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一話 可愛くない女
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鷲色の瞳と髪の毛、化粧で隠そうとしても隠しきれないそばかす。
少し吊り上がった一重の瞳。
鼻筋は高く、薄い唇はいつもへの字型に閉じられている。
そんな彼女の名前はエラ・コーラル。
現在行われている王国主催の舞踏会にて、婚約者であるジャン・グレイに怒鳴られている最中であった。
「お前、本当に可愛くないんだよ!」
決してきらびやかな舞踏会の中央で怒鳴られているわけではない。ただし、会場の端とはいってもかなりの人はおり、野次馬になりくすくすと笑うような声も聞こえる。
鼻息を荒く、ジャンは金色の髪の毛を掻き上げると、大きくわざとらしくため息をつくと言った。
「こんな舞踏会で、本当は言いたくなかったが、いい加減にしろよ」
冷たいその言葉にエラは唇をかみながら、真っすぐにジャンを見つめ、口を開いた。
「いい加減にしろとは、どういうことです。私は正論を言っているだけです。ジャン様の婚約者は、私であって、そちらのご令嬢ではないはずです」
ジャンの横には、ジャンの腕にしなだれかかるように、真っ赤なドレスを着た美しい女性がいた。
ベティ・ベティソン。彼女は子爵家の令嬢であり、今年社交界を沸かせた女性の一人である。
美しいピンクブロンドの髪と、なまめかしい肢体、そして口元にあるほくろがなんとも妖艶な雰囲気を醸し出しており、社交界の薔薇と呼ばれていた。
けれども彼女はジャンの婚約者ではない。
「そういうところが可愛くないんだ。はぁぁ。僕はベティをエスコートするという幸運を得たんだぞ? それなのにどうしてお前なんかをエスコートしなければならないんだ!」
勝手なことばかりを言うジャンに、エラは眉間にしわを寄せると言った。
「幸運? 浮気の間違いでは? 私とあなたとの婚約は家同士で決められたことですよ? それを反故にするとおっしゃるのですか?」
「バカか! そういうところが可愛くないんだと何度もいうだろう!」
「……失礼ですが、ではどうしろと?」
「黙って見ていろ! 僕は彼女の心を得て見せる!」
「まぁジャン様ったらぁ。ベティ恥ずかしいわぁ。うふふ。楽しみですわぁ」
エラとジャンは同じ爵位である侯爵家に生まれ、二人が十三歳の時に爵位も釣り合っているとして縁が結ばれた。
しかし最初からジャンはそれが納得いかなかったようで、これまでもさんざん浮気をしてきたのである。
言い訳は様々。
『とても魅力的な女性を男は放っておけないのさ』
『君に魅力を感じないから仕方ないだろう?』
『こちらに問い詰める前に、自分磨きでもしたらどうだ?』
その度に、エラは家のためだと堪えてきた。
だが今回ばかりはさすがのエラも見過ごすことが出来なかった。
「私たち……もうすぐ結婚するんですよ? これが最後の、婚約者として出る舞踏会なのですよ?」
現在が四月。二人の結婚式は八月である。これからは結婚式の準備であったり、あいさつ回りだったりで忙しい日々が始まるはずである。だからこそ、今回が婚約者として出る舞踏会は最後だ。
最後まで、こんなみじめな立場は、さすがのエラも嫌だった。
「まぁ! それなら婚約破棄でもしたらどうかしら? うふふ。ジャン様。結婚してしまったらもうこうやって私の手を取ることはできませんのよぉ?」
名案とばかりにベティの口から呟かれた言葉に、エラは目を丸くしていく。
周りで野次馬をしていた令息や令嬢からは、こちらをバカにするような笑い声や、呆れたような声、後は、”あんなヒステリックな女と結婚するのはごめんだ”なんていう余計な声も聞こえた。
「な、何を……」
家同士の婚約を何だと思っているのだとエラが口を開こうとした時、ジャンの口が予想外に開く。
「そうだよ。やっぱり、そうだよな! 僕もずっとそう思っていた! けど、家同士のこともあるし、父上はうるさいし、これまで我慢してきたけど、さすがベティ! その通りだよ!」
エラは呆然と目を見開いたまま固まった。
「エラ! お前のような可愛くない女とは婚約破棄だ! ここにいるみんなに宣言する! 僕は彼女と婚約破棄をするぞ!」
大声で叫ばれた声は、タイミングが悪くオーケストラが音楽を止めたタイミングと重なり、舞踏会の会場に嫌になるほどよく響いて聞こえた。
少し吊り上がった一重の瞳。
鼻筋は高く、薄い唇はいつもへの字型に閉じられている。
そんな彼女の名前はエラ・コーラル。
現在行われている王国主催の舞踏会にて、婚約者であるジャン・グレイに怒鳴られている最中であった。
「お前、本当に可愛くないんだよ!」
決してきらびやかな舞踏会の中央で怒鳴られているわけではない。ただし、会場の端とはいってもかなりの人はおり、野次馬になりくすくすと笑うような声も聞こえる。
鼻息を荒く、ジャンは金色の髪の毛を掻き上げると、大きくわざとらしくため息をつくと言った。
「こんな舞踏会で、本当は言いたくなかったが、いい加減にしろよ」
冷たいその言葉にエラは唇をかみながら、真っすぐにジャンを見つめ、口を開いた。
「いい加減にしろとは、どういうことです。私は正論を言っているだけです。ジャン様の婚約者は、私であって、そちらのご令嬢ではないはずです」
ジャンの横には、ジャンの腕にしなだれかかるように、真っ赤なドレスを着た美しい女性がいた。
ベティ・ベティソン。彼女は子爵家の令嬢であり、今年社交界を沸かせた女性の一人である。
美しいピンクブロンドの髪と、なまめかしい肢体、そして口元にあるほくろがなんとも妖艶な雰囲気を醸し出しており、社交界の薔薇と呼ばれていた。
けれども彼女はジャンの婚約者ではない。
「そういうところが可愛くないんだ。はぁぁ。僕はベティをエスコートするという幸運を得たんだぞ? それなのにどうしてお前なんかをエスコートしなければならないんだ!」
勝手なことばかりを言うジャンに、エラは眉間にしわを寄せると言った。
「幸運? 浮気の間違いでは? 私とあなたとの婚約は家同士で決められたことですよ? それを反故にするとおっしゃるのですか?」
「バカか! そういうところが可愛くないんだと何度もいうだろう!」
「……失礼ですが、ではどうしろと?」
「黙って見ていろ! 僕は彼女の心を得て見せる!」
「まぁジャン様ったらぁ。ベティ恥ずかしいわぁ。うふふ。楽しみですわぁ」
エラとジャンは同じ爵位である侯爵家に生まれ、二人が十三歳の時に爵位も釣り合っているとして縁が結ばれた。
しかし最初からジャンはそれが納得いかなかったようで、これまでもさんざん浮気をしてきたのである。
言い訳は様々。
『とても魅力的な女性を男は放っておけないのさ』
『君に魅力を感じないから仕方ないだろう?』
『こちらに問い詰める前に、自分磨きでもしたらどうだ?』
その度に、エラは家のためだと堪えてきた。
だが今回ばかりはさすがのエラも見過ごすことが出来なかった。
「私たち……もうすぐ結婚するんですよ? これが最後の、婚約者として出る舞踏会なのですよ?」
現在が四月。二人の結婚式は八月である。これからは結婚式の準備であったり、あいさつ回りだったりで忙しい日々が始まるはずである。だからこそ、今回が婚約者として出る舞踏会は最後だ。
最後まで、こんなみじめな立場は、さすがのエラも嫌だった。
「まぁ! それなら婚約破棄でもしたらどうかしら? うふふ。ジャン様。結婚してしまったらもうこうやって私の手を取ることはできませんのよぉ?」
名案とばかりにベティの口から呟かれた言葉に、エラは目を丸くしていく。
周りで野次馬をしていた令息や令嬢からは、こちらをバカにするような笑い声や、呆れたような声、後は、”あんなヒステリックな女と結婚するのはごめんだ”なんていう余計な声も聞こえた。
「な、何を……」
家同士の婚約を何だと思っているのだとエラが口を開こうとした時、ジャンの口が予想外に開く。
「そうだよ。やっぱり、そうだよな! 僕もずっとそう思っていた! けど、家同士のこともあるし、父上はうるさいし、これまで我慢してきたけど、さすがベティ! その通りだよ!」
エラは呆然と目を見開いたまま固まった。
「エラ! お前のような可愛くない女とは婚約破棄だ! ここにいるみんなに宣言する! 僕は彼女と婚約破棄をするぞ!」
大声で叫ばれた声は、タイミングが悪くオーケストラが音楽を止めたタイミングと重なり、舞踏会の会場に嫌になるほどよく響いて聞こえた。
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