へと行ってしまったのだ。
エレナが牢獄に入れられた時頃に、正式にアーティスト王国の第四王子として迎えられることが決まったとエレナにも知らされた。ただ、牢獄に入れられていたので家族に会えてよかったと伝えることも出来なかった。
ルカは、エレナの状況を知りエレナは絶対にそのような非道なことはやっていないと抗議してくれたが、抗議虚しくエレナは処刑されたのだ。
ルカは幼い頃からずっとエレナの味方をしていてくれた。
だからこそエレナが大きなバック一杯に宝石や金貨を詰め込んで、ルカの腕を掴んで無理やり馬車に乗せ、アーティスト王国へと向かおうとしていても逃げようとはしない。
公爵家の使用人たちは、ルカが一緒だから大丈夫だろうと、どこか可哀そうなものを見るような目でルカを見つめていた。
常軌を逸した行動をしている自分から逃げないでくれるなんてなんとルカは優しいのだろうかとエレナは思いながら、ルカから手渡されたハンカチで涙を拭いて言った。
「お願いだから……お願いだからたずげで」
ぐずぐずと泣きながらそういうと、一瞬ルカは怒りを宿したような色に瞳を変えると言った。
「まさか、王子殿下に無体なことでもされたのか?」
エレナは首を横に振った。
「むしろじたのは私」
「は?」
私はまたぼたぼたと涙を流しながらルカに言った。
「キスじだら……呪いがとげで……それで、ジョゼフ様は知らない女と抱き合って……わだし、処刑された」
「は?」
「ふえぇぇぇっぇぇっ」
涙がひたすらに零れ落ちていく。
ルカは大きくため息をつくと、私の頭をやさしく何も言わずにぽんぽんとなでてくれた。
会いたかった。
死ぬ前にルカに、これまでありがとうと伝えたかった。
でも、会えた今、一緒に逃げてくれとしか言えない。
「もう首切られるのはいやだよぉぉぉぉぉ」
子どものように泣きわめく私の頭を、優しくなで続けられるルカは、相当いい男だと、私は泣きながら思った。
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