1 / 16
一話 キスしちゃった♡
しおりを挟む
エレナ・ボーンは公爵家の令嬢であり、この国の第一王子の婚約者であった。
深い海のように美しい瞳と、金色の髪を持った少女が社交界にて褒めはやされるのはその外見や品行方正な内面が理由ではなかった。
第一王子ジョゼフ・コール・ロードは呪われた王子だったのである。
ロード王国には百年に一度ほどの周期で、呪われた王子が生まれる。はるか昔に、ロード王国の祖である王子が魔女に呪われ、子々孫々にそれが受け継がれているのである。
ただし、呪いを解く方法はもちろんある。
真実の愛のキスで呪いは解けるのだ。
そしてジョゼフもまた魔女の呪いが引き継がれており、その右顔には呪われた証拠である文様が浮かび上がっていた。
銀色の髪と瞳を受け継ぐ王族ジョゼフの婚約者はそれはそれは慎重に選ばれた。
そして白羽の矢が立ったのがエレナだったのだ。
エレナは幼い頃からジョゼフを支えるようにと教え込まれ、そしてできる限りジョゼフと共に過ごせるように配慮された。
全てはジョゼフの呪いを解くために。
エレナは呪われながらも前を向き、しっかりと王族の務めを果たすジョゼフに好感を持ち、そして次第にそれは愛へと変わっていった。
献身的な令嬢エレナは、社交界ではその姿を褒め称えられていた。
けれどエレナにとってそんな称賛など些細な事であり、ジョゼフの傍に入れることが彼女の幸せだった。
そう。
幸せだったのだ。
エレナは午後の時間をジョゼフと過ごしていた。
いつものことであり、王宮の庭という開放的な場では二人きりで会うことも少なくなかった。
春の風が心地よく、芝生を風が通り抜けていく。
穏やかで温かな日差しに、シートの上に横になっていたジョゼフが目を閉じている。疲れているのだろうとエレナはそっとしていたのだが、不意に昨日読んだ恋愛小説のワンシーンを思い出し、胸がドキドキと高鳴る。
寝ている婚約者にそっとキスをするという文面があった。
呪いは、一緒に過ごし、夫婦となり過ごすことで真実の愛によって消えると言われていた。キスくらいでどうこうなるものではないと思い、エレナはあたりを見回して、離れた場所にいる侍女や騎士が見ていないその一瞬の隙に、ジョゼフの唇にキスをした。
キスしてしまった。
ばくばくと心臓が鳴る。だが、驚いたのは次の瞬間だ。
ジョゼフの呪いの後が一瞬にして消え、エレナは驚いて立ち上がると人を呼びにその場を立った。
けれど、思い返してみればそれが悪かったのだろう。王子を起こせばよかったのに、そうしなかった。
エレナが騎士を呼び帰ってきたわずかな間、何故か見知らぬ令嬢をジョゼフは抱きしめていた。
「え?」
「ありがとう。君のおかげで僕の呪いは解けた」
「で、殿下……」
甘い雰囲気がその場には漂っており、あれよあれよというまに、その令嬢がジョゼフの呪いを解いたことになっていた。
「え?」
そして、気が付けば、エレナには知らない罪が着せられていた。
「は?」
真実の愛をねたみ、自分が愛されなかったことに腹を立てたエレナは令嬢を暗殺しようとして失敗したとされ、悪女として断頭台に立たされた。
「え?」
享年16歳。エレナ・ボーンは断頭台にて首を撥ねられて処刑された。
「ひゃあぁぁぁぁっ」
次の瞬間、エレナは何故か断頭台から、ジョゼフにキスをしている瞬間に戻っていた。
神様のいたずらか、一体何がどうなっているのか。
エレナは慌てて唇を離すと、それを手でごしごしとぬぐった。そして、立ち上がると同時に呪いが消えたのを見て、悲鳴を上げたくなるのを必死で堪えると、全速力で王城から逃げ出した。
遠くへ逃げよう。
エレナは逃げた。
呪いは解けたから王子はもうそれでいいだろう。だが、処刑されるのは嫌である。
百年の恋も、首を撥ねられれば一瞬で冷めるというものである。
エレナは全速力で逃げたのであった。
「いやぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁ」
逃げる馬車の中で、エレナは叫び声を上げ続けた。
深い海のように美しい瞳と、金色の髪を持った少女が社交界にて褒めはやされるのはその外見や品行方正な内面が理由ではなかった。
第一王子ジョゼフ・コール・ロードは呪われた王子だったのである。
ロード王国には百年に一度ほどの周期で、呪われた王子が生まれる。はるか昔に、ロード王国の祖である王子が魔女に呪われ、子々孫々にそれが受け継がれているのである。
ただし、呪いを解く方法はもちろんある。
真実の愛のキスで呪いは解けるのだ。
そしてジョゼフもまた魔女の呪いが引き継がれており、その右顔には呪われた証拠である文様が浮かび上がっていた。
銀色の髪と瞳を受け継ぐ王族ジョゼフの婚約者はそれはそれは慎重に選ばれた。
そして白羽の矢が立ったのがエレナだったのだ。
エレナは幼い頃からジョゼフを支えるようにと教え込まれ、そしてできる限りジョゼフと共に過ごせるように配慮された。
全てはジョゼフの呪いを解くために。
エレナは呪われながらも前を向き、しっかりと王族の務めを果たすジョゼフに好感を持ち、そして次第にそれは愛へと変わっていった。
献身的な令嬢エレナは、社交界ではその姿を褒め称えられていた。
けれどエレナにとってそんな称賛など些細な事であり、ジョゼフの傍に入れることが彼女の幸せだった。
そう。
幸せだったのだ。
エレナは午後の時間をジョゼフと過ごしていた。
いつものことであり、王宮の庭という開放的な場では二人きりで会うことも少なくなかった。
春の風が心地よく、芝生を風が通り抜けていく。
穏やかで温かな日差しに、シートの上に横になっていたジョゼフが目を閉じている。疲れているのだろうとエレナはそっとしていたのだが、不意に昨日読んだ恋愛小説のワンシーンを思い出し、胸がドキドキと高鳴る。
寝ている婚約者にそっとキスをするという文面があった。
呪いは、一緒に過ごし、夫婦となり過ごすことで真実の愛によって消えると言われていた。キスくらいでどうこうなるものではないと思い、エレナはあたりを見回して、離れた場所にいる侍女や騎士が見ていないその一瞬の隙に、ジョゼフの唇にキスをした。
キスしてしまった。
ばくばくと心臓が鳴る。だが、驚いたのは次の瞬間だ。
ジョゼフの呪いの後が一瞬にして消え、エレナは驚いて立ち上がると人を呼びにその場を立った。
けれど、思い返してみればそれが悪かったのだろう。王子を起こせばよかったのに、そうしなかった。
エレナが騎士を呼び帰ってきたわずかな間、何故か見知らぬ令嬢をジョゼフは抱きしめていた。
「え?」
「ありがとう。君のおかげで僕の呪いは解けた」
「で、殿下……」
甘い雰囲気がその場には漂っており、あれよあれよというまに、その令嬢がジョゼフの呪いを解いたことになっていた。
「え?」
そして、気が付けば、エレナには知らない罪が着せられていた。
「は?」
真実の愛をねたみ、自分が愛されなかったことに腹を立てたエレナは令嬢を暗殺しようとして失敗したとされ、悪女として断頭台に立たされた。
「え?」
享年16歳。エレナ・ボーンは断頭台にて首を撥ねられて処刑された。
「ひゃあぁぁぁぁっ」
次の瞬間、エレナは何故か断頭台から、ジョゼフにキスをしている瞬間に戻っていた。
神様のいたずらか、一体何がどうなっているのか。
エレナは慌てて唇を離すと、それを手でごしごしとぬぐった。そして、立ち上がると同時に呪いが消えたのを見て、悲鳴を上げたくなるのを必死で堪えると、全速力で王城から逃げ出した。
遠くへ逃げよう。
エレナは逃げた。
呪いは解けたから王子はもうそれでいいだろう。だが、処刑されるのは嫌である。
百年の恋も、首を撥ねられれば一瞬で冷めるというものである。
エレナは全速力で逃げたのであった。
「いやぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁ」
逃げる馬車の中で、エレナは叫び声を上げ続けた。
136
お気に入りに追加
3,100
あなたにおすすめの小説
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる