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七話 トーマス様は良い人過ぎる
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クラス中の視線が私達に集まっており、トーマス様は小さくため息をつくと言った。
「今日の授業は休んでも問題ないものだろうか」
「え? あ、はい。大丈夫だと思います」
エレン様との婚約がなくなった今、真面目に授業を受けなくてもノートを取る必要がないので問題ない。
そもそもこの授業もエレン様の為に受講していたもので、受けなくても教科書を読めば内容は理解できる。
「では、場所を変えよう」
「はい」
今回はトーマス様はどのような要件だったのだろうかと思いながら後ろをついていくと、今日はそのままトーマス様の馬車に乗って移動をするようであった。
馬車の中には侍従が控えており、二人きりではない。
どこに行くのかも尋ねずにいたので、馬車が走る風景を窓越しに見つめながらだいたいどちらの方面へと進んでいるのかを把握する。
「……行きつけの店がある。そこへ向かっているんだ」
「そうなのですね」
トーマス様と行けるならばどこでもいいなんてことを考えていると、小さくため息をついてからトーマス様が口を開いた。
「君は、これまでエレン殿からどのような扱いを受けてきたんだ?」
「え?」
奴隷のような扱いですと、はっきり言うのははばかられて、何と答えればいいのだろうかと悩んでしまう。
「そう、ですねぇ……」
私は出来るだけオブラートに包んで、奴隷のような扱いを受けてきたことを話をした。けれど、私が話をすればするほどに、トーマス様の顔色は悪くなっていく。
「デートですっぽかされたり、途中で町の中で置き去りにされたりもあったと?」
「はい」
「殴られるのも、当たり前だったと?」
「えっと……はい」
「命令され、それに従わなければ体罰もあったのか?」
「体罰というか……お仕置きというか……」
オブラートに包んだはずなのに、全く包まれていない言葉で返されてしまい、私は何とも居心地が悪い。
「ですが、婚約破棄していただけましたし……もう奴隷生活も終わりですし……」
「簡単に終わらせていい話ではないぞ。君は、自分が不当な扱いを受けていることにもっと怒るべきだ」
「そう、でしょうか?」
「そうに決まっている。だが、はぁ。まぁ婚約破棄できたことは本当に不幸中の幸いだったな。君にもこれからきっといい縁談が来るだろう」
「え?」
「ん?」
私は苦笑を浮かべます。
「婚約破棄された私に来るのは後妻の話くらいですよ。ふふ。まぁエレン様よりはいい縁談かもしれませんが」
くすくすと思わず笑っていると、トーマス様が動きを止めた。
「なん、だと?」
「え?」
私にとっては当たり前の事だったのですが、優しいトーマス様は、そんなこと思ってもみないようでした。
「今日の授業は休んでも問題ないものだろうか」
「え? あ、はい。大丈夫だと思います」
エレン様との婚約がなくなった今、真面目に授業を受けなくてもノートを取る必要がないので問題ない。
そもそもこの授業もエレン様の為に受講していたもので、受けなくても教科書を読めば内容は理解できる。
「では、場所を変えよう」
「はい」
今回はトーマス様はどのような要件だったのだろうかと思いながら後ろをついていくと、今日はそのままトーマス様の馬車に乗って移動をするようであった。
馬車の中には侍従が控えており、二人きりではない。
どこに行くのかも尋ねずにいたので、馬車が走る風景を窓越しに見つめながらだいたいどちらの方面へと進んでいるのかを把握する。
「……行きつけの店がある。そこへ向かっているんだ」
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「君は、これまでエレン殿からどのような扱いを受けてきたんだ?」
「え?」
奴隷のような扱いですと、はっきり言うのははばかられて、何と答えればいいのだろうかと悩んでしまう。
「そう、ですねぇ……」
私は出来るだけオブラートに包んで、奴隷のような扱いを受けてきたことを話をした。けれど、私が話をすればするほどに、トーマス様の顔色は悪くなっていく。
「デートですっぽかされたり、途中で町の中で置き去りにされたりもあったと?」
「はい」
「殴られるのも、当たり前だったと?」
「えっと……はい」
「命令され、それに従わなければ体罰もあったのか?」
「体罰というか……お仕置きというか……」
オブラートに包んだはずなのに、全く包まれていない言葉で返されてしまい、私は何とも居心地が悪い。
「ですが、婚約破棄していただけましたし……もう奴隷生活も終わりですし……」
「簡単に終わらせていい話ではないぞ。君は、自分が不当な扱いを受けていることにもっと怒るべきだ」
「そう、でしょうか?」
「そうに決まっている。だが、はぁ。まぁ婚約破棄できたことは本当に不幸中の幸いだったな。君にもこれからきっといい縁談が来るだろう」
「え?」
「ん?」
私は苦笑を浮かべます。
「婚約破棄された私に来るのは後妻の話くらいですよ。ふふ。まぁエレン様よりはいい縁談かもしれませんが」
くすくすと思わず笑っていると、トーマス様が動きを止めた。
「なん、だと?」
「え?」
私にとっては当たり前の事だったのですが、優しいトーマス様は、そんなこと思ってもみないようでした。
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